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第12話 暖かな揺りかご~シン視点~

 「ロサ?寝ちゃった?」


 すぅすぅと穏やかで規則的な寝息が耳に届く。


 昨日も食べながら寝ていたなぁ〜。と思いつつも、きっといきなり与えられた体になれない環境は相当なストレスだろう。


 そういえば子育て中に仕事しながら小学校と幼稚園のPTA役員をやってた年は一年間油断するとすぐ寝てたように思う。あの時は自分も仕事で忙しくて助けてやれなかった。


 つまりストレスや疲れを睡眠で解消しているのかもしれない。


 持たれかかってる体を抱き寄せて羽のように軽い体が心配になりながらも膝の上に乗せて左腕だけで支える。


 「すぐにでもベッドに連れていってあげたいけど、もうすこしまってて。」


 眠るつむじに口付けて目の前の皿を眺める。先程おかわりしたスパゲッティが半分まだ乗っているし、その向こうのフライパンにはもう少し入っている。


 調味料が揃えられなかったのか、味がちょっと違う気がしなくもないが、これはこれで美味しいし、せっかく作ってくれたのに残すなんて考えられない。


 もちろんロサを寝室に寝かせてから続きを食べるという方法もある。その方がロサはゆっくり寝れるだろうと思う。


 かと言ってそれをしないのは広めのこの部屋で一人寂しく食事なんてしたくないし、やっと再会した彼女を片時も離したくないという欲を捨てられない。


 「ごめんな。離してやれなくて。」


 柔らかな髪を避けてこめかみにキスをして食事を再開しながら視線は寝ているロサを見つめる。


 自然と頬が緩んで朱に染まる。


 この存在が愛しくて堪らない。


 この五年、いろんな人に出会った。それこそ良い人にも悪い人にも。それでも心の中は空虚で自分の体なのになにか足りない気すらした。


 「ずっと待っていたんだ。」


 聞こえないとわかりつつも、そっと耳元でささやく。


 あ〜病気かもしれない。ロサ欠乏症からの突発性ロサ満足症候群。


 食べ終わった皿やカトラリー、カップをフライパンに重ねて片手にロサを抱いたままで反対の手でフライパンを持つ。


 「押して開く側でよかった〜。」


 思わずつぶやいた言葉にそんなときだけ反応するのが一人。


 「う〜……ん?」


 「あのぅ〜ロサ?このタイミングど動かれるとちょっと辛いかなぁ〜?」


 「ん〜……ん。」


 よじよじ。ぐりぐり。


 無意識なのだろうか……。首にすがってきたかと思えば頭を肩に擦り付けられる。


 可愛いよ、可愛い。可愛いんだけどね。今じゃない。それをするのは今じゃないんだァァァ!!


 落ちる!落とす!や、落とさないけど!でも落としそうになるから大人しくしててくださいっ!


 なんとかフライパンとその中身を落とさず水平に保ちつつ、ロサを落とさずにすんでホッとしつつ、フライパンはひとまずシンクに乗せて水につけておいた。


 これで憂うことなく両手で抱きしめられるというものだ。


 「これで襲ったりしたら蹴り落とされるのかなぁ。」


 「ん〜?」


 「ごめんなさい。なんでもないです。」


 寝ぼけるタイミング色々と良すぎだろう。


 ロサの頭を肩に乗せて膝裏に左腕を差し込んで右手で背中をなでながら階段に向かおうとして足を止める。


 「卵のこと忘れるとこだった。レア卵なのに。そのまま置いてたら明日の朝騒ぎで起こされそうだから持っていくか。」


 もう一度ダイニングに戻り卵をひとまずバッグに入れて二階の寝室を目指す。


 大きなベッドの真ん中にロサを下ろして、その向こう側に卵を二個並べて布団をかけてやる。


 「俺は風呂済ませようかな。」


 自室に通り抜けて着替えを取り風呂に行く。この家のいいとこは貴族仕様なので寝室と風呂が扉1枚で繋がっているとこだろう。


 湯上がりにガシガシと頭を拭いて、シャツにスラックスという簡単な格好でロサの横に体を寄せる。


 「おやすみ、ロサ。」


 叶うならずっとこの腕のゆりかごで眠り続けて欲しい。そんなことを思いながらそっとその身を抱いて眠りの淵におちてゆくのであった。

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