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第58話 誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)


 SNSやインターネット掲示板、ニュースサイトのコメント欄などで、いわゆる「誹謗中傷ひぼうちゅうしょう」がさかんにおこなわれている。


 筆者は、誹謗中傷の加害者になる可能性もあるし、被害者になる可能性もある、とわきまえているので、特に誹謗中傷についてコメントすることはない。


 誰もが加害者になり得、被害者になり得る。

 そのことに、多くの現代人は無自覚だと思う。

 それは、誹謗中傷だけじゃなく、交通事故なんかにも言えることだ。

 だから、我々は、自動車を発進する時に気をつけるように、言葉を発信する時も当然に気をつけるべきなのだ。



 筆者の中学生・高校生時代の友人に「Sくん」という同級生がいた。今では疎遠そえんになってしまったが、彼は優しい性格だった。

 特に、Sくんは絶対に悪口を言わなかったし、筆者が「◯◯死ね」とか言うと、「そんなこと言っちゃダメだよ」と注意をしてくれた。


 こういう、とても、優しい性格の、絶対に悪口を許さない人物を、「Sくん」の他に筆者は生涯でもう一人知っている。

 だから、世の中にはそういう優しい性格の人が一定数いるのだろう。


 身内とかグループ内で言うだけで、本人には届かない悪口ですら否定してくれたSくん。

 当時は、Sくんちょっと真面目すぎるなあ、と思っていたけれど、今になって彼らがいかに凄いか分かる。


 そんな彼らは、絶対に誹謗中傷しないだろう。

 筆者の憶測だが、誹謗中傷をする者たちは、身内とか仲間内とかに言う感覚で、SNSによって、物理的距離感や社会的立場の距離感を越えて、誹謗中傷を著名人に突き刺しているのだと思う。


 だから、誹謗中傷以前に、「そもそも悪口は言っちゃダメですよ〜」という前提があるべきだと思う。


 というのも、あまりにもSNSが身近なものになったがゆえに、仲間内と部外者ぶがいしゃとの境界線きょうかいせんがきわめて曖昧あいまいになっているのだ。


 だから、「誹謗中傷ダメですよ〜」は本質的ではないと思う。Sくんのように、「悪口はダメですよ〜」のマインドを多くの人々が持てば、必然的に誹謗中傷もなくなるはずなのだ。



 とはいえ、誹謗中傷問題は根が深いというか、一面的に語れない部分がある。


 筆者の尊敬する太田おおたひかりは「SNSによって、いま、人類はもっとも卑怯ひきょうになっている」という趣旨しゅしのことを述べていたが、SNSの問題ではない気もする。


 SNSがこの世に存在する前から、Sくんは仲間内での悪口も許さなかった。

 そのマインドは、筆者は絶対的に正義だと確信している。

 そして、なかなかそういう風には生きられないということについても、筆者は百も承知だ。

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