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第60話 高校生活最後のデート


 卒業式の帰り道、俺は小春こはるともう一人の人物と共に道を歩いていた。


「と言うわけで、小春こはるさんとお付き合いさせて頂くことになりました」


「まぁまぁっ♪ とうとうやったわね小春こはるぅ」


 大変恰幅の良いマダムが目の前で大きな胸、と腹を揺らして喜んでいる。


 俺は卒業式を終えた後、その足で小春こはるの自宅へと足を運んで彼女の母親に小春こはるとの交際を報告に立ち寄っていた。


 母子家庭の雛町家は卒業式から一足先に戻っていた小春こはるの母が一人で待っていた。


「この頃妙にウキウキしてるもんだからもしかしたらって思ってたのよぉ。二人とも全然進展がないからおばさん心配してたわ」


 小春こはるの母君は大変恰幅の良い御方であるが、昔はミスキャン荒らしとして有名でモデルとしても活躍した事があるらしい。


 結婚して家庭に入ってからは大変恰幅が良くなっていらっしゃるようだが、生来美人であることがよく分かる大変整った顔立ちをしていらっしゃる。


 俺は小春こはるが着替えている間に母君から根掘り葉掘り聞かれたが、ハーレムのことを説明する訳にはいかないので小春こはるの部分に関することだけをピックアップして話しておいた。


「そうだったのねぇ。この子ったら私と違って全然積極的にならないからレズなんじゃないかって心配してたのよ~」


「ははは。まさかそんな」


 少々ギクリとなったことは内緒だ。

 正確に言えば彼女の場合は『レズになった』が正解であるが、本当の事を言うわけにはいかない。

 恐らく、ハーレムの事も時期を見て話さなくてはならない時がくるだろうけど、今はその時期じゃない。


 俺達の関係をもっともっと成熟させて、身も心も成長し、五人の絆が揺るぎないものになってから話すべきだろう。


 いくらガキの俺でも、ハーレムなんてものが世の中に受け入れられないことくらい分かる。だけど、家族にはいつか話さなきゃいけなくなる時は、必ずくる。


「ま、順平君がようやく決心してくれて助かったわぁ。君じゃなかったらあの子一生お嫁に行けなさそうだし」


「ははは。まだ高校卒業したばかりなので、しばらくはカップルを楽しませて欲しいんですけど、駄目ですか?」


「そんなことないわよ。学生結婚だって悪くないけど、あの子にはちゃんと青春を謳歌して欲しいのよね。私が学生結婚だったから」


 現実問題として結婚は将来的に真剣に考えなければならないだろう。


 だが彼女は学生結婚だったらしい。そこに関しても思う事はあるはずだ。


 小春こはるの幸せを願ってやまないことは見ていて分かる。だからこそ、今はレズの事もハーレムの事も話すべきじゃない。


「そうでしたね」


 小春こはるの父親は俺と出会う前に死別しているらしい。それ以来母子家庭女手一つで育てられてきた。


 小春こはるが男に免疫がないのもそこら辺に事情があったのだろうが、余所様の家庭事情に首を突っ込むようなことはしていないし、小春こはる自身からそう言った話も出ないので知らない。


 これから先も知る必要はないだろう。


「今日はお泊まりかしら?」

「もうっ、お母さんッ!」


「だってもう初めては終わってるんでしょ? 隠したって分かるわよぉ♪」


 全部見通されているらしい。顔を真っ赤にする小春こはるをからかい続ける母君の追撃は彼女が敵うものではなかった。


 顔を真っ赤にする小春こはるをからかう母君の追撃を躱しながらデートに出かけることにした。


「じゃあデート楽しんでらっしゃいな」

「ありがとうお母さん」


 小春こはるをからかうことに満足したのか、それ以上のことはなかった。


 そんな母君に苦笑を浮かべ、俺達は手を繋いで歩き出す。


 ◇◇◇◇◇


 公園に出かけた俺達。

 高校生活最後のデートは二人の時間を沢山共有出来るのんびりした空間が良いだろうと思い、静かな場所を選んだ。


「今日は小春こはる日和だなぁ」

「えっ、それってどういう……あ、そうか、暖かい日ってことだよね、あはは」


「え……?」


 とぼけた事を言う小春こはるの天然発言に思わず笑ってしまった。


「あはっははははっ、今のは最高だぞ小春こはるぅ」

「も、もうっ! ちょっと間違えただけじゃないっ! 順平ちゃんの意地悪ッ」


「他にどういう意味があると思ったの?」

「えっと、それは……んと」

「エッチな意味だったりして♡」


「も、もうっ! そういうこと言う順平ちゃんがエッチなんだもんっ!」


小春こはるもそういう事言えるようになったんだなぁ。小春こはる、可愛いよ」


 段々と人が来ることが少ない穴場スポットへと向かっていく俺達。


 広い緑地公園の片隅にある小さなベンチまでやってきた俺達は、他の同級生達が様々な場所に遊びに行くという誘いをすべて断ってここを選んだ。


「良かったのか小春こはる。同級生の子達と遊びにいかなくても」

「いいの。私にとって最高の卒業式は、順平ちゃんとデートすることなんだもん。有紗ちゃんや希良里ちゃんも、きっとデートしたかったのに私に譲ってくれた。本当に感謝してる」


 小春こはるの高校生活は常に俺と共にあった。


 思い返せば、俺の高校生活も、ずっとずっと小春こはると共にあったのだ。


 俺は小春こはるの肩を抱き、そのまま頭を抱き締める。


「順平……ちゃん」

小春こはる……愛してる」


「うん、私も……愛してる」


 そのまま口付けを交わし、近づいてきた春風が俺達を祝福してくれるように優しく吹いてくる。


「ふわ……順平ちゃん……。私ね、大学に入ったら、アルバイトしてみようと思ってる」


「バイトかぁ。社会経験を積むにはうってつけだよな」

「うん。今までずっと男の人が苦手で……どこに行っても声を掛けられるから怖くてできなかったけど、今なら勇気を出せそう……それに、ずっと順平ちゃんにおんぶに抱っこのままじゃ、情けないもん」


「俺はずっと小春こはるを守っていきたいけど」

「うん。でも、私も成長したい。順平ちゃんの隣に堂々と立っていられる女になりたいの」


 小春こはるは立ち上がり、辺りを見回し始めた。


 そして膝を上げて俺の腰に跨がって、両手を頬に添えてきた。


小春こはる?」

「高校生活最後の想い出が、恋人との冒険エッチ……これって成長かな。それとも、私が本当の自分に気が付いただけなのかな。人から見ればただ外でエッチしたいだけの変態女かも」


小春こはるが勇気を出すために必要なら、成長で良いと思うぞ」


 ここは外だ。恥ずかしがり屋の小春こはるにとっては大冒険に違いない。


 そして丁度良いことに、ここは多くの場所から死角になっていて見つかる心配はほとんどない。


「大冒険だよ……お外でエッチなんて、絶対無理だと思ってた」


 それを成長と呼ぶのか、あるいは成長の為の儀式なのか。


 それとも単なる青春の迷走なのか……。


 そんなものは、他人が判断することではない。小春こはるがそれを成長と捉え、そのために必要ならば、俺は幾らでも身体を張ろうじゃないか。



 それが勇気となるならば、俺はそこに応えることに、ミリ単位だって躊躇したりはしない。


 跨がった小春こはるを抱き締め、小春こはるも俺を強く抱き締め自ら唇を重ねてくる。


「勇気を……勇気を下さい……♡」


 高校生活最後の想い出は、小春こはると俺との野外エッチで締めることになりそうだ。



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