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第2話 魔王討伐RTA 2

それから私は、黒スライムのスミと共に

ダンジョンを攻略していった。

一度踏破したダンジョンは恐らく一定の

レベルに到達すると自動的に消滅する仕様だ。

とにかくスミが狩り尽くしてくれたり

たまにこぼれたモンスターをナイフで戦ったり

していると、私達のレベルは50になっていた。

最初のダンジョン内はかなり広くはあったが、

序盤だからか探すよりもモンスターが自ら

飛び出してきて、倒しやすかったのに…残念。

そしてウィンドウ画面の隅にあった時計で

確認するとどうやら踏破まで二日程かかった様だ。


最初に見ていなかったのになぜ分かるのか

と言うとなんとこの時計、自動で

ダンジョン踏破までの時間を測ってくれるのだ。

便利だなと思いながら、次のダンジョンへ

向かう。

今思うと、あの時1回くらい

仮眠と言うか寝ればよかったかもしれない。

ご飯はダンジョン内のモンスターを

食らうと経験値になると分かったので、

胃袋が許す限り食べていたけれど。


そうして眠らずにダンジョンを(主にスミが)

蹂躙し尽くし、最終的なステータスがこちら。


名前 : 美空縁

種族 : 人間?

年齢 : 22歳

レベル : 99(上限解放には魔王討伐の証が必要)

スキル : 郷愁者(解放まで後1レベル)、冷静、

冷徹、俊敏、魔破の結界、

スライムスーツ、スライムソード、

攻撃力アップ99倍キャンペーン期間(6日目)

武器 : 魔破の短刀

加護 : 肉体強化、痛覚鈍化、全状態異常無効、

不眠不休(ON)

称号 : 勇者


中々強くなったのではないだろうか。

まず気になる点を説明しよう。

魔破の結界とスライムスーツはなんか、

色々と試していたらできたものである。

結界は、魔法が使えないかと思っていたら

できた、モンスターが触れればすぐに弾け飛び

死に至ると言うチートなシールドである。

もう90台になる頃には放置ゲーと化していた。


更にこのスライムスーツ、ソードがすごい。

スライムスーツはスミか私がお互いに触れると

黒一色だがスーツだけでなく望んだ服装になる、

と言う…ただゴスロリとか、装飾の多い服装とか

どうだろうかと試したら結構重たくなった為、

戦闘にはスーツの方が向いている様だ。

スライムソードは、同じく想像しただけで

腕や足に鋭い刃物状となり、奇襲向けである。


キャンペーンに関しては、経験値やドロップ率

などは50レベルに到達すると消えてしまったが

その代わりか、攻撃力はレベルと共に

上がっていった。


それと魔破の短刀、これは二つ目のダンジョンの

最奥に鎮座していた首なしの武士らしき

モンスターを倒した際にドロップした。

切腹用だったのか護身用なのか、

と言うかそもそも日本の存在がこの異世界にも

あったのかとかが地味に気になる。

これは掠るだけでもモンスターには致命的らしく

やはり結界に触った時の様に弾け飛んだ。


そして最後に加護だが、これは中ボスや

さっき言ったラスボスを倒すと自動的に

付与された様だ、不眠不休の加護が付いた時は

少し焦った、何せ寝ていなかったから

不老不死かと見間違えたから。

不眠不休はちゃんと自分でオンオフできる

優しい仕様になっている。


因みに、スミはと言うと…


名前 : スミ

種族 : スライム

年齢 : ?

