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第80話 気になって来たアイツ【side若菜】


 と思っていたのに……。

 それから料理動画の撮影パートになり、私は高い椅子に座りながら得意の料理を披露する。

 そこでもあの男が気に食わない挙動をしてくる。


 料理が不得意な有紗ありさちゃんの代わりに馬アニキが入り、絵面が大分厳つくなってしまった。


  クソッ。有紗ありさちゃんの手料理だったらダークマターでも食べて見せるのにさっ。


 料理動画の撮影が始まり、向こうの様子は有紗ありさちゃんが撮影し、私とお姉ちゃんの料理の様子は小春さんが撮影してる。


 この人も綺麗な人だなぁ。それに胸がデカい。メチャメチャデカいっ。お姉ちゃんよりもデカい。

 にも関わらず、腰細っそっ。くびれエッグぅう。



 顔立ちもフワフワ甘々の美少女系の美人。つまりロリ顔で神クラスの爆乳……語彙力下がるくらい綺麗な人。


 気のせいかもしれないけど、迎えに来てた時から二人の距離はかなり近い気がする。


 もしかしたら付き合ってるのは二人だけじゃない?


 いや、小春さんと付き合ってて、有紗ありさちゃんと希良里きらりちゃんは単に距離が近いだけという可能性も……。


「完成~~♪ 兄ちゃん上手くいったねっ」


――グッ


 馬アニキがサムズアップしながらポージングする。

 サムいんだよなぁ。お笑い芸人じゃないんだからさ、もうちょっと考えようよ。


 今時馬のかぶり物にタンクトップってさぁ……。筋肉は凄いけど……。


 なんてことを考えていたら料理が完成し、試食会の様子を撮影して動画は締めとなった。


 撮れ高さえあれば勝利かどうかはどうでもいいけど、やっぱりこの男に負けるのはなんか悔しかった。



 それから審査員の有紗ありさちゃんが2チームの料理を食べながらリアクションを取る。


 有紗ありさちゃんは本当に美味しそうに私の料理を食べてくれた。今回のは自信作だ。

 きっと私の料理に軍配を上げさせて見せる。



「勝者は~~~、希良里きらりと馬にーちゃんチーム~~~~」


「やったーーーっ」


 負けた……。 なんか悔しい……。



 そしてエンディングを撮影し、この日のスケジュールは全て終了となったのだけど、夜になってトラブルが起きた。





「ねえねえにーちゃん、今日泊まってってよぉ」



 有紗ありさちゃんがあろうことか樋口順平を引き留めて泊まっていけと言い始めたのだ。


「いやいや、女の子だけの所に男が泊まるのは問題でしょ」


 そうだそうだ。早く帰れ。居座るなら襲われたって騒いでやる。


「えー、でもなぁ」

「せっかく仲の良い女の子同士でのお泊まり会だろ? 深夜の女子会すれば良いじゃないか」


「ちぇ~。分かったよう」

「お泊まりはまた今度な」


「は~い」


 樋口順平は馴れ馴れしくも有紗ありさちゃんの頭を撫で撫でしている。あんな漫画みたいなことする奴がいるのか……。


 有紗ありさちゃんもそれで凄く嬉しそうだ……。

 やっぱりデキてるんじゃないか?


 それでアイツは帰りかけたんだけど、玄関を開いたところで出て行かずにすぐに扉を閉める。


「どうしたの兄ちゃん」

「やっぱり今日はここに泊まる」

「え、嬉しいけど、どうして?」


「誰かがこの家を見張ってるような気がする。変な気配がするんだよ」

「え、やだ怖いッ」

「ちょっと家の周りを一周してくる。裏口から出るから戸締まりを確認してくれ」


 ちょっと何よそれ……。


 不穏な空気がその場を支配し、樋口はそのまま裏口から出て行った。


 それから希良里きらりちゃん達は家の中全部の戸締まりを確認しながら樋口の帰りを待った。


「なんか変なことになっちゃったね。大丈夫かな?」


 ちょっとだけ不安が募った私は何の気無しに希良里きらりちゃんに話しかける。


「兄ちゃんなら大丈夫だよ。絶対なんとかしてくれるから」


「え、あ、うん」


 希良里きらりちゃんの樋口に対する信頼が凄い。 

 ここまで手放しに信頼できるってよほどじゃないだろうか。


 心底気に食わない男だけど、身体はデカいし強いのは確かだろうからそこは頼もしかった。

 うちのロシアにいるおじいちゃんのような空気感も感じる。

 おじいちゃんは会社役員だけど軍隊格闘の達人で身長2メートルの巨人だ。


 私は日本で過ごすことが多かったからあまり会えてなかったけど、あの大きな安心感に似たものを感じる……って、これじゃ私が樋口に心を許してるみたいじゃないっ!!


 それから待つこと30分ほど……。希良里きらりちゃんのスマホが鳴って樋口からの連絡があった。


「もしもし兄ちゃん? どうだった? ……えっ、本当にッ!? うん、うん……分かった。気を付けてね」


 時間にして5分もしない間に通話は終了したのだが、そこで聞かされた内容は驚愕の一言だった。


「樋口さん、どうしたって?」


「不審者が本当にいたみたい。ここにいる誰かのファンみたいで、兄ちゃんがとっ捕まえて吐かせた。今から警察に引き渡してくるって」



「エッ、えええっ!?」

「ッ……ッ!?」


 私は驚きの声を上げた。同時にお姉ちゃんも息を呑んだのが分かる。


 それから更に1時間ほどが経った頃、樋口順平は帰ってきた……。頬に斬り傷を付けた状態で。


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