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第29話 そして、変態しかいなくなった①

 変態を共存させる方法など、あるのだろうか?


 俺はバンドを愛するただの男子高校生だ。ギターに憧れ、新しいリフを刻んでは一喜一憂し、未来のロックスターを目指す、ただのロックキッズだ。


 ただ、全世界のロックキッズと違ったのは、俺以外のバンドメンバーが全員変態だったということ。変態も個性と考えると、ほんの小さなことのはずだった。


 しかし変態とは、俺が考えていた以上にディープで厄介なものだと知ってしまった。


 変態は反発し合い、共存を認めない。


 ドMの千葉に、露出狂の天雷、そして汗フェチの月岡。


 今朝もこの三人が顔を合わすとすかさず争いが起こってしまった。


 そんな変態三人の中に放り込まれた唯一正常な俺、森村陣。


 リーダーとして俺がバンドをまとめ、変態を共存させなくちゃならないのに、まだ一度も練習をすることなく変態たちに惑わされているのが現状なのだ。


 変態は変態同士仲良くしなきゃ! みたいな幼稚園児的なまとめ方ができれば簡単なのだが、こればかりはそうはいかない。変態はトリッキーでエゴイスティックなのだ。正常な俺が言うのだから間違いない。


「はぁ……」


 朝っぱらからそんな変態女子三人の相手をしたものだから、俺は一時間目の古文の授業から疲れ果てていた。


 授業の内容も頭に入らず、目に入ってくるのは国語の女教師の白いブラウスの下に潜む熟したおっぱいだけだった。幾度とない修羅場を乗り越えてきたであろう大人のおっぱいも捨てたものではない。今の俺にとっておっぱいだけが救いである。


「そういえば、この手紙は誰が出したんだ……?」


 あまり女教師のおっぱいばかり眺めていると質問が飛んできそうなので、俺は机に目を伏せ、鞄から一枚の紙片を取り出した。


『お前のバンドには変態がいる』と書かれた手紙。


 すべてはこの手紙から始まったのだ。


 誰が変態なのかという疑問はすでに明らかにされている。俺以外の全員でファイナルアンサーである。


「やはりこの手紙の差出人は、あいつらが変態だということを知っていたということだ。一体、誰が? いや、それを俺に知らせてきた目的は……?」


 考えられることは、いくつかある。


 まずは、俺への忠告であろう。お前は変態とバンドを組むつもりか、と。


 それはおそらく悪意あるもので、ネオ・ヴルストの結成を潰そうとする意図が見受けられる。


 変態がいると知った俺が、バンドの結成を躊躇するとでも考えたのだろうか。俺がバンドを組むことに反対する人間が犯人だとすると……。


 俺は同じクラスで元メンバーの万座の背中を見つめる。真面目に授業を受けているあの男は、音楽性の違いを理由にヴルストを脱退した張本人。


 新たに俺がネオ・ヴルストを組んだことに腹を立て、こんな姑息な手紙を出してきたということも十分に考えられた。


「しかし、あいつがなぜメンバーに変態がいると知っているんだ? それにあいつならこんな回りくどいやり方ではなく、直接俺に言ってきてもいい」


 万座はモテるために楽器を始めたような不純な男だ。ロックを愛しているわけではなく、ファッションとしてギターを持とうとした、ただの不細工である。もちろんバンドを始めてもモテるわけもなく、今度はEDMをやり始めるくらいのただのミーハー男だ。


「あいつが千葉や天雷、月岡と面識があるとは思えない。しかし、確かめる必要はあるかもな」


 俺は手紙を出してきた容疑者の一人に、万座を加えた。


 他に考えられる理由としては、あのメンバー三人に恨みを持つ者だ。


 文面から言って、まさかメンバー三人全員が変態であると、差出人は知らなかった可能性もある。千葉・天雷・月岡の誰か一人が変態であることを知り、嫌がらせ的にその情報を俺に知らせてきたということだ。


 女子の中ではグループや序列といった複雑な交友関係が存在しているのは、俺も理解している。何かしらの理由で恨みや妬みを持たれたメンバーが、復讐的に秘密をばらされるというケースはない話ではない。


 一応三人とも美人ではあり、おっぱいも優秀なため、女子たちから恨まれてしまってもおかしくはない。


「まったく、女子って奴は嫉妬深い生き物だぜ」


 この手紙を受け取ったことで俺の中に多少の動揺が生まれてしまったが、これが原因でバンドが崩壊するようなことはないと言い切る。


 もしネオ・ヴルストを潰そうとするための手紙だとしたら、それは犯人の思惑は失敗に終わっている。


「変態を理由に、俺のロックは止まることはない!」


 ぐっと拳を握り、俺のロックに誓いを立てたそのとき。


「じゃあ、森村君。このときの清少納言の気持ちはどういったものかしら?」


 熟れたおっぱいを持つ女教師に当てられた俺は当然授業なんか聞いているわけもなかった。枕草子を読んでいたことすら気づかなかったぜベイベー。


「女心を詮索するなんて、野暮な男のすることですよ」


 俺はビシッとロックな答えをキメてやった。


 授業が終わってから俺は女教師に呼び出され、説教されちまった。


 まったく、近くで見たらまだまだ現役のおっぱいじゃねえか。俺の守備範囲の広さを再確認しちまったぜ。



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