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第82話 紗理奈の距離感としおらしい若菜



「マ、マネージャーッ!! こんなところで何やってるのあなたっ!」


「……ッ」


「チィ……ッ」

 なんとヤツはホワイトミルクのプロモーター兼マネージャーであった。警察に引き渡され、身元の確認を行ったら驚愕の事実が発覚した訳である。


 希良里きらりの住所がバレたのも若菜わかな達のスケジュール表を見たからだろう。ネットで特定されたかもと思ったが違ったらしいことに多少安心した。


 どうやら紗理奈さりな若菜わかなに異常なまでの執着をしているらしく、これまで何度も怪しい場面はあったそうだ。


 普段は温厚で人当たりもよく、仕事もできるため気にしないようにしていたが、時折衣服がなくなったり飲みかけのジュースが消えていたりしていたそうだ。


「やっぱり変態だったんだアンタ。前々から怪しいとは思ってたけどね」

「……。残念、デス……」



 絶望しきったマネージャーの男の慟哭が警察署内に響き渡った。

 あまりにも悲痛すぎて居た堪れないが、やっている事は卑劣なストーカー行為だ。


 こんなことがあったので撮影は中止となり、事務所に連絡して今後のことを話し合うことになったらしい。


 翌朝、彼女達は朝一番で帰ることになり、俺の車で護衛がてら自宅まで送ることになった。


 有紗ありさ希良里きらりは二人の精神的ケアに努めてピッタリとくっ付き手を握っていた。

 マネージャーに怒鳴り散らしていたが見た目以上にショックを受けているはずだからな。


 銃刀法違反と俺のケガで傷害罪が適応されることとなり、逮捕されることとなった。

 当然仕事も首になるだろうし、今後は近づいてくることはないだろう。


 だが、一生関われない位置にいる訳じゃない。


 あれだけの執着を見せている男がこの程度の事で諦めているとは思えない。


 俺はハンドルを握りながらジクリと痛む頬を押さえた。


「あの、樋口、サン……頬、だいじょぶ?」


紗理奈さりなさん、ええ、この程度はケガのうちに入りませんよ」


 後ろの席からこちらをのぞき込んでくる紗理奈さりなさんが心配そうに頬に触れた。


 っていうか、この人の距離感が昨日から少し変だ。やはり不安を感じているのだろうか。


紗理奈さりな~、ベタベタしすぎぃ」

「ゴメン……若菜わかな……」


 不機嫌な声を上げる若菜わかなさんの声はかなり怖い。やはり機嫌が悪くてピリピリしているのか。

 あんなことがあったのだから仕方ないか。


「ほらほらっ。動画撮影は改めて今度やろうよ。若菜わかなちゃんも機嫌直そッ」


 有紗ありさが場を和ませようと声をかけるが、彼女の機嫌は直らないままだった。


◇◇◇◇◇


「ごめんなさい……。このお礼はまた改めて」

「いえいえ。全部不可抗力ですから気にしないでっ」


 彼女達を家まで送り、終始不機嫌な若菜わかなだったが、車を降りた途端にしおらしく頭を下げていた。

 希良里きらり若菜わかなも二人を気遣い、今日は彼女達で女子会をすることになった。


「それと、さっきはすみません……ピリピリしちゃって」

「いいんですよ。あんなことがあったんだから」


「いえ、でも……そのケガも、元を正せば私達のせいだし」

「関係無いでしょ。若菜わかなさんとあのストーカーマネージャーの行動は」


 悪くなりかけた空気を有紗ありさが和ませようと提案をしてくれる。


「ねえ、せっかくだからこのまま若菜わかなちゃん達の家で女子会動画撮らない?」

「あああ、希良里きらりちゃんナイスッ! それやろっ! あの、樋口さんも一緒にお願いしますっ!」


「よろしいんですか?」

「オナシャスッ!」


 どうやら気持ちは切り替わってくれたらしい。明るい笑顔を取り戻した若菜わかなさんに、紗理奈さりなさんは安堵の表情を浮かべているように見えた。


◇◇◇◇◇


「だけど大変なのはこっからだね。確実にスキャンダルになるし、しばらく活動は控えるしかないかなぁ」


 女子会動画はキラアリとホワミルがワチャワチャトークをしながらお菓子を食べるというシンプルなものになったが、いつも以上に楽しそうな雰囲気で撮れ高の多い撮影となった。


「そうだ。しばらくコラボ動画の企画続けない? 例えばさ」


 有紗ありさ希良里きらりは二人に共同生活を持ちかけた。

 と言っても本当に同居するわけではない。あのマネージャーが外に出てくる前に、引っ越しなんかを全部終わらせるまでの間の話だ。



 逮捕拘留はされているものの、それがいつまでか分からない以上、物理的に距離を置くしか方法はない。

 二人は半分芸能人みたいなものだし、何かと目立つ存在だからそれも仕方ないだろう。


 と言うわけで、次の日からしばらく彼女達の身の回りを世話しつつ、引っ越しを手伝うことになった。


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