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■ 夢から醒めた・さあ! ■

 四条竜之助は目覚めた。出来の悪いSF映画のような金属とクッションのベッドが四条

が地面に落下しないように地面と平行になって支えている。ベッドの上には、手術の時に

着るような水色の服を着た四条。

 四条竜之助は、やはり、火葬の夢を見た。けれども、もっと違う、何か別の夢を見たよ

うな気もしていた。だが、その夢は今にも消えて行ってしまいそうだ。花火のように。そ

の夢のことを深追いする必要はないように思えた。掴んだところで、きっと握った手の隙

間からシュルシュルと抜け出て空中に霧散してしまうだろう、と。

「驚いたな」

 四条竜之助が眠っていたベッドの傍らに一人の男が立っていた。

「生き返らない方に賭けてたんですがね。あなたのせいで大損だ」

 四条がその男の顔を見上げると、見覚えがあった。

 その男は四条の上半身を起こし、コップ一杯の水を飲ませてくれた。

「大丈夫。毒は入ってません。どうですか、生き返った気分は?」

 そのとき、四条には夢より以前の記憶が蘇ってきた。少し立ちくらみのようになり、四

条は頭をコップを持っていない方の手でさすった。すぐに男がコップを受け取り、「大丈

夫ですか?」と四条の肩を撫でた。

「あなたは、三上さんですね。婚約者を逸した新郎の?」

 三上逸郎は小さく拍手をしてみせた。

「良かった。どうです?渋いオジサンになったでしょう?」

 四条が見たところ、三上の顔には皺が寄せ、頭髪も白髪交じりだった。眼鏡はしていな

い。

「眼鏡は?」

「本当にタイムトラベラーと話している気分だ。視力は手術で治せるんです。あれ。レー

シックって二十年前にもあったかな?」

「今は、平成三十一年ですか?」

 三上は今度は拍手ではなく、一度大きく手をバシッと叩いた。

「それです、それです。実は、今はもう、平成じゃないんです」

「じゃあ、天皇は…… 」

「いや。それがまあ、込み入った話でして…… 」

 三上は肩をすくめた。

「どうやら、医者を呼ぶ必要はなさそうですね。まあ、御家属もやっていることだから」

「あの…… 。さっき、賭けてるとか何とかおっしゃってましたが、何人かが僕のことを知

っているんですか?手伝ってもらうのは三上さんただ一人のつもりだったのですが」

 三上は四条の肩を叩いた。

「冗談ですよ。アメリカンジョークです。そういうハリウッド映画みたいなウィットに富

んだ会話、あなたもお好きでしょう?」


【つづく】

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