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第59話 高校生活の終わりと新たな始まり(第二部開始)


 目の前に二人の美少女がいる。


 今は朝である。百合で挟むハーレムが始まって数日。


 今日は俺と小春こはる、三年生の卒業式だ。一年生達の春休みまでは少し時間があるが、俺達が学校に行くのは正真正銘今日が最後になる。


希良里きらり、にーちゃんを挟みながらするモーニングキスって、凄く興奮すると思わない?」


「思う~♪ 兄ちゃん♡ チューしよぉ♡ あーんしてぇ♡」


 俺の身体に跨がる希良里きらりは制服姿である。


 朝のベッドの上で、迫ってくる二人にモーニングキスを求められて居た。

 その嬉しそうな声と言ったらどうだろう。


 時折視界に覗く有紗ありさの表情は、声の悦びをしっかりと証明している。


 俺の視界を塞いでいる希良里きらり希良里きらりで未だに唇を寄せてくるからたまらない。


「ふはぁ……朝から濃厚な時間だ」


花恋かれんちゃんがご飯作ってくれてるよ♪ しっかり食べて、ちゃんと卒業しなくっちゃ」


 そうなのである。今日は姉ちゃんが町田家にきてご飯を作ってくれている。


 姉ちゃんのご飯は美味い。俺が傍若無人な姉ちゃんを嫌いにならなかった大きな理由の一つだ。


 それも今なら分かる。姉ちゃんの料理には、俺への愛情がたっぷりと込められていたからだったんだ。


 ◇◇◇◇◇


「ほら、サッサと食って学校行ってこい。しっかりやってこいよ、卒業生代表」


「わーってるよ」


 そう。何の間違いか俺は卒業生代表に選ばれてしまった。


 身体がデカいせいか何かと頼られることの多かった俺。

 そしてそういう頼みを断れない損な性格のせいで内申点が上がってしまったのが原因だろう。


 まあそのおかげで我が校で二枠しかない指定校推薦を獲得することができた。


 あとの一人とはもちろん小春こはるのことだ。


 俺達は卒業アルバムの実行委員に選ばれ、二人で今日まで多くの写真を撮影し、多くの想い出を作ってきた。


 今から考えれば、俺達二人で思い出作りができたと思うべきだろう。


 二人でやった編集作業はすごく楽しかった。


 俺が意識を逸らしていたせいで、小春こはるにはずっとヤキモキさせてしまった筈だ。


 そこだけは申し訳ないと思っている。


「ごちそうさま」


「「ごちそうさま~♪」」


「おそまつさま。よし、頑張って行ってこい」


「おう、行ってきます」


 そういえば、姉ちゃんも卒業生代表をやっていたな。

 人望だけはあったし、小さな大将軍の名は伊達じゃない。


「おい、順平」

「ん?」


 玄関のたたきで靴を履いていると姉ちゃんが声を掛けてくる。

 なんでかモジモジして顔が赤い。


 エプロン姿のままくねくねする姉ちゃんはなんだか可愛いの一言に尽きる。


 そこで気が付いた。 

 俺はモジモジしている姉ちゃんを抱き締めて唇を重ねた。


「んむぅううっ♡ ぷはぁ、はぁ、はぁ、なにすんだテメェ……」


「だって行ってきますのチューして欲しそうな顔してたんだもんよ」


「ぐぬぬ……その通りだけど、見破られたのはなんか悔しい……」


「じゃあ改めてもう一回、はむっ」

「んむぅううっ」


 小さな身体を抱き締めて唇を重ね、舌を入れてみたところで腹パンをされてキスは終わりを迎える。


「ふんっ!」

「ごふっぁっ!?」


 ズシャ……。地面に顔面をぶつけて頭を踏まれた。


「くぉお……、こ、声が出せなくなったどうしてくれる……」

「調子こいてっからだろうが、このボケッ」


 相変わらず腰の入った良いパンチしてやがるぜこのチビゴリラ――と思ったところで頭を踏みつけられて追撃を受ける。


「今チビゴリラって考えただろ……?」


 なんで分かるんだろうか。エスパーかよ……。


「にーちゃん大丈夫?」

「大丈夫に見えるか?」

「おっぱい吸う?」


「魅力的な提案だ……」


 なんて喜ばしい提案をしてくる有紗ありさ希良里きらりには感謝しかないが、卒業式に遅れるわけにはいかないので涙ながらに我慢するしかなかった。


 ◇◇◇◇◇


「以上、答辞、卒業生代表、樋口順平」


 割れんばかりの拍手と共に、俺は卒業生代表の挨拶を終えて

 壇上から降りた。


「(お疲れ様、順平ちゃん)」

「(おうっ、ありがと)」


 席に戻る際に小春こはると目が合う。口の動きでそんなねぎらいを受け、微笑みをかわして意思を疎通する。


 おごそかに進んでいく卒業式には感動ですすり泣くがそこかしこから聞こえてくる。


 俺も感動はしているが、泣くほどではなかった。

 チラリと見やると小春こはるは仲の良い女子に泣き付かれてもらい泣きしている。


 中学の卒業式では涙を流すなんてことはなかった小春こはるだが、今思えば生活のほとんどが俺と一緒に居ることで完結していた彼女にとって、卒業式は感動するようなものではなかったのかもしれない。


