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第8話 一緒に行く

 けど……今まで見て来た彼女の仕草や、人格が作り物だと言われても、やっぱり完全には信じられないでいる。

だって、いや……これは言い訳だって分かってる、コルクが言うのなら事実なのだろうけれど……


「あんな?ダーを弄って遊んでやろうかなぁって思った時に、ついついやり過ぎてしもうてね?」

「……うん」

「いきなり印象が変わったっていうか、明らかに雰囲気がおかしくなってな?」


 雰囲気がおかしくなった……?ちょっと言葉の感じ的に分かりづらいけれど、暗示の魔術が解けたタイミングの事だろうか。


「それでな?そん時に、ダーがテンパってもうて、いきなり【暗示の魔術を掛け直さないと】とか言い出したから、これはいったいどういう事なん?ってマローネ姐さんと一緒に何とか落ち着かせてさ」

(……マローネ姐さん?)

「そんで、ダーの本来の人格の事を知ったって感じだね」

「何となく話の流れは分かったけど、もっと早く教えてくれても良かったんじゃ……」

「ばっか……あんたみたいに、人とのコミュニケーション能力に難がある奴に話したら、どう考えても後で面倒な事になるやん」


 コミュニケーション能力に難がある事は自覚しているけれど、面と向かって言われるとさすがに落ち込みそうだ。


「って事で、この村ってうちやあんたみたいに訳有さんが多いからさ、必要以上に詮索をするのはやめて……あぁ、集中力が切れて来たから、今日はもう終わりにして酒場にでも行っちゃう?」

「……コルク?」

「冗談だって!まったく……いざという時に冗談が通じんと、女の子に嫌われんよ?」


 話の途中でいきなりそんな事を言われても、反応に困るから正直やめて欲しい。

……彼女の事だから、真面目で堅苦しい雰囲気を少しでも和らげようとしてくれるのは分かっているし、その気持ちは嬉しいけれど、時と場合というものがあると思う。


「あぁ……まぁうん、ごめんって、だからそんな怖い顔で睨むのはやめて欲しいんだけど?」

「なら、最後までちゃんと話をしてくれないかな」

「話をしたいのはやまやまなんだけどね、うちの知っている事はもう全部話したから、これ以上はなぁんも無いんだよねぇ、ほら……ダーが高ランク冒険者だって事もついさっき知ったばかりだしさ」


 という事は、ぼくが異常種のモンスターに襲われて、治療に専念する為に集中していた時に見た、彼女の姿も本当の姿だったという事になる。

……いや、それ以外にも患者さんの前に立っている時に見せる、柔らかい笑顔も?良く考えたら、思い当たる部分が余りにもいいじゃないか。


「まさかだけどあんた……『ぼくはこれからどうすればいいんでしょうか、助けてコルク様~!!』とか、情けない事を言い出すんじゃないだろうね?」


 確かに、どうすればいいのか分からなくなっているのはそうだけど、コルクの中で……ぼくは、そこまで頼りなく見ているのだろうか。

少なくとも、知り合ったばかりの頃は、彼女とその仲間達の傷を治して、凄い頼りにされていたような気がするのだけど……


「黙ってるって事は……あんた、もしかしてマジで言おうとしてた?」


 ある時、四肢が欠損する程の重傷を負った彼女の仲間が、師匠の元に運び込まれた時に、開発したばかりで後に禁術指定される術を使い、生死の境を彷徨っている患者を無事に生還させることができた。

けど、問題はその後で……


『……仲間をこんな目に合わせてしまったのはうちだから、これ以上、二人の側にはおられへん』


 という理由で彼女は冒険者を辞めて、名前を【ミント・コルト・クラウズ】から、【コルク】へと変えた。

その後は仲間達を師匠の計らいで、魔王が運営する治療施設へと預けると、住む場所が無いからと家に転がり込んで、勝手に住み着いてはぼくをからかって遊んで来たのは、今でも鮮明に思い出す事が出来るくらいに、忘れられない思い出だ。


