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第51話 順平とハッピーになるには?【side花恋】


【side花恋かれん


 順平を男として意識し、もうどうしようもないくらい順平の事が好きになっていると意識し始めた時、あたしが思ったのは、如何にして順平と添い遂げるかだった。


 まず、あたしが順平と一対一で恋人になる。

 これはほぼ不可能だと思った。


 あたしは可愛くないし、ちんちくりんだし、ただでさえ有紗ありさ希良里きらり、なにより小春こはるのような魅力的な女の子達が順平の周りには多すぎる。


 そして三人とも、順平に恋している事は間違いないという確信があった。


 そのことに気が付いたのはまず小春こはるの気持ち。


 有紗ありさ希良里きらりも同じように順平に恋をしていると確信を持ったのはもう少し後になる。


 だからあたしはまず小春こはるから懐柔することにした。




 今からあたしは最低の告白をしようと思う……。




 あたしは自分の気持ちを偽って小春こはるにレズだと嘘をついた。


 でも、結果的にあたしは本当にレズビアンになっていくことになる。


 小春こはるはあたしの気持ちを受け入れてくれた。


 当時は何故受け入れてくれたのか分からなかったけど、実は小春こはるもあたしと同じ想いを抱いていたことが後で分かった。


 小春こはるは、あたしの真意を見抜いていたんだ。たぶん、無意識に。


 本当はレズなんかじゃなく、順平が好きで、取り合いをしたくないからだ、と。


 彼女と付き合い始めたのは1年と数ヶ月ほど前。だけど最初は本当に友達の延長みたいな感じだった。


 小春こはるは料理が上手だし、笑顔が可愛い。話も合うし……何より優しくて一緒にいて楽しかった。


 あたしは、そんな小春こはるにどんどん惹かれていった。自分が女である事も忘れるほどに、愛おしくなっていったんだ。


 あれはあたしが高校卒業を控えた頃、時期としては丁度今ぐらいの季節だった。


 あたしは小春こはるに初めてエッチを迫った。

 興味はあったし、その頃には小春こはるの事もどうしようもないくらい好きになってしまって、衝動を抑える事ができなかった。


 小春こはるを無理やり押さえつけて、唇を奪った。


 泣いた……。小春こはるは初めてあたしを拒絶した。


 その涙で我に返ったあたしは、自分がどれだけ愚かな行為をしたのか悟った。


 泣きじゃくる小春こはるの涙が、あたしの罪深さを象徴していた。


 正気に戻ったあたしは誠心誠意土下座して謝り、自分の本心を打ち明けた。


 自分の考えと、小春こはるへの想いと、順平に対する気持ち。


 自分の全てを曝け出し、どうしたいのかを全て伝えた……。


 小春こはるは、あたしの全てをゆるし、受け入れてくれた。


 全ては順平と結ばれるため。全ては好きな人と添い遂げるために。


 加えて、小春こはるはあたしの愛にも応えてくれた。その時点で順平と同じくらい小春こはるのことも好きになっていたあたしは、自分の想いを叶える為に、いや、欲望を叶える為に小春こはるに甘えた。


