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第13話 手段は選んでいられない

 俺たちはいつも比べられ、生きている。


 学校ではテストで順位がつけられ、さらには内申点という印象によって評価されるシステムで俺たちは全員がランク付けされている。


 まわりの人間はすべて敵なのだ。勝つ奴がいれば、負ける奴も必ずいる。


 それは生きていく上で仕方のないシステムで、強者と弱者に別れるのは自然の摂理でもある。


 そんな分かり切った現実の中で、こと学校というコミュニティの中では、当の本人たちはそれを認めたがらない。「みんなで一緒にがんばろう!」と協調性を主体とし、綺麗ごとだけで美化させている。隣の奴ががんばれば、自分は蹴落とされるということを理解できていないのか?


 ——否。


 腹ではそんなこと分かっているはずだ。しかし、決して汚い本心は外に出さずに、「一緒にがんばろう!」と繰り返す。


 みんな嘘だらけ。嘘を吐いては、他人を疑っているのだ。むしろ油断した奴が蹴落とされる。裏切りは正義である。自分を守るための、絶対的な権利である。


 今日も教室ではバカな奴らがバカなことを繰り返している。


「全然テスト勉強してねーよ。土日もずっとゲームしてた」

「俺も俺も。もう実力でぶつかるだけだな」

「今さら勉強なんてしたって意味ないし」


 こんなことを言って友人を謀り、自分だけはテストで良い点を取る気なのが見え見えである。良い点数を取った暁には「ヤマ張ってたとこが当たったぜ! ラッキー」なんて白々しいことをアピールしては、内心ほくそ笑んでいるのだ。


「また太っちゃった。ダイエットしなきゃ」

「全然太ってないじゃん! 陽子はむしろもうちょっとぽっちゃりしたほうがかわいいよ」

「うそー。そんなことないよー」


 女子たちはお互いの容姿を褒め合うことで仲間意識を醸成する。しかし本心では隣に立つ友人は自分よりも格下ではなくてはいけないと、本能で選別しているのだ。より自分だけをよく見せるために。


 友人が痩せると言い出せば、抑止する。より似合う髪型にしようとすれば、反対する。彼氏ができそうになれば、その男の悪口を言う。


 誰しも自分が一番であろうとする。


 俺はみんなの気持ちが痛いほどよく分かる。みんな必死で生きているのだ。自分だけがカーストの底辺にならないように。自分だけが嫌われないように。


 そのためならば、簡単に他人を突き落とす。蔑む。悪意を投下する。


 ――山本がそうだった。


 俺の小説「異世界ハーレム戦記」が、みんなの前で山本にズタボロにけなされたのだ。その日、俺は昼食どころか夕食も喉を通らなかった。


 もしかするとネット作家同士、友達になれるかもしれないと考えた俺をぶん殴ってやりたかった。一瞬でもそう考えた俺の甘さ。なれるわけない。あんなブタ野郎と、仲良くどころかもう二度と話をすることもない。


 あいつは自分のクラスメイトの前で俺を否定することでマウントを取りたかっただけなのだ。オフ会のときと同じだ。俺を踏み台にして、利用して、自分がどれほど偉大かを知らしめたのだ。書籍化作家がただのネット作家をけなすことで、その差を分からせたのだ。


 なんて浅はかな奴だ。なんて小さい奴だ。なんてクズなのだ、あの山本という男は。


 これ以上山本に関わることは俺にとってもマイナスにしかならない。お互い切磋琢磨するという感覚は、ない。


 山本のようなクズに関わらず、俺は俺の作品を信じ、書いていくしかない。あんなクズの批評など、あてになるものか。何がオリジナリティがないだ。リアリティがないだ。


 あいつの「異世界で始めるエリート生活」も同じだろう。異世界にも行ったことがないくせに、エリートでもないくせに、何がリアリティだ、ボケ。


 山本の戯言は忘れることにしたが、なぜか俺の「異世界ハーレム戦記」はここのところ更新しても思った以上にPV数も伸びず、ブックマークも増えていないのは事実であった。


 何がいけないのか、露出が足りないのか? もっとTwitterで宣伝するか? しかしやりすぎて反感を買って逆効果になることもある。こんな状態で焦って更新を増やしても、きっと横ばいの状態は続いてしまう。読者離れを起こしかねない。


 そこで俺は確実にPV数とブックマークを増やす方法を考えた。


 そしてひとつ、閃いたのだ。


 それが、クラスメイトに読んでもらうことだった。


 先週までの俺ならば、決して取らなかった作戦である。おれが「KAZMA」というペンネームで小説を書いていることなど、クラスの誰も知らなかったし、バラすつもりもなかったからだ。


 しかし、あんなことがあって、俺が小説を書いていることはこの教室にいる全員が知ってしまった。どんな話で、どんなキャラがいるかも、あの吉岡という女のせいで白日の下に晒されたのだ。


 そして今現在、同じクラスになろう作家がいるということで、俺の存在は多少浮き彫りにされている。俺がどんな小説を書いているのか気になっている奴もいるはずだ。


 こうなってしまっては、むしろ利用するしかない。こいつらのレベルに合わせたストーリーを組むことによって、身近なブックマークを稼ぐのだ。


 たとえばクラスで起こった出来事を暗喩させるようなイベントを書いたり、誰か特定の登場人物にクラスメイトの特徴を反映させたりするのもいいだろう。


 そうだ、うちの担任の「だからぁ~」というアホみたいな口癖をキャラに喋らせるのもいい。ストーリーをうちのクラスメイトウケするような内容にすれば、きっとあいつらも興味を持って読み始めるに違いない。


 クラスメイト四十人からブックマークされれば、それだけで四十ポイント増。


 地道ではあるが確実な一歩である。決して逆転満塁ホームランにはならないが、送りバントで確実に点を取ることを考えたのだ。


 作品の中のミナと、吉岡美奈の偶然の名前の一致は、とんでもないチャンスかもしれないのだ。


 吉岡にキモイと言われたことが宣伝になるのなら、俺は大歓迎だ。災い転じて、とはこのことだ。思わぬ宣伝になったということだ。


 もはやこの教室で俺が失うものはない。それに、吉岡ももっと俺の小説を読んで、キモイと言ってくれるに違いない。それが宣伝とは知らずに。


 これはPV数の増加だけではなく、俺の自由と尊厳を賭けた復讐でもある。


 俺の小説の中では、俺は自由である。王である。その所以を、存分に見せてやる。


 俺の中で創作活動への情熱が一気に復活した。


 今後の構想を一度白紙にし、カズマとミナのラブストーリーを中心にプロットを立てることにした。


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