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第62話 その頃のキラキラアリス【side希良里】


 卒業式が終わり、先輩達が体育館から退出するのを見送った。


「あーあ……これでにーちゃんも卒業かぁ。毎日家で会えるけど、なんかなぁ」


「そうだね。毎日のように三年生の教室に押しかけて、先輩達に可愛がってもらった一年間だったからね。新しいクラスになったら同級生達とも関係を築いていかなくっちゃ……」


 兄ちゃんを追いかけてこの高校に入ってから、私達はあのハーレムを完成させるために準備してきた。


 兄ちゃんと、私と有紗ありさちゃん。小春こはるちゃんを引き入れて兄ちゃん大好きな女の子全員で幸せになる。


 そこに花恋かれんちゃんも加わって、計画は完成した。


 五人で幸せに。それが私達の目的だった。


 きっと私達にはまだまだ色々な事がある。日本でハーレムなんて受け入れられる訳ないし、きっと色んな人達の誹謗中傷を受けるだろう。


 それだけなら私は気にしないけど、直接悪意を向けられないとも限らない。


 だからまず必要なのは社会的地位と経済力だと思ったんだ。


 何年も掛けて地固めをしていくつもりが、思った以上に早く有名になってしまったのが誤算だった。


 そのおかげで色々と順番が狂ってしまったけど、最終的な目的地は同じだから問題無い。


希良里きらり~、なんか物思いに耽ってるところ悪いんだけどぉ。椅子片付けるの手伝ってよ」

「あ、ごめん」


 物寂しさから感慨に耽ってしまった所に有紗ありさちゃんの声が掛かる。


 我に返った私は在校生達が思い思いに椅子を片付けている中、ぼんやりしながらそれを手伝った。


 ◇◇◇◇◇


 校庭に出た兄ちゃん達が後輩達に何か言っている所に出くわした。


有紗ありさ希良里きらりの二人に悪い虫が付かないように見守ってくれよ。これから俺の監視は遠くなる。あとの二年間、俺の代わりにあの二人を守ってくれ」


『押忍ッ! 分かりましたッ!』


 兄ちゃんが空手部の後輩達にそんなことを言ってくれていた。


 私達の動画のファンで、いつも視聴してくれたりしてる人達だ。


 個人的に声を掛けてくることはなかったけど、兄ちゃんという抑止力がいてくれたおかげも大きい。


 有紗ありさちゃんは純粋に兄ちゃんと一緒に過ごしたいからだと思うけど、私はその抑止力を皆に見せつけるという目的もあった。


 できるだけ"二人で"兄ちゃんと学校内で行動を共にする。

 そうすれば『あの樋口順平の女達』という印象を付けることができる。


 花恋かれんちゃんの名は私達一年生にも轟くほどだった。


 『小さな大将軍』と呼ばれたヤンチャ集団の大ボス。

 その弟である兄ちゃん自身も不良の巣窟と呼ばれた空手部をあっと言う間に取りまとめて手懐てなづけてしまった。


 そんな肉体的にも存在的にも強い兄ちゃんだから、その周りに美女がはべるのは当然の流れ。


 女の一人や二人囲っててもおかしくないという印象を持たせることができた。


 まあ兄ちゃんは元々モテるから、私達が教室に入り浸ることで小春こはるちゃん以外の女を遠ざける意味合いもあったけど。


「押忍ッ! 先輩は、あの二人に恋人がいるかどうかご存じでしょうか」

「うーん、本人達の許可無く教える事はできないかなぁ」


「お、押忍ッ、では、樋口先輩は、お二人のどちらかとお付き合いされておられるのでしょうか?」


「どちらか? それはNOだ」


 上手い言い方だな、と思った。


「にーちゃんなんで否定するのかなぁ。カミングアウトしちゃっても良かったのに」


「否定はしてないでしょ」

「え? だって」

「質問は『どちらかとお付き合いしているのか』だから、嘘はついてない」


 有紗ありさちゃんは兄ちゃんが私達との交際を否定して隠したと思ったらしい。


「あ、そっか。でもなぁ。いっそのこと二人とも俺の女だから手を出すなよって言った方が早くない?」


「一長一短だと思うよ。それだと余計な悪意を招いちゃうかもしれないって花恋かれんちゃんが言ってたじゃない」


「そうだけどさぁ。彼氏がいる女の方が手を出しにくいと思うんだけど……」


 そんな答えの出ない論議をしながら遠目に見ていると、やっぱり兄ちゃんという抑止力が働くことの大きさは重要だと分からされた。


「あの二人に手を出したら、殺すぞ」

『お、押ーーーーーーー忍ッ!!』


「にーちゃんの顔、怖くて格好いい♡」

「うーん、やっぱり二人とも兄ちゃんの女だって言った方がいいかなぁ」


