「さて、何か言い残す事はあるか小僧?」
死が迫っていた。間近に死が迫っているのである。
「誠に申し訳ありませんでした、大将軍
「その呼び方やめろ」
土下座である。それはもう見事なまでの土下座をしていた……俺が。
とってもとっても気持ち良さそうに絶頂した姉ちゃんだったが、熱が冷めて冷静になった瞬間に鬼の血が覚醒し、俺はしこたまぶん殴られて今に至る。
こうなった姉ちゃんはもう止まらない。
俺は全力で命乞いをするより他なかった。
姉ちゃんの小さな足が土下座する俺の頭をグリグリとなじるように踏みつけた。
だが力は弱々しい。いつもの姉ちゃんなら容赦無く頭を潰す勢いで踏みつけるだろうに。
効果は抜群のようだ。
「
「
踏みつけていた足が離れ、俺は頭を上げた。
「ねえちゃ、はぶっ!?」
「もうちょっとそうしてろボケ」
「もう
「だってぇ」
姉ちゃんは
姉ちゃんめ……
「
「ほら、これで機嫌なおしてね」
「うんっ、もう直った」
「直ったならそこどいてくんねぇかな」
姉ちゃんの機嫌は直り、その日は
◇◇◇◇◇
「きょ、今日はキスだけで勘弁しろ……」
勘弁と言いながら上から目線の姉ちゃんだが、意外な事に次の日もおねだりをしてきた。
「またあの嫌味教官にネチネチ言われた……」
どうやらあの教官は姉ちゃんに目を付けたらしく、隙を見ては姉ちゃんに絡んでくるらしい。
俺達も四六時中一緒に居るわけではないから、
でも
さすがにこんな合宿の最中に強引な事をしてくるヤツはおらず、大きな問題は起こらなかった。
どうやら数日前に金髪君を締め上げたのが良かったらしい。
俺の恋人である事はあの一件でかなり広まっており、さすがにこのデカい体の男を出し抜こうとする猛者はいなかった。
だが姉ちゃんは俺以上にその名を轟かせており、何人かいたやんちゃな男達を全てシモベにするほど覇権を握っていた。
さすがは小さな大将軍と呼ばれたヤンキー達の王となった女である。
「ふにゃぁ♡」
今目の前にいるのがその大将軍であることなど誰が信じようか。
立ったままの彼女を膝立ちの俺がキスをしている。
身長差がもの凄いから俺は膝を付かないと彼女とキスをすることができない。
「ふぅ、……だんだんぼんやりしてきた……」
「姉ちゃん、可愛いぜ」
「ボケ……。こんな状態で可愛いとかいうなぁ」
「嬉しくて怒れてくる?」
「……」
姉ちゃんは恥ずかしそうに目を伏せる。
どうやらエッチな事をするときはしおらしくなるらしい。
こんな事を知っている男は世界で俺だけだろう。
いや、
俺はだんまりを決め込んでしまった姉ちゃんを、
もう一度キスをするだけですぐにトロけてくれる。
その顔はもう完全に恋する乙女だ。瞳の奥にハートマークでも浮かんでいそうである。
俺は今、猛烈に姉ちゃんが可愛いと思えてしまった。
「
「よしよし……。
「はみゅぅ♡
その姿はまるで聖母のようだ。数週間前のオドオドしていた少女はもういない。
慈しみに満ち、暴君と呼ばれた樋口
それにしても姉ちゃんがこんなに甘えん坊だとはな。
普段のこの人からは想像もできない。
◇◇◇◇◇
それから約一週間。
免許合宿は無事に全員が合格することで平和に終了することができた。
ちなみにあの嫌味教官だが、数日前に別の女子学生に対するセクハラ行為が問題となって合宿所を追放処分となった。
どうやら前々からマークはしていたものの、証拠の隠滅が巧妙で中々尻尾を掴めなかったらしい。
ほぼ確定で大幅な減俸、それがイヤなら依願退職という運びとなるらしい。
懲戒免職処分でも良さそうなものだが、ベテラン社員に対する最後の温情なのだろう。
どうしてヤツを追い込むことが出来たかというと……。
「まさか順平がヤツの声を録音していたとはなぁ」
「ふっふっふ。あれだけ罵倒されてるんだ。今までこういう事をするヤツがいなかったことが不思議なくらいさ」
実習中はスマホを触ることを禁止されている。
だから録音するチャンスはかなり慎重にならないといけないが、実は作戦を立てたのだ。
とはいえ簡単な話だ。
予め俺は
ヤツはスマホを操作させないために後部座席に鞄を置かせていたのだが、懐に忍ばせた第二スマホまでは気が回らなかったらしい。
今までこういうことをするヤツがいなかったのは、恐らくそれだけ上手く立ち回っていたのだろう。
それに、面倒事に巻き込まれるのがイヤでそこまでやろうって気になるヤツがいなかったんだろうな。
俺はヤツの暴言の嵐をバッチリ録音して上層部に訴え出た。
運営本部の部屋に直接乗り込んでお偉いさんに直談判したのだ。
そこまでされては重い腰を上げざるを得ず、あえなく御用となった。
ともかく、邪魔者がいなくなったおかげで俺たちは残りの合宿を無事に終えることが出来たのだった。
「試験終わったぁ~~~!!」
「はぁ……良かったぁ合格できて」
姉ちゃんも
「あの教官、事実上のクビらしいな」
「へっ。ざまぁねぇや。ま、こっちに害はなかったから良かったが」
悪態を突いても姉ちゃんの顔は赤く、口元はニヤついている。
無事平和に合格ができて姉ちゃんもご機嫌が良さそうだ。
帰りのバスの中でも俺達は三人で手を繋いで過ごした。
まだぎこちない部分はあるが、姉ちゃんとの距離はすっかり縮まった。
「帰ったら、聞かせてくれよ」
「分かってる……」
そして、俺は全てを真相を知ることになる。
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次回、いよいよ全ての真相が明らかに。
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