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第4話

 翌日のお昼休みにて。

 昼休みのチャイムと共に教室から抜け出して、たまに昼飯を食べるのに使う旧校舎のじめじめした裏庭に逃げ込んだ俺。

 伏木さん×2のおかげで教室はもはや俺にとって安全な場所ではない。

休み時間、授業中関わらず伏木さんは俺の傍に来て「塁くん、しりとりしよ?」だの「指ずもーは?」「またにらめっこする?」「ねえねえねえねえ!」とこんな感じで二人そろって構ってくるのだ。

寝たふりも、読書も、瞑想も伏木さんには通じない。

 もちろんクラスのやつらの好奇と殺意が混ざった視線が、四六時中俺に突き刺さる。

 自称陰キャの俺がこんな毎日に耐えられると思うか?

(胃がキリキリすんだよ! せめて昼飯くらいゆっくり食べたい……)

「まあ、ここまで来れば流石の伏木さんも――」

「奈子だよ!」

「奈子って呼んで!!」

「いだだ!? な、何故ここが!?」

 足の甲をそれぞれ踏まれた。

 い、いつ俺の左右に……。

自慢じゃないが気配消しならクラスの誰にも負けないと思っていた。

(その俺が、気づけないなんて……悔じぃ!)

 伏木さん達は俺の腕をとると、その場に座らせる。

「あのね、ご飯まだだよね?」

「作ってきたから、一緒に、食べよ?」

 もじもじほほを赤らめてからの、可愛らしい花柄の弁当箱を差し出される俺。

「っ!」

 俺は顔をバッと背ける。

(く、悔しいけどさすが才色兼備文武両道の美少女……やっぱかわ――)

「友野塁きさまぁ!! 伏木さんの手作り弁当だと!? うらやましいいいいい!!」

 植木の影から絶叫しながら出てきたのは朔太郎くん。

「なっ……! 何故君までここに!?」

 伏木さんだけでなく、こいつも俺より気配を消すのがうまいの? 

(馬鹿な……目立たない陰キャを目指してきた俺の努力がこんな簡単に……!)

 絶望を感じていると、伏木さんが朔太郎くんに視線を向けた。

「うらやましいの?」「そうなの?」

「あ、はい。伏木さんの手料理なんてめっちゃ羨ましいです!!」

 朔太郎君の素直さに、奈子さん達はこんなこともあろうかと言わんばかりにもう一つ、お弁当箱を取り出した。

「実は余分にある」「塁くんがどれくらい食べるかわからなかったから」「たくさん作ったの」

 伏木さん達は俺を見上げて「「あげてもいい?」」と声をそろえた。

「あ、え、勿論伏木さ――奈子さん達が一生懸命作ったお弁当なんだから、俺に聞かなくてもいだだだだだッ! なんで踏んだ!?」

「塁くんの為に作ったの!」「このお弁当は塁くんの為!」

 どざー!! とバッグから大量のお弁当箱。

「な、なるほど、全部俺の為だからってことか……ありがとう奈子さん達。でもこんなには食べれないが?」

「わかればいいの」「うんうん」

 満面の笑みを浮かべて俺の両腕にひっつく伏木さん×2。

 朔太郎くんは血の涙を流しそうなほど目をかっぴらいて俺を睨んでいるが……こうなった伏木さん達はマジで引きはがせないんだ……許せ。

「じゃあ、食べていいよ」「どうぞ肉太郎君」

「あ、朔太郎っす……。マジで? やった! 伏木さんの手料理! いっただきまーす!!」

 朔太郎くんはさっそく弁当を一つ手に取ってその蓋をパカリ。

 白米の上にはゴマ、アスパラベーコンにトマト、ミートボール、きんぴらごぼうに定番の卵焼き……。彩り豊かでおいしそうな内容だった。

「うひょー! うまそう!!」

 箸を動かして豪快に食し始めた朔太郎くんは思い出したかのように俺に箸の先っぽを向けた。

「あ、そうだ友野塁! まだ決着はついてねーからな! 僕はまだ貴様が伏木さんにふさわしいなんて思ってねーぞ!」

 そりゃ、俺も思ってない。

 伏木さんみたいな美少女と、俺みたいな陰キャが釣り合う筈がない。

「ああ……うん、そうだな君の言う通りだ」

「あっさり肯定すんなよ!!」

 なんか伏木さん達が「悪口?」「塁くんの悪口言ってるこの人?」「処す?」「どうする?」ってひそひそ会議してるけど……大丈夫か?

「でも、昨日は家まで送ってくれてサンキューな! 教室の隅で近づくなオーラ出してたくせに、案外付き合いはいいのなお前」

 朔太郎くんはニカっと俺に笑顔を向けた。

「そ、それはまあ、放っておけなかったというか……なんというか……」

 調子狂うなぁ……俺は話題を反らすために伏木さんのお弁当に手を伸ばす。

伏木さんズは腕組みしてコクコク頷いていた。

「うんうん。塁くんの良いところに気付くなんてね」「やるね肉太郎君!」「でも塁くんは私のだからね!」「違う、私のだよ?」「いやいや、私」「いやいやいや私……!」

 「ぐぬぬ」とまた伏木さん達が額と額をぶつけ合う険悪なムードだ。

「と、止めなくていいのか友野塁?」

「いつものことだから、まあ……」

「学年トップクラスの美少女の喧嘩を前に、意外と度胸あるな友野塁よ……」

「褒めてる、のか?」

 なんやかんや俺が望む平穏な昼休みが過ぎて行った。

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