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第16話 男の付き合い~シン視点~

 もう少し引き留めてほしかった。


 なんていったら贅沢だろうか。前から思っていたのだがロサは変だ。普通旦那が急に飲みに行くって言ったら多少なりと不快感を表すものではなかろうか。


 しかし、ロサは一切それがない。


 物わかりのいい女。と言ってしまえば聞こえはいいかもしれないが、正直その言い方には抵抗がある。そんな言い方だとまるで第二の女みたいだ。


 そんなつもりは毛頭ない。


 むしろロサ一人で十分だ。他なんて必要ない。


 そんなロサは貞操観念が変。


 普通は恋人や旦那がよその女にちょっかいを掛けようものなら不快感を表すだろう。なんだったら「どんな女を触ったかわからない手で私に触らないで!」とか言ってビンタの一つももらうだろう。嫌だ。ビンタ怖い。


 この世界ですら浮気が許されるのは後継者を残すために地位のある者だけが許される特権で、いわゆる後宮とかハーレムなるものは存在しない。どちらかというと野性的本能のほうが残っていて、たった一人を愛し抜くのが普通で他に目を向けたり口説こうものなら噴飯ものなのだ。


 そんな世界だからこそ俺がロサを5年待ち続けても誰も無理な縁談を持ってこなかった。


 なのに彼女は俺が夜のピンでムフフな店に行こうと「問題ない」という。なに?なんなのその自信。それとも俺の事そんなに信用しているの?男前過ぎない?


 それなのになぜか感想文を求められる。反省文じゃないところがこれまた不思議。って、そんな子供の読書感想文みたいに言うけどそんな爽やかなものじゃないからね。後学のためにって何。ちょっと賢そうな感じ並べてみてもごまかされないし。そもそもいかないからな!


 にこやかに送り出してもらえたのに何故か腑に落ちなくて思わずロサの柔らかな額にキスを落として踵を返す。


 目お見開いてほほを染めてくれたから意趣返しとしては十分だろう。少しだけ足取り軽く約束の場所に向かった。


 以前にロサを連れて行った屋台に二人の男はすでに座っていた。


 「ごめん、待たせたかな?」


 すでに何かしら注文して食べている当たり大分待たせてしまったのかもしれない。まぁ、急に呼ばれたから多少は目をつぶってくれるだろう。


 「いや、俺達も食べ始めたばかりなんだ。シンは何にする?ってかもう食べた?嫁の料理毎日食べてるんだろう?」


 「いや、まだ食べてない。」


 メニューの中から適当にいくつかを頼んで長椅子の端っこに座る。


 「で、どうよ?待ちに待った嫁との生活は。」


 「まぁ、まぁ。」


 「何だよすましやがって。どうせ毎日いいことしてるんだろ。」


 「してないし。ってか酔うの速すぎるだろうユリウス……。」


 「いきなりの下ネタかよ。で、どうなの?」


 「お前も乗るのかよガイラ。」


 「空気は読んだほうがいいかと思ったんだが。」


 「や、空気は吸おうぜ。」


 ガイラの言葉にすかさずユリウスがツッコミを入れる。


 (どっちも間違っちゃいないけど……。)


 そこは空気を読んで突っ込むべきか、おとなしく空気を吸って黙るべきか思案しているとエールが出されたので軽く掲げて一口飲む。


 『で、どうなんだ?』


 「なんで人んちの夜事情気にするんだよ。」


 なんでそこまでの執着を見せるのか。


 「や、五年も待った相手は特別なのかと思って。」


 「お預け長い分反動で気持ちいいのかと思って。」


 一体何から突っ込めばいいのか。


 「気持ちいいも何も手すら握ってないし。」


 ハグをして眠ってはいるけど。とはあえて黙っていようと思う。ロサと俺の名誉のために。


 「え?シンはヘタレなの?」


 「違うし。というか今俺とロサは夫婦じゃないからそういうことするのはおかしいでしょ。それにまだこちらに来たばかりでこっちの世界に慣れる段階であって、無理に囲い込んで追い詰めたいわけじゃないんだよ。」


 ため息交じりに言いつつもエールと出された煮込まれた肉をつつき始める。


 「ああ、そうだ。ロサがこっちに慣れてないからしばらく冒険者稼業は止めようと思ってるんだ。指名もしばらくは断ろうと持ってる。」


 よくパーティを組む二人には断りを入れておこう。それでも緊急や重要案件は手伝うことを伝えると気のいい男たちはニコニコ……ニヤニヤかもしれないが、こちらは気にせず嫁についてやれと言ってくれた。そのうち四人で冒険に行こうとも。


 「どうせ工房の仕事はするんだろ?宣伝しといてやるよ。」


 「そりゃいいな!隠密王子の特製馬車!」


 「ヤメロ~。」


 「ま、なんにせよ嫁を大事にしてやれ。」


 「そうそ。右手と仲良くしているうちは優しくしてやるよ。」


 「ひでぇ~。」


 (そのうち俺は悟りを開けるかもしれない。)


 漠然とした考えを抱きつつぐっとアルコールを体に流し込むのであった。


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