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第8話

 迎えた月曜日の朝。

 いつもより気が重かった。

 今日からどんな顔をして奈子さんに会えばいいのか……。

「……いってきま~す」

 家を出ると遠くから声が聞こえた。

「塁く~ん」「塁くん~!」

 びくっと肩が震えた。

 何故いつもの調子なのか。ひどいことを言ったのにどうして……。

(いや、逃げちゃだめだ……ちゃんと向き合わないと……)

そうして振り返ると、朝日の中手を振って走ってくる笑顔の奈子さんが二人。

「塁くーん」「塁くんー」「るいく~ん?」

 ん? ん? その後ろに奈子さんが1、2、345……。

「る~いくん」「るいくん!」「るいーくん!」「塁くん!」「塁塁!」「るるいるい!」「るーーいくん!!」「るるい!」「「るる」」「「るるるるるるるるるるるr!!」」

 …………。

「なんかいっぱいいるぅうぅうぅううう!!!?」

 俺は反射的に逃げ出した。

 振り向けば道路を埋め尽くす伏木奈子の大群が俺を追いかけてきている。

 どうなってるどうなってるどうなってる!!!?

(天罰? 天罰か!? 俺ごときが奈子さんをフッたからその報いか!?)

 それともこれは夢?

「いでででで! 夢じゃないだと!?」

 古典的に頬をつねってみたらめちゃくちゃ痛かった。

 「るるいるい?」「るるるるるるう」「るいるいるいるい」「るいぐううううん」「るるるr!」

 地鳴りのように迫ってくる奈子さん達。

「いやああああああ! たしゅけてぇえええええ!!」

 情けない声を上げながら俺は必死に走った。


 建設途中で放棄された廃ビルにて。

「るいぐん、どこ?」「るいくん……」「見つけるんだから……」

 のっしのっしと沢山の奈子さんが廃ビルから離れていく。

「……行ったか?」

 廃ビルの中から外の様子をうかがっていた俺は安堵の息を吐く。

 ここならもう安心だろう。

 トゥルルルル!!

「バッカヤロウ!?」

 俺は慌てて通話に出た。

「今奈子さん達に追われてるんだ、後にしてくれ!!」

『塁さま! 塁様ああ無事でしたのね! 大変ですわよ! 伏木奈子が大群で町にーー』

 ガシャン……。

 那占美さんの言葉を最後まで聞くことなく俺はスマホを落とした。

 窓枠に複数の奈子さん達が張り付き、こちらを見ていたからだ。

「るいくん……」「るいぐんみづげだ!」「塁くん、どこ、いくのぉ?」「寂しかったんだから、ね?」

 いつものハイライトのない黒瞳で、いつもの笑みを浮かべている奈子さん達……それなのに、何故かおぞましかった。

「あ、ああ、あああ……!」

 後ずさる俺。窓枠を超えて廃ビルの中にぞろぞろと侵入してくる奈子さん達。

「なんでだ、どしてそんなに増えちゃったんだ奈子さん!!」

 もう半狂乱でそんなことを口走りながら、壁際に追い込まれる俺。

とうとう奈子さん達に囲まれてしまった。

「「「「「「ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふ!」」」」」」

 そして一斉に笑い出す奈子さん達。

「ひぃ!! ごめん! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

 俺はもはや頭を抱え反射的に謝っていた。

 その時だった。

「まったくその通りじゃこのバカたれがぁあああああああ!!」

「え? ばぼべらばっほふおおおおおお!?」

 ドグシャアアアァッ!!

 どこからともなく飛んできたライガーキックに体を九の字に折り曲げられて吹き飛ばされ、反対側の壁に叩きつけられる。

呼吸が出来なくなるくらいにめちゃくちゃ痛いけど、骨が折れたりはしていなかった。

(まさか、い、意識が飛ばない程度の絶妙な手加減を!?)

 ライガーキックを放った闖入者は量産型奈子さん達を次々に撃ち倒しながら叫んでいた。

「貴様が!」

 バキバキバキ!! 正拳突き正拳突き正拳突き。

「奈子をフッたから!」

 ドガガガガガ!! ヤクザキックヤクザキックヤクザキック!

「こうなったんじゃぞ馬鹿者ぉおおおおおおお!!」

 ドゴーン!! アッパーカットでフィニッシュ。

 廃ビルに侵入してきた奈子さん達を全滅させた人物はふーと軽く息を吐きだして、ボロ雑巾になった俺の下へ。

「責任取らんかいこの阿呆が!!」

 やっと息がまともにできるようになった俺は声をひねり出す。

「いだだだ、せ、責任って……あなたは……な、奈子さん!?」

 胸倉を掴んで俺をひったたせたのは髪と目の色が白色に変わった奈子さんだった。

「寝言は寝て言えタワケ! 我はこの町の守り神のナナフシ! この姿は奈子に力を奪われてしまったが故の世を忍ぶ仮の姿じゃ!!」

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