集会所の一件のあと、四条が「天」から逃走するとき、当然、それは小石川正義の采配
によってある意味、保証された行動だったことが四条には再度よく分かった。
まず、舞踏館の隣にある詰所を通行するためには、いったいどの時代の誰が入れ知恵し
たのかは分からないけれども、空港の危険物探知所を思わせる、小さい鳥居のようなゲー
トが二つあった。四条と五家一本がそこを無許可で通過したとき、ブザーやサイレンのよ
うなものが鳴り響いたわけでもなかった。
そして、自警団の者たちの中には、状況がよく分かっていないのか四条を取り囲もうと
する向きもあった(もっとも、それが彼らの職責であり、状況を分かっていて見逃す方は、
むしろ自警団員としては失格ではないか)。だが、小石川正義とその取り巻きがやって来
て、小石川が腕を右にふると、四条たちを取り囲んだ自警団員は彼らを解放した。
次に、舞踏館からの「谷口」と「川口」との距離の問題である。東西よりも南北にかけ
ての方が長いという長方形をしている「地」において、当然北塀にある「谷口」の方が南塀にある「川口」よりも近い。四条は、本当であれば手短に逃走できるはずの「谷口」を選ぶのが当然だった。けれども、舞踏館にある詰所と、それから「谷口」のすぐ南にある火消し隊の連中も騒ぎを聞いて駆け付けたのだが、彼らは「谷口」を封じるように人の壁を作った。結果、四条は、「川口」を目指すことになる。このとき、彼岸にも自警団員の詰所があるのだが、そこを守る者たちは何だかボンヤリしていたのか、此岸を南に逃走する四条たちを見て、ようやく渡し船を漕ぎ始めるといった塩梅だったから、四条としては「谷口」ではなく「川口」を選ばされたと表現するべきかもしれなかった。それは誰の手
によって?
―― 小石川正義である。
おそらく、小屋に逃げ込むところまでにしたって、小石川正義には見通せたに違いない。
すべて小石川正義の仕業というわけか……
【つづく】