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第8話 ロックと変態⑦

月岡希依つきおかきい……!」


「希依ちゃん!」


 どうやら千葉と天雷も、この爆乳のことを知っているような口ぶりだ。


 まったく、ロックに集中するあまり俺はこんな逸材を見逃していたようだ。こんな爆乳がこの校内にいたなんて。おっぱい鑑定士、略してオパカンの俺としたことが。


「ドラムを探してるんだって?」


 爆乳こと月岡という女子がそう言い、不遜な笑みを漏らす。


 俺はジャージに感謝した。

 セーラー服ならば、彼女のこの豊満なバストを不自由に縛りつけていただろう。見てごらん、天雷猫子を。彼女もなかなかの胸を持っているが、この通り不自由なセーラー服によって抑制され、その素晴らしいおっぱいを隠してしまっているのだ。


 一方で月岡は伸縮性に富んだジャージを着ていることで、そのバストを抑制することなく、前面に押し出している。


 俺はど根性ガエルのぴょん吉を思い出した。ぴょん吉も伸縮性のあるTシャツだからこそ、あのように自由に動き回れるのだ。固い生地の学ランならばそうはいかない。


 これぞフリーダム。むむ、やはりフリーダムのFカップということか!


「月岡、お前、バンド組んでたよな?」


 千葉が腕を組みながら、その爆乳に近寄った。


 やめとけ、千葉! お前のその貧乳ではかないっこないぞ! いくら形がよくて微乳と嘯いても、おっぱいはサイズだ。サイズこそが力。絶対的な力なのだ。これは世論である。


「もしかして希依ちゃん?」


 天雷も千葉に続く。


 危険だ! あのジャージの下で自由に動く月岡の胸の前では、天雷の隠れ巨乳でも太刀打ちできる保証はないぞ。戦闘機に竹槍で挑むようなもの! 大和魂がいくらあっても無謀というものだ!


 もはやおっぱいミリタリーバランスが崩壊しそうである。


「ドラムが必要なら、私が入ってやってもいいんだけど?」


 月岡はそんな千葉や天雷に構うことなく、じっと俺の方に視線を向けた。


 目が合う……ことはなかった。だって俺は彼女の胸に釘付けだったからだ。


 しかし初対面で胸ばかり見ていることがバレては今後の関係に支障が出かねないので俺は慌てて視線を上方へ修正、ガチッと視線を交えた。


 この間0.2秒。


 俺がその爆乳に見とれていたことなど常人では気づくことはできないだろう。メタリカのギターボーカルであるジェームス・ヘッドフィールドのダウンピッキングの速さに匹敵する速さである。


「お前、ドラマーなのか?」


 わざと訝しむ表情を作り、その爆乳っ子を睨む。まさかさっきまで胸ばかり見られていたとは、彼女も気づくまい。


 じっとその顔を見ると、なんとも幼い。そのジャージという服装と150センチほどの小柄な身長も相まって、かなり幼く見える。


 しかしこの幼顔に、この爆乳! 核を搭載した紙飛行機のような攻撃力に俺はもう降参寸前。ポツダム宣言ならぬパイオツ宣言はまだですか?


「おい、森村。そいつはやめとけ」


 千葉が俺と月岡の対話を遮ってくる。


 きっと胸の大きさがかなわないと思い、ちょっかいを出してしたのだろう。まったく、かわいい奴だ。コンプレックスを持つ女子、俺は好きだぜ。


「千葉。まさかあんたがボーカル? マジウケル」


 ギャルっぽい口調で千葉を煽る月岡。おっぱいのカップ数の壁はそう簡単に乗り越えられるものではない。やめとけ、千葉。これ以上は勇気ではなく無謀というものだ。


「月岡。私たちのバンドにちょっかいを出すな。ドラマーは他を当たる」


 千葉が「私たちのバンド」と言ったのを聞き、俺は彼女の見方を変えざるを得なくなる。そうだ、俺たちはもうバンドのメンバー、運命共同体なのだ。おっぱいが小さいとか言ってごめん。


「マジうざい。私は森村と話しているの。フリーのドラマーなんて、そう簡単に見つからないっしょ?」


 月岡が千葉を一瞥し、すぐに俺に視線を戻す。俺もおっぱいから彼女の眼へ視線を戻す。


「月岡さん、フリーって? バンドを辞めたの?」


 部長もこの一触即発の状況に口を挟んでくる。


 バンドを辞めた?


