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act04 それは

あれからも私の気持ちは変わらなかった。それはかみさまがくれたチャンスだったのかもしれないと思いながら。


04


理久くんの話を聞いてから1ヶ月、私は相変わらず étoile エトワールで働いていた。私は苗字ではなく名前で呼ぶようになった。理久くんもそれを何も言わず受け入れてくれたし問題はない。 étoileエトワールには色んな人がいたけれど理久くんのことを深く知っている人は店員さんにもお客さんにもいないようだった。どうしてだろうと思う。どうして、理久くんは私にあんなことを言ったのだろう。ここで働くだけなら、働いていくだけなら私があんなことを知る必要はなかったのに。理久くんのいうことがわからなかった。理久くんのこともわからなかった。そしてこのことを考えている私は本当に理久くんのことを好きになってしまったのだと思った。人間とAIの恋が叶うとは思わない。それでもわかりたいと思ってしまった。理久くんの気持ちを、ここにいるわけを、そして、私のことを見る、AIだからだろうか、冷たい瞳の理由を。冷たいと思ってはいないだろうけれど。

「いらっしいませ。何名様ですか?ご案わ内致しますね。」今日も同じ日々が始まる。私はどうしてか étoileエトワールの看板娘になっていた。店長曰く、笑顔と言葉遣い、それからケーキに対する愛情がお客様から評判らしい。意識はしていなかったけれど、それは嬉しいことだった。ここで働いていける。理久くんのことを考えられる。もしかしたら店長にも他の職員にも私の気持ちは気づかれていたのかも。物好きだと思われているのかもしれない。それでも働かせてもらえるのならそれは些細なことだった。

「お疲れ様です」いつもと変わらず挨拶をしてスタッフルームを出る。丁度理久くんと同じになった。少し気まずい思いをしながらも挨拶をする。

「理久くん、お疲れ様です。もうあがり?」

理久くんはきょとんとした顔をして、それから笑顔になって(可愛すぎるっ)、

「はい、今日は僕をここへ派遣した人が来るので早めにあがらせてもらうんです。」

派遣した人というと、理久くんを作った人か。理久くんのことも気になるけれど、理久くんを作った人にも同様に興味がある。何を思ってこんな高度なAIを作ったのだろう。人間と変わらず、綺麗な笑顔で、寂しいことを言う理久くんを。他にこんなAIがいるという話を聞いたこともない。私が聞いていないだけかもしれないけど、少なくとも他にもいるなら少しくらい話題になる筈だ。そんな思いから理久くんに言う。

「そうなんだ。ね、私も同席してもいい?同席というか、興味ある。だってその人は言うなら、理久くんの親代わりみたいな人でしょう?私もここで働いているし挨拶したい。それから話してみたい。駄目かな?」

それを聞いた理久くんは不思議そうな顔をして、それから頷いた。

「大丈夫だと思いますよ。湊さん、あ、僕を派遣した人、そして、僕を作った人です、湊さんも étoileエトワールでの僕の様子を聞きたいでしょうし。店長とも話しているみたいなんですが、同じ立場で働く人の意見も知りたいと思うんです。それは思うだけですが。」

不思議な言い方をすると思った。理久くんが思ったならそうじゃないんだろうか。それはこれから知っていけばいいか。そう思いながら理久くんに付いて行く。___本当に軽い気持ちで。

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