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第2話 それはいわゆる……竿の役?



「そ、そうか。それはおめでとう……ってことだよな」


 おめでとう、と言って良いのかどうか。二人はずっと一緒に育ってきた幼馴染みである。正直複雑な思いがすぐには晴れそうもない。


「ありがとう……順平兄ちゃん……」


 顔には出さないように紅茶をすする。


 まあなんて言うか、思ったよりショックだったな。


 同性愛に対して差別意識はないつもりだったが、どっか遠い世界の話で身近にはないことだと思っていた。


 それがまさか一番身近な二人がそれに該当していたことに、少なからず心が揺さぶられた俺を誰が責められようか。


 まあ、妹のように可愛がってきた二人だ。

 いずれ彼氏はできるだろうと思っていたし、二人とも飛び抜けた美少女だし。


 既に"そういう事"も経験済みだなんて考えたくもなかったが、あり得ない話ではあるまい。


 別に俺は二人と付き合ってる訳じゃないし、こんな感情を妄想する資格すらないのは分かっているが……。


 二人のどちらかにでも男ができて、既に男女の色々を経験済みだなんて考えると下っ腹がムカムカしてモヤつく気持ちは抑えられそうもなかった。


 実際そん時に自分がどういう感情になるのかって考えたら、むしろこのカミングアウトは歓迎すべきことかもしれない。


 そうであるなら、二人は"恋愛対象は女=男性経験はない"という図式で考えることができる。


 実際はどうか分からない。

 モデル業界はイケメン揃いだし、大人の世界で稼いでいる二人にはそう言った経験に対する誘惑や欲望の牙も多いだろう。


 だが、二人が百合ならその可能性は限り無く低いと考えて気持ちは楽になるというものだ。


 まあ、百合でも男性経験がないとは言い切れないが、妄想するとキリがないから都合の良い方で考えたい。


「そんでその……その後のアレは?」


「アレって?」


「いやだから、竿役ってヤツ……」


 そして重要な事実。

 竿役という謎のワードだ。


 百合カップルに挟まれたいってのは男の妄想であるが、実際には成立しない関係なのはよく分かっている。


「そうそう。それが一番大事なんだよ」


「あの、順平兄ちゃん……それがね……。私達はカップルになったけど、それは兄ちゃんの――」

希良里きらりッ、それは後でって言ったでしょッ」

「あ、そっか、ごめん」


「なんだ?」


「とにかくさ、私達カップルだった訳だけど、やっぱり好き合ってる者同士、"そういう事"もしてた訳よ。だけどさ、やっぱり二人だと手詰まりっていうか、アドバイザーが欲しいんだよね」


「兄ちゃんに、教えて、欲しいなって……思って」


「はいっ!?」


 まさかの提案であった。



『よもやよもやだっ!』というヤツである。


 人生で言われることがないであろうセリフトップ10には入るあり得ない提案だ。



「私達、そういう知識あんまなくってさ。順平にーちゃんならいっぱい知ってるでしょ? パソコンに引くほど動画あるし」


「ちょっ!? なんでそんなの知ってるんだッ!! ってか引くほどは余計だッ」


「私達の誕生日をパスワードにするなんてセキュリティ甘すぎでしょ。普通にキモいよ?」


「余計なお世話だっ! 高校生男子の部屋に勝手に入るんじゃありませんっ!」

「勝手にじゃないもんっ。ちゃんとおばさんの許可もらったもんっ」


「何してんだよマイマザーッ!?」


 やいのやいのと言い争いが続き、話は一時中断となった。

 ちなみに俺のお宝フォルダのパスワードは有紗ありさ希良里きらりの誕生日を二人分数珠つなぎにした数字となっている。


 別にヨコシマな思いでそうしたのではなく、仮に誰かが開けようとしても、まさかそんなキモい発想でパスワードを設定するとは思うまいという裏を搔いたつもりで設定したものだ。


 まさか裏の裏を搔かれるとは不覚だった。


「と言うわけでさ、実戦経験はないだろうけど身近に性知識豊富なにーちゃんというブレーンがいるのに活用しない手はないわけなのだよっ」


「お前は俺をなんだと思っているんだ。なんで実践経験がないと決めつける!?」


 まあないけどッ!! ないけどねっ!!


「あれ?」「あるの……?」


 その時、二人の空気が変わった気がした。

 なんだ? 殺気にも似た重々しい空気は気のせいとは思えない。


 俺は武術をやっている関係上、わりとそういった攻撃的な気配に敏感になれているところがあるが、二人からそんな空気を感じとり慌てて否定する。


「そ、それはまあ、ないけど……」


((ほっ……))


