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第84話 初めての興奮【side紗理奈】


【side紗理奈さりな


若菜わかな、ちゃん……駄目、デス……、ここは、人の、お家……」

「なによ……お姉ちゃんのクセに……若菜わかなに逆らう気?」



 マネージャーに裏切られるというあまりにもショッキングな出来事から一夜明け、激動の1日が過ぎて疲れ果てたこの日の夜。


 私、"紗理奈さりな・エレノフスク・篠宮しのみや"は宿泊させてもらっている町田邸の客室のベッドで眠らせてもらえない夜を過ごしていた。



「ほら、いつもみたいにしっかり奉仕しなさいよねっ。若菜わかなちゃんの美味しいですってっ」


 妹の若菜わかなはイライラを隠さない険しい顔で私に股間をなめさせる。


「……んんっ、痛い……デス……若菜わかなちゃん」


「なによ。そんな媚びた顔してるクセに…ッ。男に守ってもらえて興奮してるの? あのクソみたいなマネージャーがいなくなってせいせいしてるんでしょ」


 謂れのない難癖を付けられて、妹は私に苛立ちと興奮をぶつけてくる。


「ひぅっ……んっ……乱暴、イクない……デス……」


 妹の若菜わかなは男が嫌いだ。もともと恋愛対象が女性と言うこともあって、男というのはどうでもいい存在だったものが、今回の一件で嫌悪の対象に変わってしまったらしい。


 確かにあのマネージャーの視線は以前から怖いと感じていた。普段は温厚で優しいのに、時折ヘビのように鋭くねっとりとした視線を感じることがあった。


 若菜わかなちゃんには言っていないけど、下着がなくなったこともあり、私は元から得意ではなかった男性との接触がますます苦手になった。


 私はロシアで生まれ、これまでの時間のほとんどをロシアで育った。

 だから日本に来たのはつい最近で、まだまだ日本語も勉強中だ。パーパは日本人だけど、私と接する時はほとんどロシア語で喋ってくれたから日本語を覚える機会は多くなかった。


 私と若菜わかなちゃんは異母姉妹だ。顔立ちはそれなりに似ているが、身体の大きさはあまり似た育ち方をしなかった。


 実は他にも姉妹兄弟がいるのだが、私がロシアで暮らしていたこともあり、あまり会ったことがない。


 同じくロシアで生まれ育った若菜わかなちゃんが一番関係性が近い姉妹だったので、私達は実の姉妹のように育ってきた。


 なぜなら私のマーマと若菜わかなちゃんのマーマは双子の姉妹であり、とある国で二人とも夫婦の契りを交わした仲だからだ。


 私はほとんどおじいちゃんとおばあちゃんのいるロシア本土で育ち、不思議と日本という国にはあまり強い興味が湧かなかった。


 ところが最近になって、もともと日本にも頻繁に行き来していた若菜わかなちゃんが一緒に日本に留学しようと言い出したのだ。


 私はおじいちゃんおばあちゃんと離れたくなかったけど、他ならぬ若菜わかなちゃんの頼みなので受け入れることにした。



「気弱なお姉ちゃんのお世話してあげてるんだからッ、しっかり奉仕しなさいよねっ」


 若菜わかなちゃんも昔は素直で可愛い子だった。でも、この頃はどうしてかイライラすることが多くなり、私への八つ当たりも激しくなる。


 マーマにも相談できないこの悩みは、私の中に少しずつストレスとしてたまってくる。


 だけどそれをおばあちゃんに相談したら、『それは若菜わかなが子供だから、お姉ちゃんが優しく包んであげて』と諭された。


 他ならぬおばあちゃんの言いつけだから、私はつとめて彼女の心の苛立ちを受け入れる努力をしている。


 双子の母はどちらも快活な性格をしているのに、どうしてか私は引っ込み思案な性格に育ってしまっている。


 私は若菜わかなちゃんを満足させる為に愛撫を強め、慈しみを込めて舌を上下させる。


「んんぅううっ」


 袖の端を口に咥えて絶頂を迎えた妹の足が私の背中に絡みついて締め付けてくる。

 頭を押さえられて息ができなくなる。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ……はぁ……、ああ、気持ち良かった……」

