異世界に転生してニ週間が過ぎた。
引っ越してすぐにでも冒険!と思っていたものの、今日までシンに『先ずはこっちの世界に転生した体に慣れるまでは外に行かない』といわれてしまった。
新しい家に来たからには引っ越しのご挨拶を!と意気込んだが、ここは王都の中心区からの外れで貧民街ではないが、商業区と農村地の中間で周辺の家は空き家か農地で挨拶する相手がいないとまで言われて断念した。
体に慣れるまでとは一体いつまでなのか、慣れるとは何なのか。そればかり考えていたが、いつまで考えていてもしょうがないので普通に生活することにした。
意外なことにシンがこちらに来て5年、最初の転生者がきてからは8年が経過しているようで、軒並み転生者はもとの記憶を保持しており、その知識を活かして世界を大分改革していたらしく、魔石を動力源とした生活機械も確立してきているらしい。
難しいことはわからないけど。
なので、朝食を作って洗濯機を回して干して、ダイニング、キッチン、シンと自分の部屋、寝室を掃除すれば午前が終わり、お昼を用意する。ここまでの流れは毎日固定で、午後からが自由時間。
ひとまずは卵の世話をする。といっても、朝の行動中ずっと手作りのスリングで抱いている。ただそばにいるだけでは魔力を与えていることにはならないが、卵たちは自分のそばにいる者を親とし、匂いを覚えるのだという。
なので出来るだけ側にあるほうがいいというので四六時中いれるようにと、最初はシンの大きめなシャツを借りてお腹の中に入れていたが、服が伸びるとくじょうを頂いたのでスリングを作るに至った。
スリングの中で仲良く並ぶ2つの卵を撫でながら手のひらに魔力を流す。手のひらに熱を集めるイメージを作って撫でれば、中からコチョコチョと突かれるような動きがある。
まるで胎動みたい。
そんなことを考えながら、卵に語りかける。胎教というのは世界共通?らしく、こちらでも妊婦はお腹によく話しかけたほうがいいとされるように、テイマーは卵によく話しかければ知性が高くよく懐く魔物になると言われているらしい。
「今日は暖かいね〜。」
とか。
「今日のお昼はオムレツだったんだよ〜。」
とか。
「さてさて、そろそろ次の糸を作ろうかなぁ〜。」
とか言いつつ卵をなでてキッチンで鍋にたっぷり湯を沸かすべく火にかける。
それから裏庭に行くとたんぽぽを引っこ抜く。
こちらのたんぽぽは綿毛ではなく、綿花のようで綿が取れる。摘んだたんぽぽを草の部分と綿と種に分け、草は裏庭の一箇所にまとめ、綿を盥に集め、種は袋に纏める。
裏庭は王都の敷地を表す城壁まで特に囲いなどもなく購入した敷地より城壁側は国の持ち物らしいがこんなとこに管理者などは来ないらしく、好きにしていいと許可も貰ったので、数日かけて草むしり兼綿花収集が終わったら庭のイメージを決めてから種を撒こうと思う。
ふっふっふ、この二週間ひたすら抜いていたので裏庭はもうすぐ更地である。地味ではあるが単純業は無心でやれるからいい。しかも草むしりは目に見えて成果が分かるのもいい。
とにかくいつ綿花の時期が終わるのか分からないので取れるうちにできるだけ取ろうと午後は殆ど草むしりに追われている。
そうして集めた綿はお湯でよく洗い汚れを落とし、サンルーフに広げて乾かす。
乾いた綿は商業ギルドで貰った裁縫師の七つ道具である糸車で糸にしていく。
糸車の魔法なのかスキルのせいなのかは定かでないが、糸は途切れることなく均一にできていく。この二週間の夜時間があれば糸を紡いでいるのでそれだけで大分【糸紬】のスキルが上がり、同時に基本レベルが上がっているようだ。
実は卵を支えているスリングはこれらの糸を七つ道具にあった機織り機で布を作り、同じく七つ道具の裁縫セットでスリングを作った。
最初に摘んだ綿で初めて織った布でとかく何かつくってみたかった。それがスリングだったというだけなのだ。
とりあえず一つ作品を作ったことで落ち着いたので今は毎日せっせっと綿花採集の日々である。
その間シンはシンで何かしているようだ。詳しく話してくれるまでは気づかないことにしよう。彼とて子供ではない。話したいときは夕食時にでも色々と教えてくれるだろう。
そんなことを考えながら今日も陽は傾くのであった。