 そう考えれば、友達同士で涙を流し合える仲になれる子がいるっていうのは成長の証なのかも。


 そうして卒業式は進み、全てのプログラムは終了した。


 最後に在校生達から花道を作られて会場を後にすることで卒業式は終了する。


 有紗ありさ希良里きらり達の側を通った時は、とても寂しそうな顔をされた。


 いつでも会えるが、学校の中では会えなくなる。確かにそのことは俺も少し寂しい。


 微笑みを返して花道を通り、校庭に出て同級生達と最後の挨拶を交わし合った。


「じゅんぺえええっ! お前はいいよなぁあっ! 大学に行っても雛町さんと一緒だもんなぁあああっ!!」


 感動の涙とは違う意味で涙の訴えをされる俺の気持ちをどうか理解してほしい。


 卒業式にまで恨み言を言われるというのは中々に心にクルものがある。


「樋口先輩ッ」


「お?」


 俺は涙の訴えをする同級生達をなだめすかしてその場を離れる。


 人の波を掻き分け、かなりやんちゃな姿をしているガタイのいい奴らがこっちに向かってくる。


 卒業で学校を去る前に、後輩達に言っておかないとならないことを思いだした。


「樋口先輩ッ」

「樋口先輩っ」

「樋口先輩ッ」

「順平先輩ッ」


 髪色変えてるヤツやピアスを開けているやんちゃなヤツらが俺の姿を見つけてこっちに駆け寄ってくる。


「ようお前ら。ご機嫌だな。俺が卒業するのがそんなに嬉しいか?」


『そんなことありませんっ!! 寂しいですっ!!』

「俺はお前らと顔を合わせなくてせいせいするがな」

『押忍ッ! 僕たちは寂しいですッ!』

「ほんとうかよ? せいせいしてるんじゃないか?」

『押忍ッ! そんなことないですっ!』


 こいつらは空手部の後輩だ。声を揃えて感涙している。

 なんだかんだ素直で可愛い奴らだ。


 俺はこいつらにお願いすることがあったのを思いだした。


「よし、なら最後に俺からお前達に頼みたい事がある」

『押忍ッ! なんでも言って下さいッ!』


有紗ありさ希良里きらりの二人に悪い虫が付かないように見守ってくれよ。これから俺の監視は遠くなる。あと二年間、俺の代わりにあの二人を守ってくれ」


『押忍ッ! 分かりましたッ!』


「押忍ッ! 先輩に質問よろしいでしょうか?」

「言ってみろ」

「押忍ッ! 自分はキラキラアリスの大ファンでありますっ! ファンとしてお近づきになるのは駄目でしょうかっ!」

「本人達に迷惑を掛けなきゃ良いだろう」


「押忍ッ! ありがとうございます!!」


「押忍ッ、自分も質問よろしいでしょうかっ!」

「言ってみろ」


「押忍ッ! 先輩は、あの二人に恋人がいるかどうかご存じでしょうか」

「うーん、本人達の許可無く教える事はできないかなぁ」


「お、押忍ッ、では、樋口先輩は、お二人のどちらかとお付き合いされておられるのでしょうか?」


「どちらか? それはNOだ」


 どっちかじゃなくて両方だしな。


「押忍ッ! それでは――」

「ああそうだ。お前ら全員に言っておく事がある」


 俺は後輩の言葉を遮って大事なことを伝える。こいつらの言いたい事は予想が付いているからな。


「あの二人に手を出したら、殺すぞ」


『お、押ーーーーーーっ忍!!』


 嘆きの涙を流す後輩達には悪いが、俺がいなくなった後にあの二人の露払いをする奴らはいた方が良いからな。


 釘差しも終わったし、なんだかんだで素直で信頼の置ける奴らだ。


 ファンくらいまでは許すけど、男としてアプローチを掛けるのは許容するわけにはいかん。


 まああの二人がなびくことはないにしても、男と女で間違いがあってもいけない。


 特に有名人の二人に良からぬことを考えるやんちゃな新入生や、お目付役がいなくなったことでタガの外れた同級生などが行動を起こすかもしれないからな。


 だが頼んでばかりでは駄目だろうから、恋人のいない奴らに女の子を紹介するくらいはしてやらんと不誠実だろう。


 俺は後輩達にキラアリの二人をよくよくよろしく頼むと頭を下げ、最後の挨拶を終えた。


 まあ時々二人に会いに来るついでに空手部に顔を出すこともあるだろうし、そこまで寂しがることもないと告げその場を後にする。


 あと大学生のお姉さん方と合コンをセッティングしてくれと血涙で懇願されたので、キラアリの二人をキッチリ守ってくれたらという条件で合意しておいた。


 気合いが入り過ぎて暴走しないか心配ではあるが、これであの二人に悪い虫が寄ってくることも少なくなるだろう。


「悪い小春こはる。待たせたな」

「ううん。同級生の子達と話してたから大丈夫」


「よし、じゃあ行こうか」

「うん♪」


 俺達は学校を後にし、小春こはるの家まで直行することにする。


 今日は他の三人に許可をもらって、俺と小春こはるの高校生活最後のデートをしようという約束をしていた。


 そして俺達は手を繋ぎ、三年間の思い出詰まった学び舎を後にして新たな門出の第一歩を踏み出したのだった。


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