 後輩の人達を脅している兄ちゃんの恐怖支配の影響力はとても大きそうだと悟った。

 正直、抑止力は必要だ。私達には兄ちゃん以外の男の人は必要無い。


 見返りは必要かもしれない。モデル事務所の女の子達でも紹介してあげようかな……。そうすれば私達に固執することなく、兄ちゃんの言いつけを守ってくれるかもしれない。


 なんかやだなぁ……。こういう小賢しいことを考えてしまうのは時々自分でも嫌になっちゃう。


 ◇◇◇◇◇


「ふやぁ、疲れたぁ……」


 卒業式の後片付けも終わり、私達は家に帰ってきた。

 あと数日通えば、私達も後を追って春休みに入る。兄ちゃん達と沢山想い出作りをするために色々計画している。


 今頃兄ちゃんと小春こはるちゃんは二人きりで、高校生活最後のデートを楽しんでいるところだろう。


「ねえ有紗ありさちゃん。やっぱり兄ちゃんとお付き合いしてること、隠さない方がいいかもしれないね」


 ソファに座った有紗ありさちゃんに紅茶を出しながら、私はそんな事を口走る。


「どうしたの急に……?」

「ほら、今日教室に帰ったら『樋口先輩と付き合ってるの~?』とか詰め寄られたじゃない」

「ああ……一年生の間は適当に誤魔化してきたけど、ウチは堂々と言いたいなぁ」

「私だって……。ただ正直、リスクとか考えると、ちょっとねぇ」


「リスクってなに?」

「だって、複数人でカップルになれるんなら『だったら私も~』とか言い出す人が出てくるでしょ?」


「そんな軽い女をにーちゃんが受け入れるわけないじゃん」


「それはそうかもしれないけど、空手部の人達にしたって、誤魔化してると変に期待持たせちゃうかもだし。早めに彼氏いるってことは伝えた方が良いと思うんだよね」


「その辺はモデル事務所の女の子達でも紹介したらいいんじゃない?」


「あ、それは思った」


「いっそそれぞれに彼氏がいるって言っちゃう?」


「本気で言ってるなら怒るよ……」


「ご、ごめん、冗談だって」


 兄ちゃん以外を彼氏だなんて言いたくない。怖気がすることを言わないで欲しい。


希良里きらりはそういう所潔癖だよねぇ」


「ごめん、ついカッとなっちゃった……でも有紗ありさちゃんだって本当は私と同じクセに」

「私は、にーちゃんとの関係を守る為に必要な嘘なら……、ごめんやっぱ無し。なんかにーちゃんに申し訳ないや」


「まあ、私達普段から百合だって分かるように、それっぽく振る舞ってるけど、実際本当のところはどう思われてるかなんて分からないしね」


「だよねぇ……どうするのが正解なんだろ……そういうの飲み込む覚悟でにーちゃんに相応しくなるために頑張ったけど……、今になってさ、ありのままの私達のままでも、大丈夫だったんじゃないかなって」


「今更そんなこと言ってもしょうがないし、なるようにしかならないよ。でも、兄ちゃん達と一度方針については相談した方が良いかも」


「だよねぇ。それに、あんまり男の人ばかり囲っちゃうと女子達に嫌われちゃうし……」

「何人か妬んでくる人はいるよね」


 私達の有名税とでも言うべきか……、そう言った嫉妬による嫌がらせは何回かあった。


 今までは兄ちゃんが校内にいる事が影響してなのか、そこまで派手に何かしてくる人は多くなった。


 でも、これからは違うかもしれない。


 私達はできるだけ女子とも仲良くしてきたけど、それでも妬みによる嫌がらせは止まらなかった。


「はぁ……ハーレムって思った以上に障害が多いよね」


「考えたって仕方ないよ。それに、それは普通のカップルにだってあり得ることだもん。ハーレムなんて条件の一つでしかないよ」


「うん、そうかもね……あ、お夕飯何にする?」


 段々考え事で思考が立て込んできたので、リフレッシュするために話題を切り替える。


「にーちゃんもいないし、簡単なものでいいよ……。って言っても希良里きらりにお任せだけど」


「うーん、パスタでも茹でよっか」


 私が夕食を作り、有紗ありさちゃんにはお風呂の準備をお願いすることにした。


 簡単に作ったパスタとサラダで夕食をとり、お風呂に入ってさっぱりして……。


「きっと、今頃兄ちゃんと小春こはるちゃんは、エッチしてる頃かなぁ……」

「そうだね……希良里きらり……」


 想像したらムラムラしてきちゃった……。きっと同じ事を思っているだろう有紗ありさちゃんは、ソファに座る私に肩を寄せて頬を密着させてくる。


有紗ありさちゃん……。シヨっか……」


 二人の意識は重なり合い、寄せ合った唇が触れ合っていった。


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