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第4話 魔王と人間の温度差

彼の話では、私が帰ったその後奮起し、

魔王城から出たと同時に1レベル下がったり

角が消えたりしたものの彼は

魔王ではなくなったらしい。

そのままダンジョンを制圧していき…

ここまでなら、英雄譚になるのでは?と

私は思っていたのだが。

彼は私を召喚した国の民衆の不満を扇動し、

クーデターを起こして国を乗っ取ったそうだ。

まぁ、遅かれ早かれ同じようなことは

起きただろうが…。


「あっ、安心して!血は流れてないよ、

 俺は優しいから、神々の墓穴近くの

 国外追放ぐらいにしといた!」

と、目を薄く細くしながら笑う彼には

私怨しか感じられない。

「それは本当に優しいのでしょうかね」

とりあえず散らかした分の掃除を

させているのだが、不気味な程に上機嫌で

笑顔な彼に少し恐怖すら覚えた。

今まで何も出来なかった反動だろうか。

躁鬱の躁状態みたいだなと思ってしまう。


「だからね、君には本当に感謝しているし

 出来れば君の寿命の半分以上を貰えたら

 いいなぁって思っているんだけど、どう?」

「いや…どうと言われましても」

「その…スミも連れてきていいし、

 働かなくていいんだよ?」

「いえ、そうではなく」

「もしかして俺の顔とかが嫌!?

 うーん、頑張って変えてもいいけど…」

「落ち着いてください」

「じゃあ何が嫌なのっ!」

「嫌とはではなく、私がここを離れたくないんです」

椅子から立ち上がり、平行に何本もの傷が

付いた柱に触る。


懐かしい、と目を伏せる。

おばあちゃんがよく、誕生日に

いくつ背が伸びたか測ってくれていたっけ。

16歳になってからは、伸びなくなったから

やらなくなって。

その代わりに誕生日のご馳走が、

少し豪華になった。

芋と秋魚の煮物が大好きで、誕生日でも食べていた。


こんなの、いつでも食べられるじゃないって。


もう食べられなくなってしまった。

それは仕方ない、仕方ないのだけれど。


「…ユカリ?」

「ここは、この家は私の核の様なものなんです」

「…何となくは分かってたよ」

「少なくとも、今のところは…この家から

 出るつもりはないんです。

 後、性急すぎます」

「…ごめん。でも、俺は」

「貴方は少し頭を冷やされた方がよろしいかと。

 少なくともマトモな精神状態ではないでしょう。」

「…そうかも。本当にごめん、舞い上がってた」

「一週間期間を設けて、それでもまだ…

 そのような気持ちがあるのなら、

 もう少し、詳しい話をしましょう」

「…分かった…でも、その、会いに来てもいい?」

私に目線を合わせているつもりなのか、

彼は屈んでいる。

何だか神妙な空気感が失せてしまい、

思わず、本当に思わずだが膝を蹴ってしまった。

「いった!?なにぃ!?」

「身長マウントを取られてらっしゃるのかと」

「女の子って、上目遣い好きなんじゃないの!」

「貴方の場合は高すぎてただの上から目線に

 しかなってません」

「そんなつもり無かったのにぃ!?」

あんぐりと、目と口を開けたリベルタの

間抜け面に少し吹き出した。

「…かっ、可愛い…ッ…!?」

「スミ、今すぐ魔王にはお引き取りくださって」

「待って!俺もニホンショクを食べたーい!

 しかも既に美味しそうな匂いするし!」

「…はぁ………大人しく座っていてくださいね」


仕方なく、今日は魔王と夕食を食べることに

なりました。


台所に立ち買ってきたサーモン、ぶなしめじ、

ほうれん草、人参、玉ねぎなどの各種は

一口大に切る。

サーモン自体はネギなどをちらし、

盛り付けて完成。

その他切っていた材料は汁物にしようと

鍋に水を適量入れていく。

汁物は鶏ガラと塩コショウをしておけば

大抵はそれなりのものになるので、いいだろう。

それから白米を茶碗に盛り付ける。


「美味しそうだね」

「邪魔です、刺しますよ」

「それは刺す前に言ってほしいかな…!」

魔王リベルタは血が流れない代わりに、細胞?血液?が

黒い砂のようなものになり、その黒い砂は

空に霧散する。

これが人でなくなる、と言うものだろうか。

「まぁ、君が変わってなくてよかった」 

「そりゃ一週間しか経っていませんから…」

「え?俺一年くらいかかったよ?」

「…異世界ですから、時の流れがおかしいのでは」

「そうなのかも」

「と言うか…仮にも国王になったのならば、

 当分の仕事は片付けたんでしょうね」

「もちろん!俺、元魔王ですから」

「つまみ食いしないでください」

「だから切り落とす前に言ってくれないかな!」

「貴方不死身みたいなものなのだから、

 大丈夫でしょう」

「嫌な信頼だなぁ…」


と、苦笑しながらも、嬉しそうに

私を見る。

色々と言ってしまってはいるけれど、

私個人の意見では、悪い気はしなかった。

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