いつの間にか予鈴ギリギリの時間になっていた。
先生がまだ来ていない教室の前の方に、二人の伏木さんに挟まれて連行されて来た俺。
宇宙人に連れ去られた気分だ(やけくそ)。
クラスメイト達の唖然とした視線が突き刺さり逃げようにも逃げられない中で、伏木さん×2は弾む声で宣言した。
「「本日をもって私達は塁くんと恋人になったのでご報告いたします!」」
ポカーン……とクラスメイト達。
そりゃそうだよな、いきなり恋人宣言って意味わからねーもんな。
てか、さっき目立たないようにするって言ってたよねこの子達?
(いやいやいや、そんなことより勝手に恋人宣言された今!?)
「あ、いや! みなさ、これはその……!」
気づいて慌ててクラスメイトに弁解しようと口を開いた俺だが、大勢の視線が一気に突き刺さり動作が停止。
体が震えてそれ以上先は「あ」とか「う」とかしか出ない。
その隙に伏木さんがはじける笑顔でつづけた。
「「そういうわけで私と塁くんは恋人だから! よろしくね皆!!」」
(やめろ! 腕に引っ付いて恋人アピールなんてしたら……)
ほら、みんななんか「え? なんであいつ?」「お似合わないだろ」「殺すぞ」「闇討ちだな……」「死ねカス」みたいな顔つきになってきたぞ!
てかお前等! 伏木さんが二人いることにもっとなんか反応しろ!!
(こ、こうなったらもう知るか! 立ったまま寝たふりをするしかない……!)
殺意マシマシ?なクラスメイト達の視線から逃れようと目をつぶる俺。
「あれ? 塁くん?」「寝ちゃった? もしもーし??」「キスしちゃうぞ?」「いいね!」
ん~ってなんか両サイドから気配が!
「よ、よくないわい!!」
逃げ出そうとした瞬間予鈴が鳴った。
ガラララ!
「おーい友野どこへいく? 席につけ」
「離してください先生! このままだと俺の学校生活が大変なことに!!」
「席につかないと欠席にするぞ」
「くっ!!」
こうして俺の平穏無事な目立たない高校生活の終わりが始まった。
「よし、以上で連絡事項は終わりだ。そんでもって……伏木、お前はなぜ友野の傍の席に座っている?」
朝のホームルームの終わり際に先生がやっと二人の伏木さんに尋ねた。
いや、確かに勝手に席替えしてるのはおかしいけど……おかしいけど伏木さんが二人いることを追求しないつもりかこの担任……?
「はい先生! 大谷君と桜井さんが席を譲ってくれたからです!」
右側の席の伏木さんが手を上げて答えた。
「塁くんの隣がいいから代わってほしいって言ったら席を代わってくれました!!」
と答えるのは前の席の伏木さん。
先生はため息をつく。
「なるほど……交渉済みならいい」
いいのか? それでいいの? 本当に? うちの担任おかしくない?
「元凶は友野ってことだな? おい友野おまえあとで職員室こい」
「ちょ、せ、先生! そんな理不尽な……! というか伏木さんが二人いることになにかないんですか!?」
「奈子でしょ塁くん?」
「奈子だよ?」
「いだだだだ!!」
俺の両足の甲をぐりぐりと伏木さん達が踏む。
先生は伏木さん達に目を向けて、ぽりぽりと頬を掻いた。
「だって伏木だしなぁ……」
その呟きにクラスメイトたちが一斉に「うんうん」と頷く。
さっきから思ってたけどお前等それでいいのか? 本当にそれで納得していいのか?? 人間は本来分身しない生き物なんだぞ……?
唖然としているのは俺一人だったのかもしれない。
「じゃ、ま。そういうわけで今日も勉学に励めよお前等」
先生は教室から出て行った。
一時間目の数学が始まるまで約5分のインターバルがある。
その間に、クラスメイト達はというと……。
「伏木さんどうしてこんな奴と!」「どう考えても陰キャだぞこいつ!」「なにか弱みを握られてるの?」「処す?」「こんな奴のどこがいいの?」「まあ、伏木さんだからな……」「宇宙人の戯れ?」「キャトるの?」「もしかして非常食?」伏木さんの周りに集まってワイワイガヤガヤ言いたい放題だった。
お前等! 前半の俺への言いぐさはその通りだからいいけどな! 後半の伏木さんへの言いぐさは人間扱いしてなさすぎだろ!! 謝れ! なんてツッコむ勇気は勿論ない。
伏木さん×2はまんざらでもない表情だった。
「え~、塁くんの好きなところ? 内緒!」「にらめっこ強いんだよ塁くん!」「あとね……えっとね~」なんてマイペースに喋っている。
そんな平和な会話の裏で、俺はクラスメイト達の冷たい視線と肘ガスガス攻撃にさらされていた。
(なんでこんな目に……てか、明らかに一人、顔面を狙ってガスガスしてるやつがいやがる!!)
腕でガードしながらそいつを見上げると、そいつは横目で俺を睨み小声で言った。
「お前ごときが伏木さんにふさわしいわけがない……今日の放課後僕と勝負しろ!」
……勝負って何?