そんなわけで放課後。
俺は肘ガスガス君改め
具体的に何をするかは聞いてはいないが、「放課後学校近くの河川敷で待つ」とのことで、俺は夕陽がまぶしい河川敷に向かった。
「おいふざけるなよ友野塁! なんで伏木さん達がいるんだ! 勝負って言ったら普通一人で来るだろなめてんのか!」
そっちの普通なんて知るか。
「いや、一人で来ようとしたんだ……でも、伏木さ――奈子さん達が……」
呼び直したので伏木さん×2はうんうんと頷いて足を踏むのを止めてくれた。
代わりに俺の腕に引っ付く伏木さんズ。
「塁くんデートは?」「デートデートデート!!」
「って、ずっとこんな感じ」
正直俺も困っている。
デート?
昨日まで教室の後ろで気配を消す練習をしていた奴がそんなコミュ力レベル1000みたいな行為できるわけないだろ! なめんな!!
「み、見せつけか!! 友野塁貴様ァ! 見せつけて僕の気力を削ぐ気だろ!! 伏木さんが二人いることで効果は2倍で大ダメージだからなこのヤロウ!!」
なんか、膝から崩れ落ちて地面を叩きだしたぞあいつ。
「あの人、変な人だね塁くん」
「急に叫んで地面叩いて、変だね、こわい……」
「伏木さん達がそれを言っちゃいけないと思うぞ?」
さんざん地面を叩いた朔太郎くんは立ち上がると俺を睨み不敵な笑みを浮かべた。
「くっくっく、なかなかやるな。だが僕はサッカー部のエースなんだぞ? 勝負はこれからだ!」
まだ何も始まっていないんだが……。
「それで、勝負って何をするんだ?」
もう早く終わらせて帰りたいので合わせることにする。
「くっくっく! 慌てるな友野塁! まずは僕が勝った場合の話をしよう! そうだな、僕が勝ったら伏木さんを一人僕にくれ!!」
何言ってんだこのサッカー部エースは。
「いや、伏木さ――奈子さんは物じゃないし、あげるあげないは俺達が決めることじゃないだろ」
若干語気が強まってしまった。
なんかこの朔太郎くんは勘違いしてる気がしたから。
率直に言って、不快だ。
「「うーん……」」
奈子さん達が何か神妙な面持ちで唸りだす。
朔太郎君の言葉に気分を害したのだろうか?
「そうだね。片方はプレゼントしてもいいかも!」
「うんうん! そうすれば塁くんを独り占めできるからね!」
「…………あ、そういう感じ?」
伏木さん達は全然気分を害してなかった。
むしろどちらかを朔太郎くんにプレゼントすることで、片方が俺を独り占めできるというメリットに目をむけていた。
……自分の安売りは良くないと思うぞ伏木さん。
だが、朔太郎くんは大歓喜だ。
「やった! いいんだね伏木さん!! 俺が友野塁に勝ったら付き合ってくれるんだね!?」
「うん! そうだね!」
「うんうん! 君の提案は素晴らしいよ肉太郎君!」
「あ、肉太郎じゃないです。朔太郎です……」
「じゃあ、付き合ってあげてね私?」「いやいや、何言ってるの? あなたこそ付き合ってあげてね?」
伏木さん達は互いに互いを見つめて笑顔で固まった。
……おっと?
「あれ、伏木、さん?」
朔太郎くんは二人の伏木さんを交互に見比べておろおろ。
「言い出しっぺのあなたがそこの肉太郎君と付き合うべきじゃない?」
「いやいや、私は塁くんがいいの。あなたこそそこの小太郎君と付き合ってあげたら?」
なんか、この流れ既視感あるな……。
「え、え……? あ、あの伏木さん?」
朔太郎君は大困惑。
伏木さんズは微笑みながら互いに手を横に振る。
「いやいやいや」「いやいやいやイヤ!」「無理無理無理無理!」「ダメダメダメダメ!!」
「嫌々嫌々嫌々嫌々嫌々!!!!」
二人の伏木さんはお互いにしばらく嫌、無理、駄目! を必死に繰り返した。
それを目の前で見せつけられた朔太郎くんは「ぐふっ! がはっ! ぐわッ!!」とうめいて地面に倒れてしまう。
「無理よ無理! あんなサッカーしか能がなさそうな人! 脳筋は無理!」「私だって! くっくっく……とか笑う変な人は嫌!!」
「やめたげて! 朔太郎くんなんか地面でびくびくしてるから! それ以上はもう言わないでやって!?」
……流石にこれは惨すぎる。
「「はっ!?」」
最終的に何か通じ合うものがあったのか伏木さん達はお互い硬く握手を交わした。
「「ごめんなさい。私達やっぱり塁くんじゃないとダメみたい。もう帰ってくれる??」」
そんなことを笑顔で告げる伏木さん×2。
目の前でイヤイヤ合戦を見せつけられたあげくそんなことを言われた朔太郎くんはもはや虫の息だった。
「は、はー……はー……ぐふぁっ……や、やるじゃないか、友野塁……僕をここまで追いつめるなんて……」
勝負してないのに服はボロボロだし、膝ガクガクしてるし……満身創痍じゃないか……可哀想に。
「いや、やったのは主に伏木さん達というか。その、なんか……ごめんな。立てるか」
「……お前、実はイイやつ、なのか?」
そういう君は変な奴だろ……なんてしゃれたことは友でもないので言えず。
「いいやつかどうかは……どうなんだろな」
俺はとりあえず朔太郎くんに肩を貸して、家まで送り届けることにした。
「塁くん! デートと言ったらクレープでしょ?」「ちがうわ! タコ焼きよね?」
ずいずいと、バナナクレープと、タコ焼きを差し出してくる奈子さんズ。
「「どっちが好きなの!?」」
「奈子さん? 今は寄り道する気は……」
「貴様友野塁! 奈子さん達とのイチャイチャを僕に見せつけるために肩を!?」
「ご、誤解だ!!」