 今安心した? 気のせいでなければ二人が安堵したような気がする。


「そう。それなら良かった。ともかく、童貞筋肉バカ童貞のにーちゃんには知識を提供するブレーンになってもらいたいわけさね」


「それも余計なお世話だっ! つーか童貞ってワード2回も入れるなっ!! 地味に傷付くわっ!」


有紗ありさちゃん、話が進まないよ」


「メンゴメンゴ。まあとにかくさ、ブレーン役は半分冗談にしても、私達って百合カップルなわけだけど、可愛いからモテるじゃん?」


「自分で言うことか。まあ可愛いけどさ」


「「(ふひ♡)……」」


「ん?」


「うおっほんっ! モデルとかやってるとやっぱり変な虫が寄ってくるわけよ。今までずっと守ってもらってたけど、にーちゃんにはこれからも私達のボディガードをシテもらわないと困っちゃうの」


 一瞬変な笑いを浮かべる二人をいぶかしみつつ、話の続きを促す。


 確かに二人は超絶美少女なわけで、予想通りそういったお誘いも多いんだな。


「あ、あの。ともかくそういうわけで……私達、順平兄ちゃんにいつも守ってもらってばかりだから、その……役得があった方が良いと思うんだ」


「役得?」


「だからさぁ。私らに悪い虫が付かないように、にーちゃんにはもうしばらくフリーでいてもらわないと困るわけ。でも童貞性欲童貞のにーちゃんが私達以外の女の子と接する機会なんてないだろうから」


 また童貞って2回言いやがったなこいつめ。


「もう有紗ありさちゃんっ!! 言い方が回りくどいし失礼だよっ!」


 茶化してばかりの有紗ありさにとうとう希良里きらりが怒り始める。

 でも可愛いからあんまり怖くない。


「……あのね、私達、男性には興味ないけど兄ちゃんだけは別だから。そばに居て欲しいけどカップルに挟まれてたら肩身が狭いだろうし」


「せっかくならエッチの時も一緒に参加してもらってボディガードの見返りにしようって話になったのさ」


「なんだそういうことか。だったら俺なんか気にしなくていいぞ。愛し合う二人の邪魔をするほど野暮じゃないし、そんなことで二人を遠ざけたりはしない」


「「それじゃダメなのっ!!」」


「お、おう……」


 なんだかもの凄い剣幕の二人に押されてしまい、とにかく1回試しにやってみようということになったのだ。


「っていうかさ、にーちゃんはナンカないわけ? 勝手知ったる幼馴染みの二人が、実はにーちゃんを余所にくっ付いてたんだよ? なんかあるでしょ?」


 有紗ありさはまるで何かあって欲しいとでも言わんばかりに詰め寄ってくる。


「まあ確かにビックリはしたよ。でも二人で話し合って付き合うことに決めたなら、俺がどうこういう話じゃないだろ?」


「変なところは真面目だよねぇ」

「兄ちゃんは、ショックじゃないの?」


 子犬のようなつぶらな瞳を向けてくる希良里きらりは本当に可愛い。

 可愛いからこそ勘違いしてしまいそうになる。


「まあ、ショックじゃない、といえば嘘になるな……仮にもずっと一緒に居たわけだし……だけど、うーん、彼氏ができましたとか言われるよりはマシかもしれない」


「どうして?」


「だって、そうしたら希良里きらりの側には居られなくなるだろ? それはちょっと寂しいさ」


「そっか……、寂しいって思ってくれるんだ」


希良里きらり有紗ありさもめちゃくちゃ可愛いから、いつか彼氏は出来るだろうとは思って覚悟はしてた。だから二人が付き合うってんならむしろ喜ばしいまであるかもな」


「ふひひ。にーちゃんは有紗ありさ達に彼氏ができたら寂しいの?」


「そりゃあな。娘とか妹が嫁に行ってしまった家族のような気持ちにはなるさ」


「家族……かぁ」


 何故だか希良里きらりは表情が暗い。なにかマズいこと言ったかな……。


「まーまーっ! とにかくさぁ。にーちゃんには私達のエッチに参加してもらって、将来彼女ができた時の練習とでも思ってもらったらいいのさ」


「いや、そんな理由で二人の大事な身体を傷物にはできないよ」


「いいのいいの。だって百合カップルなんだから男の人とエッチする機会なんてないもん。する気も無いし。でもにーちゃんなら平気だよ」


「私達じゃ、嫌?」


「嫌ではない」


「むしろこーふんする?」


 純粋な瞳でぶっ込んだ質問をする希良里きらりにどう答えて良いか分からない。


 分からないが、ここは正直に答えていこう。


「うん、まあ、その……ぶっちゃけ興奮する」


「(やった♪)」

「うん?」

「ううん。なんでもない。さっきも言ったけど、わたし男の人って苦手で。でも兄ちゃんなら平気なの。兄ちゃん格好いいし」


「そっか。希良里きらりのお眼鏡に適って光栄だよ。純粋に嬉しい」


「そんな訳でさ。早速試してみない?」

「試すって、なにを?」

「だぁからぁ~」


 蠱惑的な瞳を向ける2人の吐息が近い。

 百合になった2人が俺を取り囲み、挟もうとしてくるではないか。


「じゃあ早速キスからいってみよー!」


 そんなノリで、俺達の奇妙な関係が始まりを告げたのだった。


――――――――――




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