俺のバンドにドラマーの月岡が加入することに決まった。
「さあ、どうする? さっそく音を出してみるか?」
どうやら女子三人、特に月岡と千葉の関係性が分からないこともあり、俺は実際にセッションすることにより懇親を深めようと考えた。
音楽は世界を救うように、一緒に音を出せばすべて解決するのだ。ロックは百薬の長である。
「ちょっと待って、森村君! もうそろそろ時間よ!」
真理部長が腕時計を見て、俺たちからあふれ出るパッションを食い止める。
そのとき、6時のチャイムが鳴り響いた。全校生徒下校の合図であり、軽音部はこれ以上音を鳴らすことはできないのであった。近所迷惑的なものもあり、いくらロックだからといってご近所に迷惑をかけることはしてはならんのである。
「もうこんな時間か。じゃあ明日……」
「明日からはテスト前ね。どうしようかしら?」
俺の勇み足を汲んで、天雷がフォローしてくれる。どうやら彼女は場の空気が読めるお上品さがある。頼りになるメンバーだぜ。
「そいつが来てごちゃごちゃ言ってるから時間がなくなったんだよ」
「あんたがごねたからじゃん? マジウケル」
ヤンキーと爆乳がこの期に及んで言い争う。二人の間には火花が散っているようだ。
「じゃあこうしよう。テスト最終日の放課後、地学教室に集合だ。そのときまでに詞なり曲を各自用意しておこう。どうだ?」
俺はメンバーの三人を見渡す。
ヴルストはこれまでは俺が詩と曲のベースを作り、そこからセッションを重ねて一曲を作り上げてきたのだ。千葉は詞を書きたいと言っているし、天雷も曲が書けるらしい。なんとも頼もしい奴らではないか。
「それでいいぜ。バッチリ詞を書いてきてやるよ」
「私も家で曲を作ってきます」
千葉と天雷が俺の提案に乗ってくる。
「じゃあ私もきっちり練習してくるし。筋トレで体力つけなきゃ」
月岡が一見華奢な腕を折り曲げ、力こぶを作って見せた。
まさかあの巨乳の原点は筋トレにあったというのか? 大胸筋を鍛えることでインナーマッスルからバストを盛り上げることができるのか? 民明書房の本にそんな秘儀が紹介されているかもしれない。あとで図書館(男塾)で調べよう。
「よし、テスト終わりが楽しみだ。それと、バンド名だが……」
俺はおっぱいに釘付けで重要なことを忘れていた。
一応ヴルストは解散し、俺たちの新しいバンド名を決めなくてはならない。
「ヴルスト、じゃ縁起悪いかしらね」
「そうだな。過去を引きずってるみたいだからな」
「私はなんでもいいし」
どうやらこの新メンバーたちはバンド名には固執していないらしい。もしかして俺に気を遣っているのかもしれなかった。
「森村君が決めればいいんじゃない?」
「ああ、お前がリーダーみたいなもんだろ」
「ていうか、リーダーじゃん」
リーダー。俺は満更ではなかったが、そう任命されてちょっとほくほくした。まったく、お前らって奴は。
「わかった。じゃあ暫定的に、ネオ・ヴルストでいこう。俺にも思い入れがあったバンド名だからな」
元々、ヴルストというバンド名は俺が決めたものだ。そのまま踏襲するのもありとは個人的には考えていたが、ここはネオを付けて新鮮味を出すことにした。
「それでいいわよ」
「ああ、文句ねーよ」
「いいじゃん!」
こうして俺たちのバンドの名前はネオ・ヴルストに決定し、新たな一歩を踏み出すこととなったのだ。
しかし今日はもう練習することができず、顔合わせだけをして帰ることになった。俺たちは一応連絡先を交換し、メンバーたちは視聴覚室をあとにした。