3年生の授業は今日も午前中で終わる。
今日は料理当番なので材料の買い出しに行かねばならない。
「さて、帰るか」
「うん」
帰り際、
「お前ら当然のように一緒に帰ってるけど付き合ってないんだよなっ!?」
「それは何度も答えただろうに」
このやり取りも何度目なんだろうか。
長い付き合いであるから一緒に居ることが多いだけだと、同級生達には何度も説明しているのにこいつらは納得しようとしない。
強く否定するのもなんだか違う気がするので事実をありのままに淡々と告げるのみだ。
あまり何度も説明すると
◇◇◇◇◇
「ねえ順平ちゃん……」
「うん? どうした」
「あのね、今日、お家行ってもいい?」
「どうした急に? 姉ちゃんなら大学に行ってていないと思うぞ?」
「うん。
「姉ちゃんの奴め。母ちゃんがいないからってメシ作るのが面倒くさくなったな」
「ふふ。大丈夫だよ。
「うん? そうだなぁ。姉ちゃん美味いもの食ってる時は子供みたいな表情で喜ぶからなぁ」
この時、
「じゃあ一緒に夕食の買い出しに行こうか」
「うん、そうだね」
俺はスマホを取り出してグループトークにメッセージを入れる。
――順平【
するとすぐに
――
――
――順平【誰がするかっΣ(゜Д゜)】
――
――順平【何おっしゃいますかっ!? 笑顔こえーよっ。しないからっ! 一応恋人じゃない女性と二人きりだから報告な】
――
こいつら俺を何だと思っているのだろうか。その辺りの分別くらいつけとるわ。
いやしかし、これからは彼女との距離感も考えて行かないといけないな。
今更ながらにそこに気が付いた。
二人同時というイレギュラーとはいえ、恋人ができた以上、お付き合いしていない女性とベタベタするような行為は控えないと。
カップル内感情を平和に保つ為にも恋人ではない女性との軽率な接触は避けないとな。
「なあ
「どうしたの順平ちゃん?」
「いや、実はな。俺、彼女ができたんだ」
「あ、そうなんだ」
「エラくあっさりしてるな」
俺達は付き合っているわけではない。
だが常に側にいるし、これまで何度も窮地を救ってきたりもしてきた。
うぬぼれる訳ではないし、恩に着せるつもりもないのだが、もう少し好ましく思ってくれてるような気がしていただけに、このあっさりした反応は軽くショックだった。
「だって、順平ちゃん格好いいし、いつか彼女できるだろうなぁって思ってたから」
そう言って寂しそうに笑う彼女を見て、自分の考えが浅はかだった事を思い知る。
「すまんな。実はつい最近の話だから言いそびれてたんだ。でも今日のことは恋人にも許可もらってるから」
「もしかして、
「ああ。実はそうなんだ」
(知ってるよ、ずっと前から♡)
ん? 今何か聞こえたような……?
「
空耳だったのか、
「そっか。あーあ。とうとう順平ちゃんに彼女かぁ。まともに話せる男の人がいなくなっちゃうなぁ」
「心配しなくても許可はもらってるから、そんな急に関係性が変わるって訳でもないよ。仲の良い幼馴染みだから気心も知れてるし」
「そっか」
「うん。でも、一応彼女持ちになるから、今後は距離感に気を付けないとなって思ってさ」
「うん。分かった。私もいつまでも順平ちゃんに頼ってばかりもいられないし、一人で頑張れるようにしないとね」
今までの彼女を知っているだけに、心配になってしまう。
だけど俺が甘やかしてばかりいると彼女が成長する機会を奪ってしまうかも知れなかったことにも気が付き、今後も幼馴染みとして適切な距離感で付き合っていくようにしようと決意した。
「あ、それじゃあさっき言ってた当番って、
「まあ、そうなる。あいつも実質一人暮らしだし……うーんと」
俺は
そして三人一緒に暮らしていることも伝えた。さすがにレズのことや竿役の事は濁しておいたが……。
「あはは、なんていうか、二人らしいって言えばらしい感じがするね。でも、どっちか一方って言われるより納得感強いかも。今朝も二人との距離感がいつもと違うなって思ってたから」
「そっか。やっぱり分かっちゃうもんかな」
「うん。結構分かるよ。でも了解だよ。順平ちゃんと二人になる時は、ちゃんと二人に許可とってからにする」
「ああ。そうしてくれると助かる」
「私としては順平ちゃんに側に居てもらえるだけで十分だから……」
俺はこの時点で気が付くべきだったのかもしれない。
その時の
全てに裏で理由があったのだ。
だが俺はそのことに全く気が付かなかった。
もうこの時点で祝福の鐘が鳴る準備が整っていた事に。
――トクン……
心臓の音が聞こえた気がした。それは自分のものではなく、他の誰かの優しい音。
(もうすぐだからね、順平ちゃん♡)
目の前の女の子が発しているような、そんな気がした。