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第9話

 一歩を踏み出すために、勇気をください……。

 守り神のナナフシ様は奈子さんの一途な願いを聞いたらしい。

 だが、ナナフシ様は考えた。

恋にはライバルが必要だと。

 しかし恋のライバルを登場させ、もしライバルが勝ってしまったら困る。

「そこで我は考えたのじゃ。どちらが勝っても問題ないようにすればよい。ライバルも本人ならば都合がいいじゃろとな」

「…………」

「そして見事奈子は貴様と恋人になったというわけじゃ! 我のおかげでな」

 自慢げに鼻を鳴らすナナフシ様。

 奈子さんの願いを叶えたと豪語するから、どうして二人にしたのか聞いてみたら……。

「バッカじゃねーの?」

「なっ!? 貴様神に向かってなんと罰当たりな!! 神罰を下すぞ!!」

「スミマセンつい本音が……」

 ナナフシ様は「ぐぬぬ」とうめいたのち、コホンと咳ばらいをして平静を取り戻した。

「ま、まあ、我の完璧な所業は良いとしてじゃ。友野塁。貴様の罪は大きいぞ。何故なら奈子が無限増殖した原因は貴様じゃからな。わかっておろう?」

「……俺が、奈子さんをフったからって言うのか?」

 心当たりどころか、しっかり記憶に残っている。

 ……人生で初めて女の子を泣かせたのだから。

 しかも、目の前に色違いなだけで同じ姿をした神様がいる。

 でも、無限増殖するのはおかしくね?

「そうじゃこのバカ者! 責任とれ! 奈子の想いの暴走は凄まじいんじゃぞ!! 我の本体であるご神木までをも取り込んだということは、神以上に想いが強いということの証左なのじゃからな! 恐ろしいわ!!」

 奈子さんの大群が俺を狙っているのはわかる。

だから責任の所在も、めっちゃ理不尽だけど俺ってことになるのもまあ、わかる。

 だけど、やっぱり理解できない点がどうしてもあった。

「証左って言われても……どうして俺なんだよ? 俺は奈子さんの幼馴染でもなんでもないぞ。それなのに、なんで神様以上に想いが強くなる? ……意味わかんねーよ」

 教室の隅で気配を消してるような変人に誰が惚れる? 

(笑わないから? 笑わせたい? そんな理由で人を好きになるとか……ふざけてんのか?)

「この、クソ面倒くさい青二才が!!」

 ナナフシ様の小さな拳が俺の顔面を撃ち抜いた。

「っ、ぐっ! この、何しやがる!!」

 一二歩よろけて鼻血を拭った俺。

その胸倉をつかんだナナフシ様は噛みつかんばかりに叫んだ。

「なんにでも理由があると思うなよ小僧! 恋は突然始まるのじゃ! 走り出すんじゃ! 小さなきっかけで、無限のエネルギーが生まれるのが恋じゃ!! 貴様ごときの裁量で恋を語るなバーカ!」

「でも、おかしいだろ! 俺みたいな変人を奈子さんが好きになるなんて!! それこそ宇宙人に洗脳でもされてねーと納得できないんだよ!!」

「だからフったのか」

そんな問いが来るとは思わなくて、息が詰まった。 

「ち、ちが……俺は……ただ」

奈子さんには不幸になってほしくなかっただけで……。

ナナフシ様は憐れむように俺を見下ろして告げた。

「色眼鏡を外せ小僧。貴様の本当の想いはどこにある?」

「俺の……想い?」

「この、バカヤロウがぁあああああああ!!」

 横から俺の頬を撃ち抜く正拳突き。

「ぐはっ!?」

 俺はよろけて、膝をつく。

 見上げると、拳を振り抜いた姿勢の中尾朔太郎くんが、嫌悪の表情で俺を見下ろしていた。

「友野塁! 貴様見損なったぞ!! お前伏木さんの美少女力に恐れおののいて恋人を辞退したってのか!」

「さ、朔太郎さくたろうくん、何故ここに……」

「塁様! 大丈夫ですか塁様!! ちょっとそこのサッカー部エース! 加減をしなさい加減を!!」

 とキレながらカメラをカシャシャシャ! と俺に向けるおさげの女子生徒が。

那占美なじみさんまで……なんで」

「我が呼んだのじゃ。塁、貴様と奈子の両者に関係の深い人物でないと我が停めたこの町の時間の中で動けないからのう……」

 ナナフシ様の言葉に、朔太郎くんと那占美さんは頷いた。

「2Pカラー伏木さんから話は聞いてるぜ。大量の伏木さんの暴走を止めるのに貴様に力を貸せってな友野塁……腑抜けてる場合じゃねーぞ?」

「誰が2Pカラーじゃ誰が」

「私は恋敵を助けたくはないのですが……むしろこのまま塁様と破局していただきたいところなのですが……そこの2Pカラー伏木奈子にこのままだと塁様が危ないと脅されたので仕方なく」

「だから誰が2Pカラーじゃ!」

 憤慨するナナフシ様を無視して二人が俺に手を伸ばす。

「言っとくが、伏木さんの為だからな友野塁。お前との決着はいずれつける!」

「私は塁様の為に力をお貸しいたしますわ! 伏木奈子ふしきなこの為なんてとんでもない! おーほっほっほ!」

 にらみ合う両者。

「あ? 伏木さんの為だろこの写真女が!! 殺すぞ!?」

「は? 塁様のために決まってましてよ? 脳みそにサッカーボール詰まってますの?」

 ギャーギャーわめきだした二人を横目にナナフシ様が俺を見上げてにやりと嫌らしい笑みを浮かべる。

「で、この二人はやる気らしいが。小僧、貴様はどうする? 逃げるか、それともフった女の暴走を止めに行くか。好きな方を選べ」

(こいつ……ここまでお膳立てしておいて、ムカつく)

 俺は深呼吸して覚悟を決めた。

「止めてやるよ。そんで、もう一度奈子さんに会う」

 会って確かめる。

 俺の、気持ちを。


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