四条竜之助は目覚めた。出来の悪いSF映画のような金属とクッションのベッドが四条
が地面に落下しないように地面と平行になって支えている。ベッドの上には、手術の時に
着るような水色の服を着た四条。
四条竜之助は、やはり、火葬の夢を見た。けれども、もっと違う、何か別の夢を見たよ
うな気もしていた。だが、その夢は今にも消えて行ってしまいそうだ。花火のように。そ
の夢のことを深追いする必要はないように思えた。掴んだところで、きっと握った手の隙
間からシュルシュルと抜け出て空中に霧散してしまうだろう、と。
「驚いたな」
四条竜之助が眠っていたベッドの傍らに一人の男が立っていた。
「生き返らない方に賭けてたんですがね。あなたのせいで大損だ」
四条がその男の顔を見上げると、見覚えがあった。
その男は四条の上半身を起こし、コップ一杯の水を飲ませてくれた。
「大丈夫。毒は入ってません。どうですか、生き返った気分は?」
そのとき、四条には夢より以前の記憶が蘇ってきた。少し立ちくらみのようになり、四
条は頭をコップを持っていない方の手でさすった。すぐに男がコップを受け取り、「大丈
夫ですか?」と四条の肩を撫でた。
「あなたは、三上さんですね。婚約者を逸した新郎の?」
三上逸郎は小さく拍手をしてみせた。
「良かった。どうです?渋いオジサンになったでしょう?」
四条が見たところ、三上の顔には皺が寄せ、頭髪も白髪交じりだった。眼鏡はしていな
い。
「眼鏡は?」
「本当にタイムトラベラーと話している気分だ。視力は手術で治せるんです。あれ。レー
シックって二十年前にもあったかな?」
「今は、平成三十一年ですか?」
三上は今度は拍手ではなく、一度大きく手をバシッと叩いた。
「それです、それです。実は、今はもう、平成じゃないんです」
「じゃあ、天皇は…… 」
「いや。それがまあ、込み入った話でして…… 」
三上は肩をすくめた。
「どうやら、医者を呼ぶ必要はなさそうですね。まあ、御家属もやっていることだから」
「あの…… 。さっき、賭けてるとか何とかおっしゃってましたが、何人かが僕のことを知
っているんですか?手伝ってもらうのは三上さんただ一人のつもりだったのですが」
三上は四条の肩を叩いた。
「冗談ですよ。アメリカンジョークです。そういうハリウッド映画みたいなウィットに富
んだ会話、あなたもお好きでしょう?」
【つづく】