正義は顔をしかめた。俺は強引にノートを奪い取ってしまったって良かったのだろうけ
ど、何故だかそうは出来なかった。もしかしたら、誰かに見せて評価してもらいたい気持
ちがあったのかもしれない。
「なあ、一本(かずみち)」
俺の名前は五家一本だ。
「普段、どんな本を読んでいるんだ?」
「え?最近では新人の星新一、とか?」
「誰だそれは」
正義は、彼のカバンをゴソゴソと改めだし、新書大の本を俺の手に握らせた。
その本は、ハヤカワ・ミステリ・ブックスの世界探偵小説全集『ドグラ・マグラ』だっ
た。
「一本。これが僕が推薦する小説さ。こういうものを読んで、もっと勉強したらどうだ?」
俺は物凄く重要な質問をする。
「あのさ。感想とかはいいんだけど、その…… 。男が男を好きっていう気持ち、どう思
う?」
「え?」
正義の顔は眉の横の神経が引きつったようになっていた。
正義は、自分のカバンを持ち上げて、腰をあげてどこかへ行こうとした。
俺は、正義の片手を引いて、座り直させた。
「どう思う?率直に言って」
「さあ?…… 。僕には関係ないかな、ってことしか言えないよ」
【つづく】