「それじゃあ次は踊ってみた動画の撮影に入りましょう」
ケーキでおやつ休憩を取り、次なる撮影に移行する。今度はホワミル側の動画でダンスをすることになっている。
俺はみんながガールズトークで盛り上がっている間にフローリングに靴を履いても大丈夫なルームマットを敷いて撮影用のリングライトを準備する。
「ふわぁ~。樋口さん手際良いですねぇ。うちにもアシスタントさんいるけどこんなにテキパキ動けないですよ」
「普段は二人が自分達でやってますけど、手伝っているうちに覚えた感じですね」
気が付いたのは
胸元を見せつけてきているのは気のせいではなく、ブラジャーをワザと緩めていると思われるほど乳首が見えてしまっている。
できるだけ見ないようにしていたが、どうしても目に入ってしまう。
このことについてさり気なく
とっても悪い笑顔でそんなことを言い出すモノだからどういうことかと問いただす。
「あの子、ちょっと男の人を見下す傾向があるからからかってるだけだと思う。堂々と見ちゃって『綺麗なおっぱいですね』なんて言ってみたら面白い反応するかも」
なるほどと言わざるを得なかった。悪い人間ではないが、何らかの理由で男を下に見ているから、俺が狼狽えるのを面白がっているのだとしたら、その説明も納得できるかもしれない。
動画の演者として取り回しの仕方は見事だったし、
腹黒い人間というのはなんとなく空気感が伝わってくるが、あの子にはそう言ったザラついた感じはしない。
まるで子供の成長を見守る親のようなセリフだが、そういう視点で見るなら気になることはなくなりそうだ。
俺はその後もなるべく誘惑的な行動にも動じること無くやり過ごした。
「ぐぬぬぬ……」
そんな小さな呻きが聞こえてくる。やはり二人が言っていたことは正解だったらしい。
何か実害があるわけではないし、俺自身はラッキースケベでラッキーでハッピーだから何の問題もない。
ちょっとムラムラしてしまうが、そこは我慢だ。
ちなみに動画撮影は2日にわたって行うことになっており、ホワミルの二人は今夜ここで宿泊することになっている。
俺は見知らぬ女性が寝泊まりする所に居座る訳にはいかないので今日は実家に戻る算段だった。
「準備できたので撮影始めまーす」
それから、ダンスの動画撮影のために衣装に着替えることになった俺達。
「あ、にーちゃん、ごめんけど浴室から汗拭き用のタオルいくつか持ってきてほしい」
「おう、分かった」
「あ……」
「え?」
いつものように何の気なしに引き戸になっている浴室の扉がガララと開けて中に入ると、そこにいると思っていなかった意外な人物が。
「あ、あ……」
失敗した。
なんと浴室の扉を開けたら着替え途中の銀髪美女の姿が……。
大きく張りだしたバインバインのおっぱいは何も付けておらず、桜色の乳首は
くびれのラインがとても綺麗で肌が白い。
流石はロシア人のハーフだけあって透き通るような美しさだった。
ガッツリと目に入ってしまった裸体に固まりそうになるが、慌てて意識を引き戻して扉を閉める。
「うわわっ、す、すみませんっ!!」
「……ッ!!」
顔を真っ赤にして胸を隠す
俺はその場を離れるか迷ったが、誤解されたままでは今後に支障が出そうなので彼女が出てくるのを待つことにする。
いや、このまま声を掛けて謝った方がいいだろう。
言い訳になるが、この頃はこの家に暮らすことにも慣れてきてお風呂場でノックするという習慣も失われしまっていた。
だから自然と何も考えずにドアを開いてしまったが、今日は来客中なのでそのことは考慮すべきだったか。
「あ、あの
『……』
返事がない。どうしよう……。
ガラララ……
弱々しく引き戸が開き、顔を真っ赤にした
それは常に無表情クールだった彼女とは打って変わり、アワアワと狼狽えて真っ赤っかに染まった表情だ。
「も、申し訳ありませんっ!」
大事にならないように声を荒げず、できるだけ冷静を装って頭を下げる。
「……だいじょう、ぶ……。樋口、サン。
「いえ、何かお詫びしなければ……」
「本当に、ヘーキ……。気に、しないで……」
そう言って俺を許してくれた彼女の口元は優しげにほころんでおり、今日初めて彼女の表情が動くのを見た気がする。
何度も謝ってはかえって迷惑を掛けてしまうと思い、最後に一言謝って彼女を見送る。
「っと、イカンイカン。早く持って行かないと」
慌ててタオルを手に取って撮影部屋に向かうことにした。
それから撮影は大変だった。主に俺が……。
ダンス用の衣装に着替えた四人の格好はラフなシャツとミニスカート。中にスパッツは履いているが、レーティングに引っ掛からないように後で編集する必要がある。
室内用のシューズを履いて本格的なダンス動画を撮影し始める……のは良いのだが……。
先ほどの
しばらくダンスの撮影をしていたのだが、そこで少し問題が起きた。
ダンスパートの撮影がほぼ終わりかけた頃、
「ア痛っ……」
「どうしたの、大丈夫?」
「イタタタ……ひねったかも……」
「兄ちゃん、見てあげてッ」
俺はすぐに彼女達の元に駆け寄った。空手や武術をやっている関係上、ケガをしたときの対処も勉強している。
「
「うん、分かった」
「いや、大丈夫ッスよ。ちょっとひねっただけなんで」
「割と後で痛み出すケースってあるんで、念のためシップ貼っときましょう。靴と靴下脱がせますね」
「あ……」
直感的に強めにひねったように見えるから、見た目以上に後に響くかもしれないと考え、彼女の許しを待たずに靴下を脱がしてケガの患部を眺める。
「あ、あの……」
「うーん、ちょっと強めにひねっているみたいですね。もしかしたら腫れてくるかもしれないんで早めに対処しましょう。場合によっては病院に行く必要も出てくると思います」
「いや、そこまでは」
「念のためです。ケガを甘くみちゃいけませんよ」
「は、はい……」
「ちょっと失礼しますね」
「いたッ」
足首をそっと触れてみると、やはりかなり強めにひねったようだ。
捻挫した場合は、応急処置として患部を氷のうや冷たいタオルで冷やし、炎症を抑ておく必要がある。
関節が動かないようしっかり固定して、むやみに動かさない方が良い。
通常は数日から1週間ほどで治るが、治療を怠ったり、間違った処置を行うと治りにくくなることあるからな。
「て、手際良いっすね」
「慣れてますから。あまり動かないで」
「は、はい……」
流石にケガをしては元気がどこかにいってしまったようで、借りてきた猫のように大人しくなった
スパッツに食い込んだ割れ目がミニスカートの奥に覗いている。そんなことにも気が付かないほど余裕がないらしい。
俺はなるべくそっちを見ないようにしてケガの治療を続けた。