「塁くん! 今日は帰り道ちょっと遠回りしたいな!」「いい? いいよね?」
「まあ、うん……はい」
どうせダメって言っても連れていかれるのだ。
宇宙人系美少女は話を聞かないのがデフォルト。
「やった!」「いこいこ! こっちー!」
彼女に引っ張られてたどり着いたのは町はずれの神社だった。
「なんで神社?」
「なんでって、ねえ?」「ここでお願いしたら二人になったんだよ?」「塁くんと恋人になれたのはそのおかげ!」「だからお礼参りにきたの」「塁くんもつれて、ね?」
ねー! と笑い合う伏木さんズ。
(この神社で神頼みしたら二人になったってのか? 俺なんかと恋人になるために??)
「……なあふし――奈子さん。どうして俺なんだ? 一緒にいて面白いのか?」
ずっと覚えている違和感。
自ら孤立を選び、クラスの隅で空気と化していた俺に好意を向ける理由。
「うーん。塁くんが笑わないから、かな?」「うん。笑わないからだね」
伏木さん……いや、奈子さん達はいつものハイライトの消えた黒瞳でじっと俺を見据えた。
「え、は……どういう、ことだ?」
まるで訳が分からない。
笑わないから好きになった? なんじゃそりゃ? 頭の中どうなってんだ? 宇宙人かよ……。
奈子さんズはふっと微笑む。
「いつか絶対笑わせてあげるからね!」「ふふふ! 覚悟してね塁くん!」
言っちゃった! キャーと、奈子さん達はしめ縄でひと巻きされているご神木の周りを子供みたいにくるくる走りまわる。
(……じゃあ、俺が笑わないせいで奈子さん達は俺の恋人になったのか?)
「なんだよ、それ……」
謎は深まるばかりだ。
「話は聞かせてもらいました、ですわ!!」
突如、境内に響く大声。
「誰?」「どこ?」
「とう!!」
しゅた! 石畳の上にうちの高校の女子制服に身を包んだおさげでメガネの生徒が現れる。見た目だけは俺の理想の恋人像にぴったり一致する。
が……。
「えっと……?」
その女子生徒は俺達の視線が集まったところで、優雅に頭を下げた。
「申し遅れました、ですわ。私の名前は
おーほっほっほ!!
「……は?」
いや、婚約者なんて聞いた覚えもいた覚えもないが?
……小山内那占美、マジで誰?
「ええええええ!?」「どういうことどういうこと塁くん!」「私達を捨てるの!?」「いやいやいやいや!!」
ポカポカポカポカ!
「いたいいたいいたいいたい!! 落ち着け奈子さん! 俺に婚約者なんていないから!! だから、涙目でこっち見るのやめて? おいそこの那占美とか言うのふざけるな! 撤回しろ!!」
いくら俺の好みの見た目だからって奈子さんを泣かせるのは許さないぞ!
「ふふふ! この写真を見ても婚約者じゃないと言い切れますの!?」
彼女は手提げカバンから複数枚の写真を取り出した。
「な、こ、これは!?」
そこには全部俺が映っている。
食事中、家で勉強中、トイレから果ては風呂まで……。
「おいこら! てめぇなんじゃこりゃ! なんで俺の写真をこんなに……!?」
(しかも撮られた覚えのない写真が沢山……いつのまに? なんで?? てかストーカーじゃねーかこいつ!!)
彼女は家でゲーム中のニヤケ面の俺の写真を手に取って奈子さんズに示す。
「伏木奈子さん? あなたは塁様の笑顔を見たことがないのですってね? 私はありますわよ? この写真! ほーら? 羨ましいでしょぅ? これで私が婚約者だとわかったはずですわ!」
そんなトンデモ理論を力強く宣言する那占美さんとやら。
(なんで変な奴が次から次に……!)
頭を抱える俺。
「ば、ばーか! 婚約者とか寝言言ってんじゃねえストーカー!」
もう帰ろう! さあ帰ろう! 面倒だから今帰ろう! 奈子さん達を引っ張ってこの場を離れようとした俺だが……。
「あら? 逃げるの? それじゃあ塁様は私のモノになりますわねぇ……ホホホ!!」
俺は誰のモノでもねーよ。
那占美さんの挑発に奈子さん達は俺の足を踏んで立ち止まった。
「いだだだ!! ちょ、奈子さん達! あんなの相手にしなくても……」
後で被害届出すからいいのに……!
「「塁くんは黙ってて!」」
「あ、はい……」
止められるはずもなし。
もう知らん……!
「小山内那占美さん、勝負!」「私達が勝ったら塁くんは私達のモノだから!」
……あ、奈子さんも俺の意思は尊重しない感じ?
「かかってきなさい。二人まとめて相手してあげるわ!」
そして彼女らは「ぐぬぬぬ」と、額と額と額をぶつけた。