こんな夢を見た。
ある日、練習に行くと、変態メンバー三人が小競り合いをしている。
「どうした、ケンカはやめなさい!」
俺はリーダーとして、そのケンカを止めに入る。
三人は素直に俺の言葉に従って手を出すのは止めたが、お互いを睨み合って牽制し続けている。
「どうしたんだ、一体? 同じバンドなんだから、同じ方向を見て進まないといけないじゃないか! ケンカをしてどうするんだ」
俺は正論とバンド論を交え、三人を見据える。
「こんな汗フェチの変態と一緒にバンドなんてできねーな」
千葉が月岡を顎で示しながら、ぶっきらぼうに叫ぶ。
「なによ、あんたこそドMじゃん! 痛いのが気持ちいなら、ラグビーでもしてればいいっしょ?」
負けじと月岡が千葉につっかかる。
「やめてよ、希依ちゃんも優雨ちゃんも」
「マジうざい! 露出狂ありえないし!」
「裸で何を言っても説得力ないぜ、変態!」
千葉と月岡を止めようとする天雷は、一糸まとわぬ真っ裸だった。
「お前ら……」
俺はこの変態三人が睨み合う構図に、ため息も出ない。
いつの間にか、変態たちの変態性はメンバーの中で周知のものになっていたようで、互いが互いを攻撃しているのだった。
変態と変態がぶつかれば、時限が歪むレベルで何かが起こるに決まっている。変態は共存を認めない。変態は、自分以外の変態を認めない。
俺はこの瞬間、そう悟ったのだ。
こんな状態ではまともに活動できるはずがないではないか。
俺は再び頭を抱える。この悩みは決して変態たちには伝わらないだろう。まともな俺だけが、このバンドのたったひとつの良心である。
なんてことだ。微乳・巨乳・爆乳が揃ってよりどりみどりだと思っていた矢先、全員に固有変態キャラが備わっていたとは。まったく、やりきれない。
「ねえ、森村。私たちの中で誰が一番まともか、決めてくれない?」
月岡が意味の分からない選択を突き付けてきた。腕を組み、ぐいっとその爆乳を持ち上げ、俺に迫る。手には俺の汗が染み込んだタオルが握られている。
「そうね。こんな汗フェチとかドMとか、美しくない変態と一緒にしてほしくないですわ」
真っ裸のまま、腰に手をやって俺に迫るのは天雷。俺はいま、彼女のすべての秘所を目にして、視線が彷徨っている。
「ご主人様なら、こんな変態たちと私の違いが分かりますよね?」
千葉は従順なメスブタモードに入っている。おい、その制服の下に透けて見える亀甲模様。 まさかお前、セルフ緊縛してるんじゃないだろうな?
「「「どうなの? リーダー?」」」
「うわぁぁぁ!」
布団を蹴り上げ、飛び起きた。
夢で良かった。
背中にはぐっしょりと汗をかいており、すかさずハンカチでその汗を拭う。寝起きであってもバンドリーダーとしての務めは忘れていない。この汗は月岡のものだ。
夢に出てきた天雷の裸のせいだろうか。俺の股間は的確な反応を示していた。朝だから、という理由だけでは説明できない立派な隆起に、自分でも引く。
「俺のバンドはどうなるのだ?」
答えの出しようのない悩みに、俺は頭を抱える。
夢の中で変態たちは自分以外の変態を拒絶し、争っていた。
現実では変態は共存できるのだろうか?
唯一正常な俺は、変態を管理できるのだろうか?
俺は心がもやもやとして、そして下半身は確実にもんもんとし、目をつむって瞼の裏に理想のおっぱいを浮かべては、嫌な現実を忘れようとするのであった。
瞳を閉じればおっぱいがまぶたの裏にあるようで――。
おっぱいだけが俺の救いだ。おっぱいがあれば、何もいらない。なのにあいつらはおっぱいに無駄な変態キャラをくっつけてくるからややこしいのだ。
なぜおっぱいだけの世界にならぬのだ。俺は、おっぱいだけがあればいいのに。
そんな理想の世界を思い浮かべつつ、俺は二度寝の世界に侵入した。
素晴らしい世界。それは、おっぱい。オール・ユー・ニード・イズ・オッパイ。
結局土日はそんな尊いおっぱいのことを夢想するうちに暮れていき、俺は明くる月曜日を迎えるのであった。
俺は変態の、変態による、変態のための日常に向かうのだった。
変態の共存できる世界を目指して。