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第85話 突然の申し込み



 三人はセックスが終わった後も離れようとはせず、しばらく抱き合った後に小春こはるが部屋のシーツを交換し、希良里きらり有紗ありさは床掃除をした。


「ねえ順平ちゃん」

「どうした小春こはる?」


 床の掃除をしている際に、部屋の外から戻ってきた小春こはるが気になることを言い始めた。



「あのね、部屋のドアのところが凄く濡れてた。もしかしたら見られてたかも」

「マジか……。それはマズったな」


 翌朝。深夜から朝方に掛けて愛し合った俺達は、ドロドロになった部屋をシーツごと掃除してからようやくベッドに入った。



 そして数時間の後に起床してから朝食の準備を始めたのだが、疲れているのかホワミルの二人は中々起きてこなかった。


 有紗ありさが起こしにいき、ようやく起きてきた瞬間、夕べ部屋の前にいたのが誰なのかすぐに分かった。


「オハヨウ、ゴザマスル……」


「お、おはようございます……」


 顔をリンゴのように真っ赤にした紗理奈さりなさんが顔面オーバーヒートを起こしてポンコツになっていた。


 慌てて目を逸らしながら机の角に足をぶつけ、痛みに悶えながらフラついて転んでしまう。


「だ、大丈夫ですかっ」


 慌てて駆け寄った俺の顔を見て、紗理奈さりなさんは高速で後ずさりする。


「だ、ダイジョブでーすッ! ロシア人、とっても元気ッ」


 昨日と打って変わってエセ外人のような喋り方が加速している。


 どうやら昨日覗き見していたのは彼女で間違いなさそうだ。さてどうしたものか……。


「おはようございます……」

「おはようございます若菜わかなさん。よく眠れましたか?」


 眠そうな目を擦って朝食の席に座った若菜わかなさんに希良里きらりが紅茶を出しながら尋ねる。


「あっ。紅茶で大丈夫? うちコーヒー置いてなくて」


「う、うん。大丈夫。私もお姉ちゃんも紅茶派だから」

「良かった。ベッドの寝心地はどう?」


「うん。すごく良かったよ。ぐっすりだった」

「そっか、良かった。何か不便があったら言ってね」


「ありがとう。何から何までお世話になっちゃって、なんか悪い気がしてきた」

「気にしないでいいよ。ホワミルとコラボすることは私達にとっても利益になるから。今日は学校が終わったら弁明動画と謝罪動画とって、引っ越しの荷造りと部屋の片付けだね」


「うん、そうだね。なんだか希良里きらりちゃんがマネージャーみたいだね」


「全部兄ちゃんがスケジューリングしてくれたから」



 今日は有紗ありさ希良里きらり、それに若菜わかなちゃんは学校にいかないといけない。

 引っ越しに関しては親御さんに連絡してすべて手配してくださるそうなのだが。


「あ、そうだ。さっき親から連絡があって、新しいマンションが確保できたようです」

「えっ!? も、もうですかっ! 昨日の今日ですよねっ」


 なんと昨日電話で連絡してから既に新しいマンションの部屋を確保したらしく、すぐにでも入居が可能らしい。



 姉ちゃんは大学の課題があるので付いてくることができないので、今日は俺と小春こはる紗理奈さりなさんと共に引っ越しのお手伝いをすることになった。



 力仕事要員兼ボディガードってことだな。


 元のマンションはストーカーマネージャーに知られてしまっているので、ヤツが出所する前に引っ越しをしておく必要がある。



 そのために新しい物件が必要なのだが、まさかこんなに早く準備してくるとは、二人のご両親は何者なのだろうか。



「それじゃあ朝食を食べたら出発しましょう」



 ◇◇◇◇◇



 朝食を終えて有紗ありさたちを駅まで送り、若菜わかなさんは念のため姉ちゃんが学校近くまで送ってくれることになった。


「じゃあ姉ちゃん、悪いけど頼むよ」

「おう、任せろ」

「よろしくお願いします」


 姉ちゃんの車に乗り込んだ若菜わかなさんを見送り、俺も有紗ありさ希良里きらりを駅まで送る。


 その途中、後部座席にいる四人は何事か内緒話をしているらしいが、俺は運転席に一人でいるので四人の会話は聞こえなかった。


紗理奈さりなさん、凄いですッ!」

「そんなことナイ……小春こはる、あなたも凄い」


小春こはるちゃんと紗理奈さりなさんって結構気が合うんだね」


 希良里きらりの言うとおり、どうやら小春こはる紗理奈さりなさんはかなり意気投合しているらしい。

 仲睦まじく話している二人を見ると、正反対の性質を持っているのに気が合うようだ。


 同じ背が高い者同士でシンパシーを感じている。という感じだ。聞き取れた会話はそのくらいだが、紗理奈さりなさんも精神的に落ち着いているようだ。


「えっ!? それってっ……ッ」

「ああ、なるほど。それなら良いかも。兄ちゃんの許可取れれば」


 んっ? なんだか聞き取りづらいが俺のことが出ているような。


 結局そのことに関して伝えられることはなく、有紗ありさ達を駅で降ろしてそのまま紗理奈さりなさんのマンションに向かうことになった。



◇◇◇◇◇


 マンションに到着した俺達は早速彼女の指示のもと引っ越しの準備を始める。

 紗理奈さりなさんは日本語が上手ではないので、大雑把な指示を小春こはるが聞き出して紙に書き出すという手法をとった。


 どうやら小春こはる紗理奈さりなさんが何を言いたいのか聞き出すことに長けているようで、ジェスチャーとつたない日本語で伝えられる情報から必要なものを抽出して補足することができている。



「二人は本当に気が合うんだな」


「そうだね。なんだか昔から知ってるみたいに気が合うんだ。しかもね、春から同じ大学に通うんだって」

「え、そうなんですか?」


 これはびっくりな情報である。人の縁とは不思議なもので、世間は狭い。


 それから約2時間、俺達はテキパキと引っ越し準備を終わらせていった。


 紗理奈さりなさんは日本に来たのが最近であり、あまり荷物が多くないようだ。

 なので荷物の中心は二人共用のものと若菜わかなさんの部屋のものになるのだが、女の子の部屋を男が勝手に漁るわけにはいかないので二人に任せて俺は力仕事に専念した。


 そうしてお昼に差し掛かり、そろそろ昼食を取ろうかと相談したところだ。


「お弁当作ってきたよ~」


 小春こはるは手際よく皆のお昼を準備してくれていた。

 キッチンを借りてご飯は炊いてあり、持ってきたおかずを温めて皿に盛り付ける。


 三人で談話をしながら親睦を深め、食後のデザートとお茶をすすっていたところで、紗理奈さりなさんが神妙な顔付きで相談があると持ちかけてきた。


「ワタシ、日本に友達少ない。お二人、紗理奈さりな、友達、なってほしい」

「それはもちろん。同じ大学に通うんだしね」


 この頃になるとすっかり打ち解けて、俺も敬語で話すことはなくなっていた。



「二人に折り入って、相談、ある」


 表情筋があまり動かない紗理奈さりなさんの眉が眉間に寄せられ、机に身を乗り出して迫ってくる。

 よほど真剣らしい雰囲気を漂わせた紗理奈さりなさんは、次の言葉でとんでもないことを言いだした。


「どうしたの紗理奈さりなさん」


「ワタシも、樋口さんのハーレム、入れてほしいっ」


「えっ!?」


 あまりにも衝撃的なお願いに、俺は言葉を失った。


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