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第32話 月夜に濡れた処女(おとめ) その1

【タイトル】

【公開状態】

公開済


【作成日時】

2024-11-27 21:46:55(+09:00)


【公開日時】

2024-12-21 10:07:46(+09:00)


【更新日時】

2024-12-21 10:07:46(+09:00)


【文字数】

2,534文字


【本文(141行)】

 温泉でのぼせてしまった俺達はしばしの間、照れ笑いを浮かべながら談笑して夕飯の時を待った。


 確かに気まずくなりそうではあったものの、せっかくの旅行に雰囲気壊すのは良くないとして、二人どちらともなく歩み寄った結果だった。


 食事の時間まで談話をしながらまったりした時間を過ごし、部屋の中に準備され始めた料理に感嘆の声を上げる。


 ご飯をよそったりなどの奉仕は全てこちらで行うとお願いし、二人きりでの食事が始まった。


「順平ちゃんの食べてる姿ってなんか好き」

「そうか?」


「うん♪ いつも私のお弁当沢山食べてくれるし、作るの楽しかったんだ……」


「良かったら、大学に行っても作ってくれないか」


「えっ……」

「学食とかもあるんだろうけどさ、せっかく同じ大学行くんだし、良ければお願いできないか?」


「いいの?」

「むしろ頼みたいんだけど」

「うんっ! 私頑張って作るねッ! あ、ご飯お替わりいる?」

「ああ、頼む」


 会話をしながら自然と俺の茶碗を受け取ってご飯をよそう仕草は自然そのものであり、まるで妻のようである。


「なんか小春こはるって結婚したらいい奥さんになってくれそうだ」

「けっ、結婚ッ……はぅ♡」

「た、例えばの話なっ……」

「う、うん……。でも、順平ちゃんが旦那様だったら、きっと毎日張り切ってご飯作っちゃう♡」


 照れ笑いを浮かべる小春こはるが可愛くてたまらない。


 高級旅館に相応しい料理の数々を二人で堪能し、俺達は本当に新婚夫婦のような雰囲気のままその時間を楽しんだ。


「夜空が綺麗……満月って素敵だね……」

「ああ。来て良かったなぁ……」


 食事の後、まったりとした時間が流れていく。


 夜もすっかりと更けて仲居さん達も撤収した頃、俺はいよいよ話を切り出した。


「なあ、小春こはる……そろそろ、話をしたい」


 縁側に座って月を眺める俺達。

 さすがに2月の夜はまだまだ冷えるので暖房の効いた室内であるが、月明かりに照らされた幻想的な光を楽しむ為に部屋の中は暗くしてある。


「うん……」


 彼女も雰囲気を察したのであろう。肩を寄せていた俺の手をギュッと握り絞めて体重を預けてくれた。


 俺は話を切り出す。シンプルに、無駄な言葉は一切なく、俺が長年気が付かず、目を逸らして溜め込んできた気持ちの全てを込めて、たった一言、絞り出した。


「好きだ……小春こはる


 彼女の目を真っ直ぐ見つめ、万感の思いを込めた一言だけを伝える。


 既に二人も交際している女性がいる俺がこんなことを言っても滑稽なだけだろう。


 だがそれは一般理論においては、という前提がある。


 俺の目を真っ直ぐ見つめていた小春こはるの瞳がみるみるうちに潤んでいく。


「順平ちゃん……。うん、私も、好き」


 言葉は要らなかった。色々と言わなきゃいけない事を頭の中でまとめて、ちゃんと伝えようと思っていた言葉なんてすべて吹っ飛んでいた。


 ただ一言。好きだと。


 そう伝えれば、小春こはるには全部全部伝わるのだ。


「やっと……やっと伝わったよう……順平ちゃん」


 涙に濡れた小春こはるを抱き締めて髪を撫でる。

 月明かりに照らされたアルビノカラーの髪は、黄金に輝いているように見えるほどに美しい。


 柔らかいストレートヘアに手櫛てぐしを通し、心地良い手触りと共にシャンプーの良い香りがした。


「好き……好き♡ 順平ちゃんが大好き……。ずっとずっと……言えなかった。勇気がなくて、関係を壊したくなくて……」


「そうか……ごめんな小春こはる。鈍くてごめん。俺、小春こはるが側にいてくれて、凄く嬉しかったんだ」



「私も……そうだった。私、本当に男の人が苦手で……でも、順平ちゃんだけは違ってて、特別で……」


「うん、ごめん。俺が優柔不断なばっかりに」


「そんなことは……」


「でもさ、俺はきっと、小春こはるのこと、一人の女の子として好きだったと思う。いや、今でもその気持ちは変わってない」


「嬉しい……」


「本来ならもう伝えてはいけない感情だと思ってた。だけど、それじゃあ不誠実だって、気が付いた……希良里きらり達に気付かせてもらった」


「嬉しいよぉ……ありがとう順平ちゃん。私も……ずっと好きだったんだ。だから、一度だけでいいから、思い出が欲しい。そう思って、卒業旅行に一緒に行きたかったの」


 “お願い”、と、小さな声で呟いた可憐なリップが差し出される。


 ここで日和ったら男じゃない。


 俺は小春こはるの肩を抱き寄せ、髪を撫で、小さな顎を手で引き寄せる。


 閉じられたまぶたですら美しい小春こはるの眉建ちに魅入られる。


 そっと被せたベーゼと共に、小春こはるのしょっぱい液体が滴となって頬を伝い、俺達の口付けに彩りを添えた。


「好き……順平ちゃん、大好き♡ 私、ずっとずっと……あなたが好きだった……。結ばれたかった。でも勇気がなくて……有紗ありさちゃんや希良里きらりちゃんの気持ちを知ってたから……きっと叶わない恋だって、自分に言い聞かせてきた」


「そうか……やっぱり、俺達相性ピッタリじゃないか。考え方が同じだ……」


「あはは……そうだね。そういう所も、大好きなんだ。順平ちゃんの全部が、愛おしい。一度言えたら何度でも言えるよ……順平ちゃんが好き……たった一晩だけでも、伝えられてよかった……」


「そのことなんだけどさ、小春こはる

「うん」


「俺達、恋人にならないか? 有紗ありさ希良里きらりと一緒に、俺達四人で……幸せにならないか?」


 バカなことを言っている自覚はある。だが、これは彼女達からもらったヒントから、俺が導き出した答えだ。

 いや、アレはもうほとんど回答みたいなものだった。


 倒錯的な考えであり、バカな結論であり、どう考えても女性に対して不誠実な告白。


 だけど小春こはるの表情はみるみる明るく、頬に赤みが差して、満開の笑顔が花咲いていた。


 好きだ。そのたった一言を伝えるだけで、俺達は全てを解り合う事ができた。


「嬉しい……本当に嬉しいッ……。有紗ありさちゃん達の言うとおりだった……」

「やっぱり、今回のこと焚き付けたのはあの二人か」


「うん。実はね……私も順平ちゃんに言わなきゃいけない事があるの」


「分かってる。姉ちゃんとの事だな」


「し、知ってたんだ……」

「偶然な……その、お前と姉ちゃんの……ア、アレしてるところ見ちゃったんだよ」


「へ……? え、ええええっ!!?」


 本来なら後で確認すれば良いところだが、こればっかりは先にハッキリさせておかないといけない。


 俺は姉ちゃんとの事をちゃんと全部聞き出すことにした。


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