「……これに関しては、自分でしっかりと考えて決める事だと思うから、さすがにそんな情けない事は言わないよ」

「ふーん、ならいいけどさ……で?考えて決めるって、かっこつけて言うのはいいけど、どうするのさ?」

「とりあえず今は彼女が自分から言うまで、今まで通りに接するつもりだよ」


 本当は彼女に直接、暗示の魔術の事を聞きたいけれど、秘密にしている事を無理にでも聞こうとするわけにはいかない。

だからぼくに出来る事は、伝えてくれるのをゆっくりと待つことくらいで……


「へぇ、あんたにしては良い選択したね」


 そんなぼくの気持ちを知ってか知らずか、コルクが優し気な笑みを浮かべる。


「なら、うちからは特に言えるような事は無いから、もう一つの話をしよっか」

「……もう一つ?」

「なに?あんた忘れたん?」

「あ、あぁ……えっと、ごめん」

「まったく、あんたって奴は、ほら、開拓について行くかって話っ!……正直嫌だけど、ついていくわ」


 ダートの事で頭の中が一杯で、その事を忘れていた。


「……本当に?」

「本当にって、んな人の事をまるで珍獣でも見るような顔して見るのやめてくれる?……まぁ、ほらあんたはそもそも戦う事がそこまで得意じゃないやん?」

「……自分の身を守る程度には一応、戦えはするけど」

「その程度やろ?正直……あんた一人だけだったら、勝手に行けって感じだけど、今回はうちのかわいいダーがおるんよ?」

「つまり、ダートが心配だからついて来てくれるって事でいいのかな」


  コルクの言葉に、少しだけ思う所が無い訳ではないけれど……ついて来てくれるなら良かった。


「けど……うちは冒険者を引退して長いから、ランクで例えると精々、身体のなまり方を考えたら精々Cあるかないか位やね」

「……ランクで強さが変わるんだ?」

「変わるっていうか、せやねぇ……冒険者って言うのはSからEランクまであるんやけど、EからCが単純に個人の戦闘能力のみで評価されて、そっから先は依頼の達成率も加味されるんよ」

「つまり、ダートは結構凄いんだね」

「せやね、特にAやBランクってなると、国や個人からの指名依頼を受けたりとかできるようになる、つまり……この人は信用が出来るって言うステータスやねぇ、ただSランク冒険者だけは例外で、説明が長くなるけど聞いてくれな?あれらは──」


 コルクの長い説明を簡単にまとめると、Sランクというのは戦闘能力が尋常ではない程に特筆している化物のような存在を監視し、管理する為に作られたランクであり、最も有名なのは……


『Sランク冒険者【天魔】シャルネ・ヘイルーン』


 彼女は、この世界で最も有名な人で……知らない人がいないと言ってもいい程に影響力の強い人物だ。

ぼくも何度か、行商人として世界を飛び回っているシャルネさんのお世話になった事があるから、勿論姿を知っているし、どんな人なのかも理解しているけど……冒険者だというのは知らなかった。


「……ふぅ、何か一気に喋ったら喉が渇いたわ」

「まぁ、何となくだけど、冒険者って色々と大変なんだなって言うのと、ランクが細かいなって言うのは分かったよ」

「そっか、まぁ……今はそれでもえぇか……ってことで、うちは疲れを癒しに酒場に遊びに行くからさ、ダーの事は任せたで?一応だけど、人の部屋でやらしい事するんじゃないで?したら、しばくかんな?」


 彼女はそう言うと、ぼくの返事を聞かずに部屋を出て行ってしまう。

やらしい事なんて、別にする気はないけれど……ダートはいつ目を覚ますのだろうか。


「とりあえず、直ぐにでも彼女の元にいかないと……」


 ダートが目を覚ました時に周りに誰もいなかったら、不安な思いをさせてしまうかもしれない。

だから、直に戻って今は彼女の側に居た方がいいだろう。

そう思いながら足早にコルクの部屋へと向かうと、目を覚ますのをゆっくりと待つ事にした。

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