若菜わかな、ちゃん……」


 足を離した若菜わかなちゃんは我に返ったように弱々しい視線を向けてくる。

 先ほどまでの傍若無人な態度は鳴りを潜め、どうしていいか分からないと言った様子でオロオロし始めた。


若菜わかなちゃん、良いデスよ……」

старшаяお姉 сестраちゃん、ごめんなさい……。私』 

『ты в порядке大丈夫。大丈夫だからね』



 急に弱々しくなった若菜わかなはロシア語で謝り始める。こうなった彼女は、昔のように姉に甘えてくる甘えん坊の若菜わかなに戻る。



 私がこの理不尽とも思える感情の暴力に怒りを覚えないのも、彼女が本質的に感情のコントロールが不得手な幼さを有していると分かっているからに他ならない。



 私の愛しい愛しい妹。兄弟姉妹は多けれど、同じ環境で育った実の姉妹は若菜わかなだけ。

 だから私は若菜わかなを愛する。



『お姉ちゃん……おっぱい』

『んっ……いいよ。いっぱい甘えなさい』


 ひとしきり感情の暴走を終えた若菜わかなは、沈静化した激情を整えるように甘えてくる。


 母の母乳を吸う赤ん坊のように私の乳首に吸い付き、『ごめんなさい……』とロシア語で繰り返しながらシクシクと泣き始める。


 私はそんな情緒不安定な可愛い妹の頭を撫でて包み、母のような気持ちになって慈しんだ。


 やがて涙袋が乾いた頃、若菜わかなの静かで安らかな寝息が聞こえ始めた。


 しばらくの間そうしていたのだが、そっと離れてベッドから降りる。

 若菜わかなが起きないことを確認し、私は音を立てないように部屋を出た。


『熱い……』


 熱く火照ってしまった身体は情欲を求め、下腹部と乳房に甘い疼きをもたらした。

 若菜わかなへの愛撫で高まってしまった身体に癒やしを求め、私は密かに自分を慰める場所を求めてトイレに向かう。


 一刻も早い自慰行為への渇望と、音を立ててはいけないもどかしさがせめぎ合い、自然と息が荒くなってしまう。

 こんな所を誰かに見つかってはいけない。


 特にヒグチさんには……。


 ヒグチさんは、私のパーパに雰囲気がよく似ている。大きくて、柔らかい空気感をまとい、優しさと温かさで包み込んでくれるような空気感を持った人。


 顔付きの精悍さや、溢れ出る生命力の気配。それでいて何者も包み込んでしまうような包容力。安心感を覚える空気。



 思い出すと下半身が熱くなるのは、どうしてだろう?


 そんなことを想いながら、フラつく足取りに耐えてトイレの近くまで辿り着く……。


――ぁ、んっ、ぁあ


 ギシ、ギシッ……と、何かが軋むような音が聞こえる。

 トイレのドアノブに指を引っかけたところで耳に届いた奇妙な音に気が付き、思わずそちらに意識を向けた。


――順平ちゃんっ、順平ちゃん♡


 微かに聞こえてくる甘い呻き声のような音。


 それは艶かしいものであり、経験のない私にも卑猥なモノであることを理解させてくる。


 視線の先には半開きになったドアから灯りが漏れている。

 好奇心に駆られて気配を殺し、荒くなる呼吸を抑えながら近づいた。


『我慢しちゃイヤッ。順平ちゃんの生きてる証を、注ぎ込んでッ』



 えっ、ええっ!? 思わず上げそうになった声に口元を抑える。




 体、重ねてる……それも、大きな身体の男の人に三人もの女性が絡みついた状態で……。



(うそっ……っ!? あれは小春こはるさん……と、脇にいるのは有紗ありささんと希良里きらりさんだ)


 全員が後ろ姿でこちらは向いていないが、どのような顔をしているのか伝わってくるようだ。



(ハーレムだ……。やっぱりヒグチさん達はハーレムだったんだ)


 半ば確信に近いものが、初めてあったときの雰囲気から感じとる事ができた。

 三人の、いえ、今日合流したヒグチさんのお姉さんを含めた四人から感じる空気感や視線は、全て彼一人に注がれていることが分かった。


 男性経験のない私にとって、それが恋愛なのか、家族の情のようなものなのかは分からなかったが、この現場を見せられては男女のそれであったと納得せざるを得ない。


「す、すごい……ぁあ、凄い」


 私はいつの間にか目が離せなくなっていた。


 ヒグチさんは何度も彼女達に情熱を注ぎ続けた。



「にーちゃん、ぜんぜん、足りない……もっと、もっとほしい」

「ごめんなさい順平ちゃん、私ももっとほしい。もっともっと命の証を注ぎ込んで」

「兄ちゃん、いっぱいご奉仕するからぁ。希良里きらり達にもっと注ぎこんでぇ」


(ええっ……まだ続けるのっ!?)


 ヒグチさんの精力は枯れることなく、三人もの女性を何度も愛し抜いていた。



(男の人って、あんなに何度もできちゃうものなの……ッ? なんだろう、身体が熱い、熱くて、知りたい……。男の人に抱かれるって、どんな感じなんだろう……)


 今まで男性に恋や性欲を感じたことはなかった。でも、この初めての感覚をどう処理したら良いんだろう。


 熱く、淫靡な、湧き上がるような衝動が身体を支配する。


 それから私は、幾度にも渡ってセックスを続ける彼らに魅入られてひたすら自慰行為に耽り、ハッと我に返ってその場を離れたのは多分何時間も経ってからだった。



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