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■ 夢(後半) ■

 正義は顔をしかめた。俺は強引にノートを奪い取ってしまったって良かったのだろうけ

ど、何故だかそうは出来なかった。もしかしたら、誰かに見せて評価してもらいたい気持

ちがあったのかもしれない。

「なあ、一本(かずみち)」

 俺の名前は五家一本だ。

「普段、どんな本を読んでいるんだ?」

「え?最近では新人の星新一、とか?」

「誰だそれは」

 正義は、彼のカバンをゴソゴソと改めだし、新書大の本を俺の手に握らせた。

 その本は、ハヤカワ・ミステリ・ブックスの世界探偵小説全集『ドグラ・マグラ』だっ

た。

「一本。これが僕が推薦する小説さ。こういうものを読んで、もっと勉強したらどうだ?」

 俺は物凄く重要な質問をする。

「あのさ。感想とかはいいんだけど、その…… 。男が男を好きっていう気持ち、どう思

う?」

「え?」

 正義の顔は眉の横の神経が引きつったようになっていた。

 正義は、自分のカバンを持ち上げて、腰をあげてどこかへ行こうとした。

 俺は、正義の片手を引いて、座り直させた。

「どう思う?率直に言って」

「さあ?…… 。僕には関係ないかな、ってことしか言えないよ」


【つづく】

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