目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第77話 キラキラアリスとホワイトミルク


 二人を連れて町田家に到着した俺達。


 キラキラアリスの二人はモデル仲間として友達らしいから、家に入って出迎えた二人は遊びに来た友人を迎え入れるような軽快なノリだった。


若菜わかなちゃん、紗理奈さりなさん、いらっしゃいませぇ!」

「今日はよろしくお願いしま~す」


 あ、そういえば……。

 俺はふと思い出したことがあり、希良里きらりに耳打ちをした。



「そういえばさ、ドッキリを仕掛けるのに俺、顔合わせして大丈夫だったのか?」


「あ、大丈夫。ドッキリ企画は中止で料理対決にするから」


 ヒソヒソ声で尋ねると普通のトーンで返ってきた。


「え、そうなのか?」

「そうだね。ごめん、共有するの忘れてた」


「あ~、サーセンッ。姉ちゃんがかなり緊張しちゃってて有紗ありさちゃんに相談したんですよぉ」


 なるほど。人見知りで恥ずかしがり屋のお姉さんの為に予定を変更したわけか。


「兄ちゃんには有紗ありさちゃんの代わりに希良里きらりのパートナーをお願いしようと思って。動画の中でもダークマター作られても困っちゃうからねぇ」


希良里きらり~、聞こえてるぞ~っ」


「あはは、有紗ありさちゃん相変わらず料理苦手なんだ~」


「なので兄ちゃんには[馬アニキ]として希良里きらりのお料理手伝ってもらって、有紗ありさちゃんにはジャッジをお願いしようと思ってるんだ」


 馬アニキっていうのは動画のファンの人達が付けた俺の芸名みたいなものだ。

 マッチョの人間をアニキと呼んだりする昔ながらの伝統があるが、馬のかぶり物をしたアニキってことで馬アニキらしい。


「それじゃ、打ち合わせから始めましょうか」


 そんな訳で、キラキラアリスとホワイトミルクのコラボ動画、そのリハーサルと打ち合わせが始まった。


「それじゃあ始めましょう。NGとかそういうのなしで緩くやってもらっていいんで。ぐだった所はあとで編集しますから」


「あざーすっ。よろしくオナシャスッ」


――ペコペコ


 ノリの軽い若菜わかなさんと無口でジェスチャーのみの反応をする紗理奈さりなさん。

 俺は撮影ボタンを押してキューを出す。


「キララと~」

「アリスの~」

「「キラキラアリス☆」」


 オープニング挨拶から撮影を始めた料理対決のコラボ動画。

 キラキラアリスとホワイトミルクという、動画界隈では二大巨頭と言われる大人気コンビ同士が夢の共演。


 ファンの人達からは多分そんな風に言われるのではないだろうか。俺はそんな夢の共演の撮影現場に立ち会っている。



「なんと~、今日はコラボ動画で~すっ」

「早速ゲストをお呼びしましょう。こちらの方々ですっ」


「こんにちは~っ! ホワイトミルクの若菜わかなです。そしてお姉ちゃんです」

紗理奈さりなデース」


「ホワイトミルクで」

「ゆっくりシマショ♪」



 カメラをオンにすると途端にスイッチが入ったように「演者」の顔になり、無表情なのに動きが豊かで多彩なリアクションをするようになる。


 片言の日本語で漫画によく出てくるエセ外国人のような喋り方をし始め、これがまた非常にキャラ性にマッチしていて見とれるほどだった。


 先ほどまでのぼんやりした印象は何処にもなく、キリリとして動きもキビキビとしている。


 逆に若菜わかなさんは普段そのまんまという感じでキャラブレが全く無く、自然体でいる。


 ちょっと人を小馬鹿にしたような態度で煽り、それをお姉さんが天然キャラで妹の悪い態度を空回りさせるという流れが、漫才を見ているようで面白かった。



 計算高い妹の行動が全部お姉さんの天然で打ち砕かれる。この一連の流れがホワイトミルク定番の黄金パターンとなっているようだ。



「イエーイ!」


 早速希良里きらり有紗ありさ、ここで言うところのキララとアリスによる動画進行が始まった。

 軽快なトークで場を盛り上げるアリスが同じく明るいキャラの若菜わかなさんと話をしていく。


 まず最初はキラキラアリスがホワイトミルクの二人に質問をするコーナーで幕を開けた。


 コラボ動画なのでホワミル側の動画撮影もする予定なのだが、向こうはいつも自分達でセルフ撮影するタイプらしいので、これも俺が担当することになった。


 それからしばらくの間、キラアリとホワミルによる軽快なトークが続いた。


 基本的には盛り上げ役のアリスと若菜わかな。それを見守りながらボケのかますキララに突っ込みを入れ、紗理奈さりなさんの天然ボケが全てをもっていくという綺麗な流れができあっていた。


 カメラを構える俺も思わず笑いそうになる。これは編集のし甲斐がありそうだ。


「それじゃあ今日の動画はここまで。みんなバイバーイ」


 希良里きらりから動画終了の合図が降り、俺はカメラの録画ボタンをオフにする。



「皆さんお疲れ様でした。少し休憩しましょう」


「ケーキが焼けましたよ~」


 小春こはるが焼いてくれたケーキでおやつを食べることになり、そこからガールズトークで盛り上がることになる。


「すごーいっ! これ全部小春こはるさんが作ったんですか?」

「はい。凄く簡単なもので申し訳ないんですけど」

「いやいや、お店レベルですってこれっ。すごーいっ!」


 小春こはるは動画撮影が進んでいる間、皆食べる手作りケーキを焼いてくれていた。

 短時間でこれだけのものを仕上げる小春こはるに感嘆と称賛を送る若菜わかなさん。


 紗理奈さりなさんは目を輝かせてケーキをモフモフと頬張って感動していた。


 その表情は変わっていないのに喜んでいるのが在り在りと空気感だけで分かる。


 表情に動きこそないが、観察すれば結構感情が動いているっていうのは、魅力的に思えた。


 しばしの休憩後、次なる撮影の準備に入った。


 だがこの後、俺にとてつもないラッキースケベな展開が待っていようとは……。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?