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第22話 収穫時期の屋台祭り~シン視点~

 珍しく今日はロサから外出のお誘いがきた。


 住み始めて暫くはやることが見つからなかったのか、家事のあとにちょいちょい俺の様子を見に来てはお茶だの菓子だの差し入れてくれて、甲斐甲斐しく世話をしてくれていた。世話と言うべきか、不安な雛が親を追うようにも思えて酷く庇護欲を駆られたものだ。


 しかし、タンポポを裏庭から殲滅させてからというもの、俺のガレージには顔を出さなくなった。


 午後になると気になって扉をチラチラ見ていたなんてことはない。絶対に。


 サビシクナイモン。


 夢中になったロサは時間も食事も忘れる。毎日夕刻の鐘が鳴ると慌ててバタバタと夕食の準備をしている。別に毎日同じ時間に食べなきゃいけないわけじゃないのでそんなに慌てることないのに。


 そんなこんなで最近のロサは疲れているようで、ベットに入るやいなやすぐに寝息を立ててしまっていた。


 ロサはタンポポが綿花になって糸が出来るって喜んでいたが、実はあのタンポポは普通のたんぽぽじゃない。


 こちらの雑草と言われるタンポポは花が枯れると綿毛になるのだが、同じタンポポの仲間でもたった二種類だけ綿花になる種類がある。


 それは魔力を帯びることのできる特別な種類であり栽培条件も確立していない上、原生地も定かでないので入手方法自体に危険度がないとはいえレア度が高い。


 その2種のうちひとつであるツキミタンポポが敷地内にあったとは驚きである。


 暫く人の手が入っていなかった家らしいので裏庭にあったこともあり、自然繁殖で群生したらしく管理者も一般人だったためこの植物の重要性に気づかなかったと推論されるわけだ。


 そんな貴重種だと気づいたのはすでにロサが半分以上殲滅したあと綿花を洗って干しているときに気づいた。根っこごと持ってギルドに行けばかなりの金額になる量だったが、それは言わないことにした。


 あんなキラキラしたした目で鼻歌交じりに作業する元嫁を見て、それ売りに行こうぜっ☆だなんて誰が言えるだろう。いや、言えない。言えるわけがない。


 あんなに可愛い姿を見れなくなるなんて自らお預け状態にしてしまうなど俺にはできない。


 そんなわけで、まだこの世界のものの価値を知らないロサはただの普通の綿生地を織っているつもりらしいが、見る人が見ればその付与効果に目を見張るレア生地だろう。


 や、俺は鑑定持ってないけど……。

 順調にすべての糸を織り終わった生地をとてもいい笑顔で見せてくれた。


 その生地はとても伸縮性に優れていて、普通の綿じゃない。アキラカニ……。


 しかし、一つの目標を達成しアドレナリン全開のロサはそんなことには気づかないらしい。


 そりゃぁ、そうだろう。ロサが抱えても両手が出会わないくらいには太いロール生地が出来上がっているのだから。


 僅かに青みがかったその生地で何を作るのか訪ねてみたもののまだ思案中とだけ答えられたのは記憶に新しい。


 そんなロサが手芸店へ買い物につれていってほしいということは、何を作るのか決めたのだろう。


 大手の手芸店へ行くことも考えないわけではないが、あそこは上流思考のどぎつい客も利用するし俺の二つ名がお好みの面倒な客も多い。


 前に行ったらひどい目にあった。


 そういう人々の出入りする場所にロサを連れていけるはずがない。 


 なので、お世話になっている裏路地の職人が好む店、白山羊の糸紬に案内した。


 店主にはだいぶからかわれたが、画材箱に飛び込んだと錯覚するような店にロサの目が輝いた。


 その笑顔プライスレス!


 白山羊の糸紬を出ると昼食のため広場に向かった。この時期は収穫期ともあって地方からも出稼ぎが来るほど賑わいを見せる。きっとロサの気に入るものもあるだろう。


 ひとしきり屋台を眺めてから引き返して気になった店で買い物をすると、噴水そばにあるベンチに座ってゆっくり食べることにした。んだが……。


 見覚えのないお嬢さん方が俺たちの座るベンチを前後に挟んで頭上で何かを囀っていらっしゃる。


 しかも最初は俺に関することかと思ったが見に覚えもないし、だんだん女同士の諍いになっているようだ。


 ただの喧嘩なら他所でやってほしい。迷惑な。


 どうやらロサもあまり自分たちには関係ない会話だと判断したのかいつものように食事をしていると、なにやら不穏な視線が向けられている。


 え、なんですか?


 ロサを侍女にしたい?あり得ない。他所で働かせなければならないほどうちは金に困っているわけじゃない。


 妹に欲しいだ?論外だ。ロサは俺の嫁で絶賛デート中の恋人(以上の関係になりたい)なわけで、誰が好き好んで手放すものかっ!


 5年も待ちぼうけして念願の転生、そのまま速やかに囲い込んだのはなんのためか!


 少なくともこんなぽっと出の女に渡すためじゃない。


 これ以上そばで煩くされてもうっとおしいので早々に釘を打って退散することにした。


 うちの娘は誰にも上げませんっ!!


 や、俺父親じゃないけどな。むしろ俺の嫁!


 そんな事を俺が思ってるなんてロサは気づきもしないのだろう。見せつけるように手を繋ぎ腰を抱いてあるき出したというのにその状況に照れることもなく『何だったんだろうね?この世界で流行ってる新手の勧誘かなぁ?』と首をひねるばかりだった。


 とりあえず、一人で外出させないと心に誓った。



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