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第9話 二人で暮らすうえでの約束事

 とはいえ、これから二人で暮らす事になるのなら、気を付けなければ行けない事がある。

ぼくには治癒術師としての生活があるから、そこに魔術師である彼女が入って来たら、価値観の違いからぶつかり合ってしまうだろう。

さすがにそれは良くないと思うから、お互いを守る為に話し合いをした方がいい。


「という事で、これから一緒に暮らすうえで決めたいルールがある!」


 ダートさんも同じ事を考えていたのか、ルールを決めたいと言い出したけど……どうして彼女が先に言うのだろう。

ここはぼくの家だから、家主が決めるべきだと思うんだけど、でもまぁ……気が強い性格みたいだから何となくそうなる気はしていたけど……少しばかり複雑な気持ちになるのはしょうがない気がする。


「ルールって言っても、例えばどういうの感じですか?」

「家族は毎日一緒に飯を食うもんだろ?」

「えっと……まぁ?」

「だからさ、一緒に暮らすんなら毎日おめぇの飯を二人で食おうぜ?」


 どんなルールが飛び出して来るのかと、警戒していたけれど……思いの外普通で安心する。

けど、本当にそれだけなのか……他には何かないのかと心配になるけれど、そもそもダートさんは異世界から来た人で、ぼく達とは違う常識で生きて来た人だ。

だから生活や常識も違う筈……今はそれで問題が無かったとしても、何処かしらですれ違いが出て来るかもしれない。

……だから、ここはぼく達なりのルールを決めたようか。


「えっと……二人でご飯を食べるのは別に良いのですが、ぼくからも一ついいですか?」

「おぅ、いいぜ?」

「この家は、診療所も兼ねているので、出来れば仕事中は入って来ないように──」

「いや、それは無理だろ、俺はおめぇの護衛も依頼されてるんだぜ?仕事中だからって一人に出来るわけねぇだろ」


 話している最中に上から被せるように言われると、何て言葉を返せばいいのか分からなくなる。

それが正論だっていうのは分かっているけれど、真面目に話を聞こうとするのなら、最後までちゃんと聞いて欲しい。

……ダートさんが、そういう不真面目で失礼な態度を取るのなら、こちらも無理難題を押し付けてしまおう。


「分かりました……それなら、ぼくが雇った助手という事にするので、それで良ければ側にいてもいいですよ」

「ん?あぁ……そんな簡単な事でいいのかよ、それくらいお父様……いやなんでもねぇ、ガキの頃に親父のもとで同じような事をした事があるから構わねぇよ」

「……え?」


 そう言葉にしながら、八重歯を見せながら笑う彼女を見て困惑する。

断られると思っていたから、どう言葉を返せばいいのか分からなくて、思わず言葉に詰まってしまう。


「……あ?急に間抜けな顔をしてどうしたんだよ」


 しかしお父様か、もしかしてだけれど……彼女が以前いた世界では良家の出身なのかもしれない。

ルールに出して来た食事の事に関してもだけど、この世界に来る前は暖かい家庭にいたのがろうか。

もし……娘を大事に思い、宝物のように大切にしてくれる両親がいたのなら、ある日突然訳も分からずに異世界へ召喚され、冒険者として生きることになったらと思うと、師匠達がやってしまった事に心が痛む。


「あぁ……えっと、断られると思ってたので」

「にししっ、そりゃあ残念だったなぁ」


 ……本当に良く笑う人だ。

何ていうか、この感じだとぼくがどんな条件を出しても、理不尽な内容で無ければ笑って受け入れてくれる気がする。

だから……ここはもう、ぼくが折れた方がいいだろう。


「それ以外には、ぼくから特に言う事は無いです」

「……お?もういいのか?」

「えぇ、大丈夫です」

「そっか、つまらねぇなぁ……色々と面白い提案をされるかもって思ってたのによ」


 いったい何がつまらないのか、それに面白い提案ってぼくが何を言うと思っていたのだろうか。

色々と気になるけれど、突っ込んだらめんどくさい事になりそうだ。


「あぁでもそうだ……一緒に暮らすと言っても、この家にはベッドが一つしかないので──」

「ん?あぁ……そりゃあ、一人暮らしならそんなもんだろ?」

「いや、それはそうなんですけど、ぼくが言いたいのはそういう事じゃなくて……ベッドはダートさんが使っていいですよ、ぼくは診察室のソファーで寝るので」


 さすがに女性をソファーの上で寝かせるわけにはいかない。

一応、診察室には簡易ベッドもあるけれど、あれは患者が使う物で……出来れば使わずに清潔を保っておきたい。

だから、身体が痛くなりそうだけれど、暫くはソファーで我慢しようと思う。


「……おめぇの家のもんなんだから自分で使えよ、俺は別に一日くらいなら床でも寝れるから気にすんなって、それに必要な物は後で買い揃えればいいだろ?」

「でも、さすがに女の子を床で寝かせるのは……」

「だぁもう!だから、俺が床で寝るから良いって言ってんだから、俺の好きにさせろよ!」


 何となく、彼女の性格的にこうなってしまったら、もう何を言ってもダメな気がするから、言う通りにした方が良いだろう。


「んじゃあ、俺はもう寝るぞ?飯を食ったから、眠いんだわ」

「え、えぇ……わかりました」


 そう言葉にすると、空間収納から一枚の毛布を取り出し、その場で横になる。

一応、空き部屋が何個かあるから、寝るならそこを使って貰おうとは思っていたけれど、まさかその場で寝ようとするとは思わなかった。


「……って事やおやすみなさい!一応だけど、朝まで俺の事を起こすんじゃねぇぞ?」


 とりあえずこのまま朝まで休んで貰って、明日になったら村の雑貨屋に行って色々と買い揃えよう。

あそこなら、大抵の物は揃う筈だし……店主は女性だから、ぼくでは気が利かないようなところも分かる筈だ。

その後、家に帰った後に、適当な部屋を彼女に使って貰えばいい。


「えぇ……ダートさん、おやすみなさい」


 静かになったリビングで穏やかな寝息が聞こえ始める。

本当になんていうか賑やかで、表情がころころと変わり良く笑う人だと思う。

とりあえず……ダートさんを起こさないように、採って来た薬草の下処理をしてからぼくも休もうか。


 これから彼女と一緒に生活をする事になる以上、今までと違う環境に疲れを溜め込んでしまうかもしれない。

だから少し早いけど、しっかり睡眠を取り今日の疲れをしっかりと取った方がいいだろう。


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