夜の8時頃、妙な気配を感じた俺は裏口から出て身を隠しながら庭を一周して不審者がいないか確認していた。
妙な気配を感じて念のため今夜は
俺は反対側に回り込んでそっと塀を乗り越えた。
別邸の影になっている所から壁を乗り越え、外へと出て不審者がいると思われる場所に回り込んだ。
電信柱の影から町田邸の様子を伺っている男がいた。
「アイツ……結構ガタイ良いな……。格闘技やってるかもしれない」
黒いニット帽にマスクで顔を隠している。明らかに不審者のそれだ。黒のシャツに黒ズボン。黒黒黒の黒ずくめ。どこぞの組織かってんだ。
身長は170くらいか。俺よりは小さいが体軸がかなりしっかりしてるし、細身だ……。つまり、かなり身体を絞り込んで鍛えている可能性が高い。
そうなると戦い方はスピード重視かもしれない。もしかしたら凶器を持っているかもしれない。いや、十中八九持っていると考えた方が良い。
足の運び方が格闘経験者のそれだ。相当鍛え込んでるように見える。
こんな所に来るようなヤツだ。ここがキラキラアリスの撮影場所だと確信している可能性は十分にある。
そろそろ撮影場所を特定されていることも想定した方が良さそうだ。今までされなかったのが不思議なくらい、と考えておいた方が良いだろう。
姉ちゃんに応援頼むか……。いや、もたもたしていたら取り逃がすかもしれない。
それにこんなことで応援頼んだから怒られるな。
あからさまな不審者だが、まずは刺激しないように通行人を装うか……。いや俺のガタイだと馬アニキと感づかれる可能性は高いか……。
「あのーすみません。うちに何か御用ですか?」
「え……あぁ、いや、あの……」
挙動不審。それをそのまま表しているような態度。警戒させないようにゆっくりと近づいた。
と、その瞬間。
ズバッ……
「え……」
冷たい痛み……。頬が裂けて血が流れたのに気が付いたのは一瞬後……。
何かが迫り、危機察知能力で咄嗟に顔を逸らした。無意識だった。
道場で修業した成果としか言いようがない。
さっきに対して咄嗟の反応を身体が示してくれたのだ。
「って、マジかよッ!」
こいつマジか。いきなり凶器で斬り付けてきやがった。
「シュゥウ……お前、馬アニキの中身だな……。ボクの愛しのホワミル手籠めにしようとして……許さない、絶対に許さないぞっ」
ニット帽とマスクで顔を隠していても、そこから覗く眼光の鋭さは素人のそれじゃない。
「あんた、なに言ってんのさ。何か勘違いしてるんじゃないですか?」
ホワイトミルクの二人がここにいる事を知っている? なんで? どこから漏れた?
いや、今はそんなことより。
「とにかく落ち着いて。その物騒なモノをしまってくださいよ。話し合いましょう」
「うるさい、うるさい、うるさいッ! ボクが一番近くであの二人を見てきたんだ。
「ちょっとなに言ってるかわかんないです。頭大丈夫ですかい?」
マジでなに言ってるんだこの人……。ホワミルは誰のモノでもないでしょうが。
距離を取りながら上着として着ていたジャケットを脱ぐ。こういう時は相手の腕に服を巻き付けて凶器を無力化するのが一番だ。
対凶器戦闘の訓練受けておいてマジでよかった。
「シィイイイイイッ!!」
蛇のように鋭い一撃が襲い掛かり、既の所で躱す。ジャケットを腕に巻き付け、ナイフの刃先をぐるぐる巻きにしてそのまま腕を取った。
「ぐううっ! は、離せッ、クソッ」
もの凄い力で抗おうとするが、こっちだって素人じゃない。完全に関節を
腕の一本もおってやりたいが、やりすぎると過剰防衛になってしまう。
まだその線引きがどこにあるのか知識がないから無茶をしすぎるわけにはいかない。
俺は暴れる男を押さえ込んで片手をなんとか自由にしてスマホを取り出す。
警察にコールして現場に急行してもらうように頼んだ。
幸い暴れる男の声が入って真実味が増したのか、最低限のやり取りだけで警察官を向かわせると約束してくれた。
電話口で住所を伝え、電話を切ったら姉ちゃんにコールする。
『もしもし、どうした順平?』
「すまん姉ちゃん。緊急事態につき急いで家の前に出てきてくれ」
「くっそぉお、離せッ、クソッ、離せッ!!」
『あ~、なんとなく事態は察した。しっかり抑え込んでおけよ』
「頼むわ」
暴れる男の声で事態を察してくれた姉ちゃんは、それから数分で外に出てきてくれた。
俺は両手で不審者を押さえ込んで警察が到着するのを姉ちゃんと二人で待つことになった。
それから警察が到着し、不審者たる男は現行犯で逮捕された。銃刀法違反とかその辺だ。
どうやら聞き及んだ情報によると、ヤツは……。