レベル : 99

スキル : 吸収、溶解、ブラックホール(無限)、

経験値&思考共有

加護 : 全状態異常耐性

称号 : 勇者のスライム


特に何も変わってはいないが、

ブラックホール(無限)が怖い、まだ一度も

使えてないけど、怖いので使わない。

それと思考共有と書いてあるが、スミの思考は

殆どあまり流れてこない。

くるとしても『おなかすいた』としかない、

可愛いけれどそれはそれで心配と言うか。

見た目も相変わらず、黒一色のむちむちボディ。

私も変わってないが…そろそろ真面目に湯船に

浸かりたい。

水浴びしかしてないから匂いが気になる。


そうして、ナビで99レベルになってから

開放されたテレポート機能を使い、

一人と一スライムで魔王城へと乗り込んだ。


「あれ、今代の勇者は女の子なん…だッ!?」


ゲームなら、ここで呑気に話をするだろうが

生憎と私は家に帰りたくて仕方なかった。

強く地面を蹴り抜き、魔破の短刀を喉元に

突き立てる筈だったが、何の魔法か

首を掠りはしたが、短刀は空を切る。

おお、今までのとは違って弾けないんだ。

流石は魔王と言ったところか。

すぐに距離を取る。


黒光りしたヤギの様な角、

紫に白いメッシュが入ったショートカットに

金色の瞳の、少し幼さが残る美形の青年だが、

かなり…その、間抜け面を晒していた。


「ちょっと!いきなり挨拶もなく殺し合い!?

 今代のは随分と物騒だねぇ!?」

「それは失礼しました。初めまして、では」

今度はスライムソードで胸元を切り裂く。

「ちょ…えっち!や、あの話くらいっ、

 聞かないっ!?」

ガッ、と何かに両腕を掴まれ一瞬、

動きを封じられる。

見ると透明だが、空間が歪んでいる。

すぐに脚でソレを切り裂き、距離を取る。

「…聞くも何も、家に帰りたいので…」

「変わった子だなぁ…まぁとりあえず喋ろう、

 こっちは復活したの100年振りなんだよ?」

「知りません」

「そっ…かぁ………」


まるで叱られた子犬の様な顔をされたが、

知らないものは知らない。

私はただただ、家に帰りたくて

仕方ないのだから。


「え、てかどうやってここに来たの?

 しかも召喚されてからそんな強さに

 なるまで…」

「アレヤソレヤコレヤの守秘義務なので」

「うーん、なんか便利な言葉だねぇ」

「とにかく口より手を動かしてください。

 眠いので」

「そんな興味無い???」

「興味無いです」


それから恐らく…三日と13時間程

互いに不眠不休で戦いました。

私はスライムスーツで何とか致命傷は

避けていましたが魔王は生身だろう、

かなりボロボロになっていた。


「げほっ…あぁ、もうだめっぽいなぁ」

「そうですね」

「…俺は、リベルタ。君の名前は?」

「縁です、美空縁」

「ユカリ…俺は、俺は魔王じゃないんだ」

「…はぁ」

「はは、やっぱり興味無いんだねぇ。

 けど聞いて欲しいんだ…俺と言う存在がいた

 と言う証を、君には持っていてほしい」

「………」


ぽつりぽつり、と聞いた魔王の話では。

遥か昔の帝国で彼は"召喚術"の生贄として

選ばれ、惨たらしく残酷に殺され、

"神々の墓穴"と言う場所に捨てられたそうだ。

その名の通り、世界が始まる際に起きた

神々が戦を起こし、様々な神が死んだ場所

であるとされるらしい。

その神々の恨みと力が彼の肉体に宿り、

やがて彼は後の世で魔王と呼ばれ、

勇者に封印される事を繰り返す様になった。


「ほんと、俺の人生なんなんだよって話!

 …でも、もう終わるんだなぁ」

「…いや、あの、まるで私が貴方を殺すみたいに

 言わないでもらえますか」

「えっ…?」


バギッッ!!と力任せに彼の右角をへし折る。

ステータスを確認した際に証には

魔王の角が必要だと判明したので。


「…えっ?」

「私は家に帰りたいだけで、人殺しなんて

 したくありませんから」

「…俺のこと、人だと思ってくれるの?」

「まぁ…少なくとも、人型ではあるので」

「もうちょっとマシな理由がほしいな…」

「と言うか、今の貴方なら

 何とかできるでしょう。

 生贄などいらない世直しなり、

 何なり成されば宜しいのでは」

「…まぁそうなんだけど、俺この城から

 出られないからなぁ…」

「出ようと試みないからそうやって腐るのです。

 頑張りましょう」

「…ねぇ、じゃあもし俺が__」


その時、青い魔法陣の様な何かが

足元に現れる。


「あ、お別れらしいですね、では」

「えっちょっと…ッ!?」


何やら魔王、リベルタは慌てていたが

その手はギリギリ届かず。


私は、漸く家に帰って来れたのである。

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