かくれんぼに鬼ごっこ。
およそ高校生の勝負内容とは思えないが、やはりというかなんというか、奈子さんズの圧勝だった。
そりゃ才色兼備文武両道で宇宙人の称号まで持つ彼女達に勝てる人間は少ないだろう。
「そ、そんな馬鹿な! 私の塁様への愛が負けたというの!? ポッと出の小娘共にこの私の愛が!?」
(二対一にしなけりゃよかったのに……)
お前は俺のどこに惚れたんだ?とあのストーカーには是非聞いてみたいけれど……なんか怖い。
「ポッと出じゃないもん! あなたの愛こそ偽物!」
「真実の愛の勝利! 私達の方がずっと長く塁くんを見てたんだから!!」
「言ってくれますわねきぃいいいい!!」
白いハンカチを噛んで悔し泣きする
まあ、勝負あったという事で。
「それじゃ……」
手を差し出すと那占美さんは「え?」とテレテレ照れて俺の手に手を置く。
「塁様。やはり婚約者の私の事を……?」
だから、婚約者じゃねーって。
「塁くん! 浮気はダメー!」「なんで! 勝ったの私達だよ! どうして!!」
「いだだだ足踏むな! そうじゃないそうじゃない! ほら、那占美さんだっけ? 俺の隠し撮り写真のデータ全部出せ。燃やすから」
どうせマイクロチップとかUSBとかあるんだろ?
「え? な、何を言っているのですか塁様! そんなもったいないこと断じてでき――」
「被害届出してもいいんだぞこっちは」
盗撮は普通に犯罪だからな。
「ぐっ!? そ、それは困りますわ! また警察のお世話になるわけには……わかりましたわ! 出せばいいんでしょ! 出せば……!」
警察のお世話になったことがあるのか……やばい奴だなこいつ。
バラバラバラ……と手提げ袋からたくさんのマイクロチップが出てくる。
「うわぁ……」
流石にドン引いた。
(これ全部俺の写真が? 言っちゃアレだが、なんで俺なんだよ……こんな陰キャ撮っても面白くないだろに……)
「そんなことありませんわ! 塁様はなんかこう絵になるんですの! アンニュイな感じと言うか、一匹オオカミに訳あってなっている感じがこう……そそられるのですわ!! そしたらいつの間にか私あなたのことが……ポッ」
ほう、そういうストーカーへのなり方もあるのか……ん?
「そうだよ塁くん! 自信もって! 人間は中身だから!」「大丈夫! いつか笑えるよ
塁くん!! それに今は一人じゃないよ!」
「……あれ、またなんか口に出てた?」
奈子さん達に聞くと彼女たちは優しみの目でうなずく。
「「うん! 塁くんは面白いよ!」」
恥ずかしい!!
「か、かか、帰る!」
俺は夕日に向かって走り出した。
夕食後、部屋でごろごろしていると知らない番号から電話がかかってきた。
『夕刻は大変失礼いたしましたわ塁様』
「……なんで俺の携帯番号知ってるわけ?」
教えてないよな、こいつに。
『不肖この小山内那占美。好きな殿方の情報ならなんでも知っていますわよ? 今日の塁様のお夕飯は……』
「お前マジで通報するぞ?」
家に監視カメラとかしかけられてないよな?
『ああ、すみませんすみません! ジョークですわ! 那占美ジョーク!! ふふ、それにしても塁様、伏木奈子と付き合ってからというもの少し口数が増えましたわね?』
明らかに話題反らしだったが、それはそれで気になったので乗ることにした。
「奈子さん達と付き合ってから?」
『ふふふ、そうですわ。孤高の狼だったあなたのオーラがどこか少しだけ優しくなったと言いますか、しゃべるとそんな感じなんだとか……婚約者の私にはわかるのですよ?』
ふふふと、意味深な笑い声が響く。
「神社でもそうだったけど、その婚約者ってのなんなん?」
ほぼ話したことのないクラスメイトにいきなり言われたら誰だって気になる。
それでも、二人に分裂して告白してくる奴のインパクトの方が強いけど。
『だ、だってだって! 私は抜け駆けされてしまったのですのよ! 今からポイントを稼ぐには婚約者という設定にしておかなければ伏木奈子に勝てないじゃないですか!! 塁様は私のものです!!』
「設定かよ。てか別に俺は誰のモノでも……」
『あら? 奈子さん達は塁様の恋人宣言をしていましたわよね?』
「そうだけど、それはその……」
しどろもどろになる俺。
なんて言えばいいのだろうか、強制恋人? 成り行き? 奈子さんにはもっとふさわしい人がいるはずだから……早く目を覚まさせてやりたい――。
『ふふん? これはこれは面白いですわ♪ 塁様にとって奈子さん達は恋人ではないのですの?』
そう、言われても。
「…………わからない」
俺と奈子さんじゃ釣り合わない。
友人? 宇宙人? 振り回されているのは確かだが……。
『ふふ、謝罪だけでお暇するつもりでしたが、いい情報もつかめましたわ! 私はまだまだ諦めませんのよ塁様! それではでは!』
一方的に満足して那占美さんは通話を切った。
「…………」
連絡先一覧を開いて、『伏木奈子』の電話番号を開き……。
「うぬぼれんな俺」
俺はスマホをベッドに投げ捨てた。