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第56話 道化師(どうけし)・太田光


 お笑いコンビ・爆笑ばくしょう問題もんだい

 ツッコミ田中裕二、ボケ太田おおたひかり

 二人は日本大学芸術学部で知り合った漫才師である。


 筆者は幼少時からテレビで太田光氏のことをファンとして憧れており、中学生の時からTBSラジオ「爆笑問題カーボーイ」のリスナーとなった。(もっとも、近年では太田氏が、地方のラジオ局の話を多くするようになったので、あまり聴いてはいないが)


 太田氏は、自由 奔放ほんぽうな芸風から破茶滅茶はちゃめちゃな人間であると誤解されがちだが、いざお笑いの現場を離れると、家では恐妻家(妻は所属事務所タイタンの太田光代社長)であり、タバコを吸い、猫を可愛がり、原稿を書き、テレビを見て、ラジオを聴く。酒やギャンブルましてや女遊びとは縁遠い、同世代の他の芸人とはかけ離れた真面目一徹の人間だ。


 とはいえ、表立ってはあくまで道化どうけを演じる太田氏。

 近年でも、旧統一教会問題や旧ジャニーズ事務所問題、選挙特番などで炎上するなど、良いイメージを持たない読者諸君もおられるかもしれない。


 そんな、人前で道化たろうとする太田氏がブレなかったのが、彼が、週刊新潮を相手取り、民事裁判のために裁判所に出廷した時のことである。


 太田氏は、新潮社が発行する「週刊新潮」にて、自身が日本大学芸術学部に裏口入学したなどとする虚偽の事実を書かれたとして新潮社を提訴。

 まず、結果から言うと、太田氏側が勝訴し、裏口入学の事実はないとされた。


 ただ、出廷した際にも太田氏は芸人だった。


 裁判では、他の人と間違いがないことを確認するために氏名を名乗らなければならないが、太田氏は開口一番「伊勢谷友介です」と法廷で述べた。


 裁判官はクスリとも笑わない。伊勢谷友介氏は当時、まったく太田氏とは関係のない事件で世間をにぎわせていた俳優である。


 太田氏は後日、「裁判所でふざけるな」などとインターネット上で炎上した件に反論したのだが、彼の言葉には考えさせられるものがあった。


 いわく、「たしかにふざけたことは言ったけど、真面目な顔をしてふざけたことを言っているほうがよほど悪いのではないか」という趣旨のことを述べた。


 例えば、真面目な顔をしてふざけたことを法廷で言っているというのは、どういうことかというと、これは太田氏が指摘したことではなく、筆者が推測したところであるが・・・


 例えば、とある殺人事件の裁判で、死刑判決が確定した死刑囚の弁護士がどのようなことを言ったか。


「(その行為をしたのは)被害者が生き返ると思ったから」

「ドラえもんが助けてくれると思った」


 このようなふざけたことを、真面目な顔をして弁護士が語っている。


 太田氏の念頭にこの事件のことがあったかは定かでないが、自身は芸人としての矜持きょうじとして、太田光として人前に立つからには、芸人であろうとしたのだろう。


 そして、太田氏は、言動について特に裁判所から注意されなかったとも述べている。


 以前、テレビ番組の企画で、裁判官がいかに笑わないかを検証したVTRがあったが、裁判官というのは職務中は特にみだりに感情を出さない。


 そんな人たちをも笑わせよう、としたというよりも、俺は太田光だぞ、と示そうという、ふざけることこそが、彼の宿命しゅくめいなのだろう。


 相方・田中裕二氏の健康問題も大いに心配なところではあるが、太田光氏はおそらく最後の最後まで人前では芸人であろうとするだろう。


 道化師は絶対に、素顔で涙を流すようなことはしないのだ。

 道化師・太田光。筆者の尊敬は尽きることない。

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