「月岡と言ったな? 話を聞かせてもらおうか」


 何度も言うが、バンドというものはタイミングによって大きく転がるのだ。もしこの月岡希依がドラマーであり、バンドを辞めたのだとしたら、飛んで火にいる爆乳ちゃんではないか。


「おい、森村! こんな奴を入れるのはやめとけ」


 俺が懐柔の態度を示した途端、千葉が割って入った。


 一体千葉と月岡の間に、胸の大きさ以外にいったいどんな確執があるというのだ。さっきからやけに反発するではないか。


「しかし千葉、俺たちはドラマーを探しているんだぞ? この学校でフリーのドラマーなんてそんなにいるはずはないし、これは運命じゃないか?」


 俺たちにとってこの出会いは運命かもしれない。俺は運命と爆乳娘をやすやすと手放すほどのん気でも満腹でもない。朝から晩までおっぱいに触れあっていたい腹ペコで健康な高校二年生の男子なのだ。


「千葉、あんたは黙っとけば? ハイスクフェスを目指して曲作りをするとなると、ドラムがいないと不利なのは理解してるよね? それとも打ち込みでドラムの音を入れて、それで頂点を目指せるほど、簡単なものじゃないことは分かってるっしょ?」


 ふふん、と月岡はほくそ笑む。


 俺はようやく彼女の胸の衝撃を乗り越え、冷静に観察できるようになっていた。


 月岡希依。ドラマーだという彼女は爆乳を学校指定のジャージで包んでいる。きっと制服じゃ窮屈なのだろう。なにしろFカップまであるそのポテンシャルは、制服では限界を超えている。アムロをジムに乗せるようなもんだ。


 ショートカットなのだが千葉よりは長く、そして髪を左右に赤いゴムでまとめている。ツインテールというには大げさだが、子犬の尻尾くらいにはなっている。やはり童顔の彼女の顔と、その爆乳のアンバランスさこそ至高。


 ついでの情報で言うと、どうやらバンドを辞め、俺たちが探しているフリーのドラマーのようだった。


「確かに私たちはドラムを探しているが、お前のことは探していない。な、猫子? そうだよな?」


 千葉は天雷に話を振る。少しでも同じ意見を見つけようとする必死さが見て取れる。


「希依ちゃん、本当にバンドを辞めたの? だってあなたたちも来年のハイスクフェスに向けてデモテープを作ってたはずでしょ?」


 千葉と月岡に挟まれる形になった天雷が、なるべく穏便に事を治めようとする。


 俺もできればいろんなところにいろんなものを挟みたいものである。余談。


「音楽性の違いで解散したし。あいつらうざくって」


 月岡は肩をすくめ、そう言い放った。まるで燃えないゴミを出すかのような気軽さである。


「確か月岡さんは男子二人とバンドを組んでたでしょ? もったいないわ」


「もったいなくないし。実は音楽性以外にもいろいろ揉めちゃって。超ウザイし」


 部長データによると月岡は男2女1のドリカムスタイルのバンドを組んでいたみたいだ。


「おい、今も揉めてるぞ。お前、今年でバンドを辞めるのもう何回目だ? 私たちのバンドにトラブルメーカーは必要ないんだよ」


 千葉は相変わらず眉間に皺を寄せ、月岡に凄んでいる。胸に谷間はないくせに眉間に谷間ができちゃうぞ。


「だからぁ、揉めないようにやろうって言ってんじゃん? 森村だっけ? 私のドラムの腕は確かよ。本気でロックの頂点目指したいんなら、悪い話じゃないと思うけど?」


 揉める揉めないという切実な話に聞き入っていた俺は別のことを考えていたが、これは言わないが花でしょう。


 月岡の実力は知るところではないが、この自信満々の態度はロックではある。それにこの爆乳を男たちのバンドに放つなど、羊の群れに虎を放り込むようなものだ。まったくけしからん。そのへんの草食系男子にはもったいない逸材だ。


「おい、森村。こいつはこれまでもバンドを解散させてきたトラブルメーカーだ。タチが悪いぞ」


 千葉に俺のタチ具合が分かるのか? まったく、下ネタ好きな奴だぜ。


 しかし千葉が月岡の加入を渋っている理由が分かった。バンドの渡り鳥ってわけか。大方、月岡の爆乳を巡って男たちが争ったとかそのあたりだろう。


「森村君……」


 天雷も心配の声を出すが、はいそうですか、というわけにはいかない。


 俺はロックの頂点を目指すために、来年のハイスクフェス出場に賭けている。


 そのためには、新しい巨乳、いや、ドラマーが必要なのだ。


「千葉、天雷。俺はさっきも言ったはずだ。ハートにロックの火が灯っているならば、俺はそれを否定しない。むしろ、そんなロックな奴は大歓迎だ」


 キレ気味の千葉と、不安そうな天雷を見渡し、最後に俺はジャー乳(ジャージ爆乳の略)の月岡を見据える。


「分かってんじゃん、森村。すべてはロックの下に、みたいな?」


 満足そうな月岡は「これであんたは黙ってて」と千葉の口の前に人差し指を置き、発言を封じた。千葉も小さく舌打ち、天雷は眉根を下げ相変わらず不安そうな表情。


 これでよかったのか? 俺は自問自答しそうになるが、最初から結果が分かっている勝負ほどつまらないものはないのだ。結果は自分が作る。始まりは結果に向かうきっかけだ。


 そして今、俺たちのバンドに最後のピースが加わった。


 ドラム、月岡希依。


 爆乳。とにかくそれに尽きる。千里の道も爆乳から、とはよく言ったものだ。


 そのドラムの腕前は知らないが、ジャージ女子であり、喋り方がギャルっぽいが爆乳なので全部許す。爆乳には無限大の可能性が込められているはずだ。宇宙と言っても過言ではない。


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