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第14話 草を殲滅させる~シン視点~

 ロサが転生して2週間が過ぎようとしていた。


 どうやら魂と体の馴染みが悪かったのか、転生当初のロサは夕食時に船を漕ぐことが多かった。


 それはそれで今は小さな容姿のロサを幼く引き立たせて酷く庇護欲をそそられてとても可愛い。


 しかしそれも一週間もすぎれば段々となくなったものの、夕食後に湯浴みを済ましたロサはすぐにベッドに潜り込むと、俺が湯浴みしてる間に穏やかな寝息を立てていて、せっかくの新居で夢見た甘い時間は未だに過ごせていない。


 彼女はせっかくの異世界にエンジョイする気満々で冒険にすぐにでもでかけたそうではあったがまだこの状況では早いのではないかという懸念と、自分自身、異世界において初めてのマイホームに浮足立っていて、この家をどうやって手を入れていこうか楽しみがある。




 実際、この二週間は馬車留まりにマジックバッグから出した自分の馬車を置き、据え置きの棚や壁に設置されている道具や材料を整理し、自分の物もそこに加えて並べていく。


 「そのうちこの馬車も中を改造しようかなぁ。ロサはどんなのなら喜ぶかなぁ〜。」


 なれぬ世界に戸惑うことも多かろうと暫くはできるだけロサのそばにいたものの『シンは私より長くいるんだから片付けや仕事の準備とかあるんじゃない?私は適当にするから大丈夫だよ。』と笑顔で促されたので今に至る。


 いろんな作業の合間に様子を見れば午前中は家のことをし、午後は裁縫師についてなにかしているようだったが、気がつけば裏庭のたんぽぽが殲滅されていた。


 たんぽぽに恨みでもあるんじゃないかってくらい。根っこも残さずやってるあたりはすごいと思った。


 まぁ、この様子なら放っておいても大丈夫そうだ。


 やっと治まったロサロスはだいぶこたえていたらしい。まぁ、5年もひたすら待ち続けた身としてはやっと腕に閉じ込めたその存在は大きい。


 正直、やっと会えたのだからもう少し甘い時間を堪能したいところではあるが、あまり攻めても彼女のキャパシティを超えてしまっては追い詰めるだけになるだろう。


 ありがたいことにロサは早く寝て早く起きるので今のところ下半身事情はゴッドハンドにがんばってもらうことにする。


 サビシイ……。


 目の前にいるのに。


 メッチャいい匂いする。ある意味拷問。


 ここが頑張りどころ。大人ですから、我慢しますとも。


 クッ……!……解禁いつですか。


 まぁ、それはいいとして。


 このところ朝も昼も馬車留め(自分的にガレージ)に籠もっては中を整理し、馬車の内装を作り変えたりあちこち手を入れれるように作ったりしている。


 自分専用の場所があるってこんなにもいいもんなんだなぁ。とか思いつつも、作業に没頭していると窓を叩く音がするので、そちらを見れば緑の鳥がたたずんでいた。


 素早く窓を開けてやれば鳥は胸に一直線に飛んできたかと思うとカサリと軽い音を立てて落ちてしまう。


 足元に落ちた緑の紙を拾い上げれば細かく几帳面な字で『いつもの時間にいつもの場所で』とだけ書いてある。あいも変わらず筆まめなのか不精なのかわからない手紙である。


 「はぁ、まだそばを離れるつもり無いんだけどなぁ。でも仕事の話かもしれないし。」


 どうしたものかと思いながら用紙を小さく畳んでいるとガレージと家を繋ぐ戸が叩かれる。短く返事をすれば、勢いよく戸が開かれる。


 「シンさんシンさん見て見て!」


 二度ずつ繰り返してる。余程いいことでもあったのかと振り返れば、キラキラとした笑みに赤く高潮した頬が眩しい。これを見よ!と言いたげに伸ばされた両手の間には白い毛玉が握られている。


 「今生まれたの!!」


 『アン!』


 「まさか、フェンリル……?」


 「そうなの!かわいいよねぇ!」


 そう言いながらロサは生まれたてのフェンリルの赤子に頬ずりをしている。


 おいコラ犬っころ。そこは俺のポジション。などと大人気なく思ったりしてない。断じて。思ってなど……。


 「名前はフェルにしたの!」


 「安直すぎない?」


 「でも色が白いからシロ。とか厨二病っぽくヴァイス!とかより種族もわかりやすくてよくない?」


 「まぁ〜、確かに。」


 「それにフェルも気に入ってるもん。ね、フェル!」


 にこにこと毛玉に向かってロサが声をかければ、魔獣フェンリルであろうその赤子はブンブンと千切れんばかりに尻尾を振っている。


 『アン!』 


 元気な返事のフェルにロサがぎゅ〜っと抱擁をすれば、とうのフェルもその首元にグリグリと頭を寄せている。


 だから!そこは俺のポジション!


 まぁ、その反応を見る限り従魔契約は大丈夫なようだ。一年も森に通いつめたかいがあったというものだ。最初は仲間に手伝って貰ったが何度も挑んだ森のダンジョンも最後の方は一人で悠々とダンジョンボスである魔物を倒せるようになった。そのおかげで一日に何度も出入りしてやっと入手した卵がこうして孵化した姿は感慨深いものがある。


 「シンさん!素敵な子をありがとう!」


 『アン!』


 お礼を言う様に主に同調したフェルは、ロサの腕の中で片足を上げている。


 そっと近づいて頭を撫でようとそろそろと手を伸ばす。実は転生前の世界で犬に足を噛まれて以来犬は苦手なのだが、フェルは怯えるでも威嚇するでもなく大人しくしている。そっと頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めて頭をこちらに押し付けてくる。どうやら気持ちいいらしい。


 フェルが生まれたならロサの守りは任せてもいいかもしれない。


 「ロサ、今夜この前あった2人が話があるって言うんだけど仕事の話だといけないからでかけてもいいかな?」


 「いいよ。っというか、シンはこれまでの付き合いだってあるだろうから私に遠慮なんてすることないからね?シンは私の心配ばかりするけど、私は大丈夫だから、楽しんできて。」


 フェルを抱きしめながら笑顔で言われると、自分のことをそれだけ信頼して送り出してくれるのが嬉しい。


 あっちの世界で同僚が飲みに行くと嫁の機嫌が悪くなる。とグチをこぼす奴がいたものだが、ロサは一度もそんなことなかった。お金の心配はされたけど……。


 信じて貰える嬉しさと、ちょっとの罪悪感。それからすこしの我が儘。


 ヤキモチ焼いて欲しい。


 好意は向けられていると思う。でもそれがラブなのかライクなのか……。


 なぁ……俺のことまだ好き?


 今も特別に思ってくれる?


 俺の言動にドキドキしてくれてる?


 そんなこと感じてるの俺だけ?


 交際期間も含めれば連れ添って60年……。それほど長く共にいた。


 もう…飽きちゃった?


 ちゃんと俺のこと見てくれてる?


 その笑顔は俺だけ?


 ほの暗くもたげる感情に蓋をして笑顔のロサの頭を撫でる。


 「じゃぁ、ちょっと行ってくる。」


 そのままなでた手を頬に滑らせて少し上を向かせる。空いている反対の頬に口づけを落とした。


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