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第17話 綿花の行方

「これでとどめだぁぁぁぁ!」


 ひと際物騒な言葉を力いっぱい唐突に叫ぶと、そばで丸まっていたフェルがビクッと体を波打たせた。


 「キュ~ン。」


 「あ、ごめんね。びっくりさせちゃって。」


 足元で丸くなっていた一見子犬の魔獣フェンリルである銀の毛皮をわしゃわしゃと撫でる。頭の上から頬を通って顎を撫でるとしっぽを振り振りしている。


 かわいい。


 今いるのは家の中にある自室である。


 あたかも魔物でも倒しにかかるような掛け声を上げながら振るわれたのは伝説のエクスカリバーではなく、糸切りバサミである。


 「いやぁ。初めて綿から糸を紡いで機織りしてみたけど、思ったよりは量行ったかも。」


 雑草駆除と思って刈り取っていた時は、両掌大だった綿は洗って乾かして一回り縮んだものの、ここから糸にすればきっと一つの綿花には綿の塊が6つあり、その塊一つでかなりの糸がつむげたのには驚いた。


 120センチ幅で織った布はかなりのものだ。少し青みかかった白いその布の巻物で一体何着分の服になるだろうかと今から使い道をうきうきと考える。


 そのうち染色に手を出すのもありかもしれない。


 柔らかくてさらさらした手障りはまさしくコットンだが、程よく伸び縮みしてねじれにも問題なさそうなこの特性なら下着にいけるのではなかろうか。


 実はこの世界、下着がいわゆるカボチャパンツが一番短い下着で、タイプによっては膝丈の薄いズボンのような作りだ。腰のあたりとズボンの裾を紐で結ぶのはその長さも同じでとにかくかわいくないし、もちろんブラジャーなどというものはなく男女共通タンクトップである。機能性とは……。


 あちらの世界ではブラとパンツはセットで着るが信条だった身としては心もとないことこの上ない。下着といいつつも感覚はノーパンノーブラと変わらないのである。


 「まずは下着を作ろう。ワイヤーとかはわかんないけど、どうにかそれっぽくなればいいのよ。そうだ、そうしよう。」


 そいうわけで作るものは決まった。


 手近な紙に装飾の無いパンツとブラを描く。


 「前身ごろと後ろ身ごろは大きさ違うから長さとカーブの具合を考えて……。型紙作ったほうが確実だろうなぁ。えっと、大きめの紙とメジャー……。」


 ゴムもフックもワイヤーもない。ゴムは紐で代用するとして、パンツはちょっと深めにしてガードルの役目も果たすようにへそ下5センチを目標の丈にして編み上げの紐で締めよう。


 ブラはフックがないなら前開きでパンツ同様編み上げでそろえよう。穴をあけて紐を通すと強度が落ちるだろうから引っ掛けられるようなものが理想だがあまり凹凸があると重ね着した時のごわつきが気になるだろうから厚みは要注意だろう。


 せっかく紐を使う下着なら『脱がせたくなる脱がしやすい下着』というのもいいかもしれない。


 (って、何気にそういうことになっても困らない構造で考えている当たり夫婦感が抜けてないなぁ。今もそうなるとは限らないのに。)


 とはいえ、年頃の女である以上異性に見られて襲いたくなるような下着を着たいと思うのはしょうがないと思う。少なくとも……。


「こんな下着無理。萎える。やる気起きない。」


とか言われてしまうよりはよかろう。や、思ってもそんなこと言ってこないだろうけど。


 まぁ、そんなことはさて置いてもどうせ作るならかわいい下着がいいだろう。


 ってなわけで最初に作るものは切実な実用品へと決まるのだった。



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