 そして小春こはるも、同じ想いで受け入れてくれた。

 二人とも臆病で勇気がなかったから、順平に受け入れてもらえる自信がなくて、うだうだやっているうちに時間は過ぎてしまった。


 たぶん、そんな気持ちのぶつけどころを、お互い探していたんだと思う。


 ◇◇◇◇◇


 時を同じくして、あたし達と同じかそれ以上に強い想いを順平に向けている二人と意見を通じ合わせた。


 有紗ありさ希良里きらりだ。なんと二人はあたしと同じように、もっと前から自分達がレズになって順平と結ばれるための計画を進めていた。


 考え方ややり方までそっくりだった事に驚きつつも、そのことに気が付いたのは偶然二人のエッチをあたしが覗いてしまった事がきっかけだった。


 二人はあたしなんかよりよっぽど理性的に、計画的に順平との思いを成就するための計画を進めていた。


 ファーストキスすら順平のために保持し、陰毛を除去して体型を磨き上げる。


 その努力も全て順平のため。その頃には既に有名なインフルエンサーマーケティングで社会的地位すら手に入れているほどの執念だった。


 あたしは二人に自分の計画の事を話した。いや、あたしのは計画なんて呼べるようなものではなかったけど、思いが同じである事を伝えた。


 それは、二人が協力して順平に迫ったら、確実にあたしだけが取り残されると分かっていたからだ。


 有紗ありさ希良里きらり小春こはるが大好きだった。だからきっと小春こはるの事も誘って取り込むだろう事は予想が付いた。


 あたしは二人が直接の行動に移してない事に安堵したが、二人の……いや、特に希良里きらりの執念は凄まじかった。


 有紗ありさも同じ想いを抱いてはいたものの、直接の行動に移すほどの意志力はなかった。


 それを勇気と呼ぶか、異常性狂気と呼ぶかは人によって分かれるところだけど、希良里きらりはあたしの願望すら見破っていた。


『私達が先に仕掛けてもいい? その方が花恋かれんちゃんは嬉しいよね♪』


 その時のあたしは、きっと小春こはるや順平に指摘された時のような酷い顔をしていたに違いなかった。


 そうして、百合で挟むというあたし達四人の計画が始まった。



 小春こはるはまだ半信半疑だったが、あたしは希良里きらりのもたらす様々なアイデアを元にして計画を練った。


 単純なハーレムでは順平は受け入れてくれないかもしれない。


 だから互いに愛し合う百合カップルで挟むことで、順平の逃げ道をなくしていく。



 でも、よくよく考えたら最初から四人で順平を囲んでしまえばハーレムを受け入れてくれたかもしれない。


 そんな単純なことで良かったんだと気が付いたのは、実際に順平と触れ合ったこの二週間での話だ。



 それでも、結果的にあたし達はこれで良かったんだと思う。


 だってお互いが愛し合っていれば順平を取り合って醜い争いをしなくて済む意識の防波堤ができる。


 いや、心の誓いと言ってもいいかもしれない。



 互いに愛し合い、もっとも愛する順平を悲しませるようなことをしない心があれば、あたし達はきっと順平を囲んで幸福を手にすることができるからだ。



 あたし達にとって1番大事なのは順平が幸せになること。


 順平にとっての幸せが、あたし達の中にいる誰か一人だけだったら、その時はいさぎよく諦めよう。


 だけど、あたし達だって幸せになりたい。順平と幸せになりたい。



 そして誰一人不幸になって欲しいとは思ってない。失恋して欲しくない。


 この先の未来で、誰一人として順平以外の誰かと新しい関係を結ぶビジョンなんて1ミリも想像できなかった。



 だからこその百合だったのだ。それは順平にとって本当に幸せになり得るのかという疑問もあった。


 順平の幸せをエゴで決めつけて奪ってしまわないか。


 だけど希良里きらりはいった。


『兄ちゃんはきっと受け入れてくれる』と。

『だって兄ちゃんはわたし達二人のこと大好きだから』と。

『気が付いてないけど小春こはるちゃんの事も大好きだから』と。


 そして、


花恋かれんちゃんの事もきっと好きになってくれる』……と。


 だから希良里きらりは計画の実行をつい最近まで始動させなかった。

 あたしの決意が固まるまで。


 有紗ありさも、希良里きらりも、そして小春こはるも……あたしの為に動いてくれた。


 あたしのために、いや、本来は自らの幸福の為というのが大きいけれど……それでもあたしの為に計画に協力してくれたんだ。


 あたし達全員で、順平を幸せにするって誓ったんだ。

 四人の中で、きっとあたしだけが自分のエゴで動いていたに違いない。


 それでも、彼女達の思いに報いるためにも、あたしだって全力で順平を愛するって誓ったんだ……。


 いや、綺麗な言い方はしない。あたしは、順平に愛して欲しかった。


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