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第79話 計算違い【side若菜】


【side若菜わかな


 私は"若菜わかな・エレノフスク"。

 ロシア人の母を持つハーフだ。


 姉の"紗理奈さりな・エレノフスク"は異母姉妹で、同じ父親の種から生まれている。


 私は男より女が好きだ。なんで? と言われても困る。物心ついた時からそうだったからだ。


 別に男が嫌いなわけではないけど、恋愛対象は女。断然女だ。


 男はおもちゃ。若菜わかなになびいて媚びを売るのが仕事の生き物のはず……。


 私はこれまで男という生き物を翻弄してきた。この美貌にすぐ寄ってくる男共を手玉に取るなんて造作もない。


 男友達は多い。学校でもメチャメチャモテるけど、女の子と仲良くする方が楽しいし心地良いからほどほどだ。

 だけど男女混合で遊ぶことはたまにある。


 大体の男は私に媚びを売って気に入られようとするからね。もちろん、そればっかりだと女の子に嫌われちゃうから適当に相手して躱している。


 そんで私に失恋した男子を他の女の子にさり気なくあてがう。そうすることで大体はカップルとして成立するから恋のキューピッドなんて裏では言われているらしい。


 ま、私が男に興味がないからってのと、適度にそういうこともしておかないと敵を作ってしまうからだ。


 小学校の時はそれで色々とトラブルが起こって大変だったらね。処世術って奴だ。


 男の子にも女の子にもチヤホヤされて、適度に友達を作って、モデルとして持て囃される。

 本当に毎日が充実していた。


 あの二人に会うまでは……。


 そう、キラキラアリスの二人だ。


 驚いたなんてモノじゃなかった。あり得ないほどの美しさ。二人揃って抜群のプロポーション。

 血縁関係がないのによく似た容姿とシンクロする性格。


 綺麗で、可愛くて、美人で、性格も良くて接しやすい。


 惚れない要素が何処にもないじゃない。それに、なんとなく自分達と同じ匂いがしたのも要因の一つ。


 恋愛対象は女。そうに違いないという直感と、そうであってほしいという願望。

 どっちなのかは分からない。でも、きっとそうだって確信があった。


 だからすぐに友達になった。


 それは案の定正解だった。ついこの間、二人は動画でレズビアンであることを告白したのだ。

 もともとそうじゃないかって疑われていたこともあり、世間にはすんなりと受け入れられた。


 だけど、二人は既にカップルだった。私の入り込む隙間なんてない。


 だからせめて仲良くしたいと思っていたのに、二人は男とできていた。

 いや、証拠はない。 

 証拠はないけど、ほとんど確信に近かった。


 それがあの男だ……馬のかぶり物したアイツ。


 樋口順平だ。


◇◇◇◇◇


 あ~、ムカつく。なんなのこいつ。

 こんなになびかない男初めてだよ。おっぱい見ても反応薄いし、テキパキしてて手際良いし、背は高いし無駄にイケメンだし、気遣いはできるし筋肉すげぇし……。


 男なんてちょっと煽ってやればすぐにデレデレする生き物なのに。こいつは全然なびいてる様子がない。

 有紗ありさちゃんや希良里きらりちゃんとハーレムやって付き合ってるって噂は本当かもしれない。


 そりゃあさ、あんだけ可愛い女の子二人とよろしくやってるなら私になびかないのはギリギリ納得できるよっ! 

 でもさっ、もうちょっとなんかあったって良いじゃんかッ。


 腹立つ腹立つ腹立つ。


 今日はこいつを懲らしめに来たのに……。有紗ありさちゃんと希良里きらりちゃんから悪い虫を追い払うのが私の役目だ。


 絶対こいつの化けの皮を剥いでやる。




 だから今日は大好きな有紗ありさちゃんと希良里きらりちゃんのために、この馬アニキの中身が絶対悪い奴に違いないと、化けの皮を剥ぎに来たんだからっ。



「とりあえずこれで安静にしていれば問題無いと思います。一応週明けに病院で見てもらってくださいね」

「あ、ありがと……ございます……」


 なのにこいつは、あまりにスマートに捻挫した足をテーピングしてくれた。


 くっそー。なんか腹立つんだよな。


 イケメンで、要領良くて、能力高くて、気遣いもできる……女にとって超優良物件。


 なんか、うちのパパみたいだ。


 だからこそ、手玉に取れないのがなんかムカつく。



 動画の撮影は若菜わかなの足を気遣ってキッチンに高めの椅子を準備してもらった。


 優しいのがますますムカつく。どうして若菜わかなより上の立場になってんのっ? 優しくて気遣いできて、そういう所がパパに似ていてますますムカつく。



 ああもうっ、駄目だ上手くいかないや。今日はもう絡むのやめとこ……。



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