工場(ファクトリー)の入口からは長蛇の列が伸びていた。みな、「改良」をしてもら
いにきた人々だ。
N男はS郎の手を握り、列の最後尾へと引いていった。
あるとき、N男がS郎に言ったのだ。
「男同士で愛を交わして、それで子供が出来ないというのは変だよね?」
二人が寝床の上で愛を交わしたすぐあとの会話だった。
S郎は言う。
「そりゃ、男同士ってそういうもんだろう?」
「だからさあ。愛を交わして子供が出来る。それは男女の場合のみ。というのが、納得い
かない。なんで?」
「じゃあ。男が男で、女も男だったら、満足なわけか?女っていう区分が無くなりゃいい
って?」
「怒るなよ。そういうことじゃなくって、なんていうのかな…… 」
そんなことがあったから、S郎は仕事場からの帰りにビラを貰ったとき、帰ってすぐN
男に見せた。
「工場(ファクトリー)?」
「うん。男同士でも、子供を作れるようにしてくれるんだって」
N男は満面の笑みを浮かべて、S郎の唇に口づけをした。
工場の前に出来た列はみな、男と男の恋人同士あるいは、女と女の恋人同士ばかりだっ
た。普通に愛し合っていては、子供を設けることが出来ない組み合わせだ。
「ここにいる女と男で子供を作って分配すればいいようなもんだけど」
そう言ったS郎の頭をN男ははたいた。
「そういうことを言うなよ。子供は愛し合った結晶だからこそだぞ」
「すまん、すまん」
S郎は口では謝ったが、心ではN男の気が知れないと感じていた。別に子供が何だって
いうのだ、と。二人が愛し合えるということが全てではないのか、と。N男は子供に幻想
を抱きすぎているとS郎は感じざるを得なかった。
N男とS郎は改造された。
N男は改造された体のうち、腹の皮膚にできた扉をパカッと開いた。体の内部は精密機
械のようなカラクリ仕掛けに仕上がっている。
「プラモデルみたい。ハハ」
N男は心底楽しそうに笑った。
S郎はフンと鼻を鳴らし、「俺たちの体がオモチャになっちまったな」と皮肉を口にし
た。
「さっそく。子供を作ろう」
「どうやって?」
「どうやって、って、さっき説明書を貰ったじゃないか。僕たちが思いつく疑問なんてぜ
んぶ説明書を読めば解決できる」
廃品置き場で。
N男とS郎は自分たちの体の部品を基に、一体の小さな機械人形を作り上げた。ところ
が、N男とS郎の体には子供に部品を提供したせいで不具が出てしまった。
二人が組み立てた子供は「女はどこだー」と言ってどこかへ走り去ってしまったが、N
男とS郎は体の不具合のせいで追いかけることすら出来ない。
N男とS郎の体はすっかり大切な部品を欠損している廃品になってしまっていた。
廃品置き場の前を女が通りかかった。そこには、多くの部品が欠損した二体の捨てられ
た機械人形が抱き合う姿だけがあった。
その二体は、もはや一体の機械人間のようでもあった。
【つづく】