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第91話 魔性の希良里【side若菜】前編


【side若菜わかな

 嗚呼、夢なら覚めないでほしい。

 このあり得ない現実の光景が決して夢ではありませんように。


「キララと~」

「アリスの~」


「「キラキラアリス」」


「「ホワイトミルクでゆっくりしましょ♪」」



 キラキラアリスの2人とコラボを始めてから数日が経った。


 撮影スタジオとして使い始めた私達の新居は、キラキラアリスとホワイトミルクが交代で撮影し、お互いの動画にお邪魔しながらコラボをしつつ、たまにドッキリを仕掛けたり仕掛けられたりを繰り返していた。


 動画の再生数は順調に伸びていき、広告も単価の高いものが付き始めるなど相乗効果として非常に好循環が生まれていた。


 今日の私はキラキラアリスの2人に囲まれて動画の撮影をしている。

 お姉ちゃんもいるけど、今日の内容は私がキラキラアリスの2人にメイクをしてもらうという内容で、私としてはハーレム気分を味わっていた。


 希良里きらりちゃんのメイクは一流メイクアーティストもかくやという実力であり、普段自分でやっているそれよりも数段綺麗に仕上がっていく。


 動画のメイク道具の中にさり気なく置いてあるブランドのアイテムは、この後注文が殺到することだろう。


 この相乗効果も相まって私が協賛を受けている企業アイテムの売り上げもこの頃は爆上がりしているらしい。


 加えてその要因となっているのが、あの馬アニキの中の人である樋口順平の編集能力だ。


 彼は自分で全く誇っていないがプロ顔負けの編集センスを持っていて、それがキラキラアリスの動画再生数を数割アップさせていると言っても過言ではない。


 その証拠にホワイトミルクの動画編集も一部プロデュースしてもらった結果、動画の再生数が三割も伸びるという怪現象が起こるほどだった。



 変態マネージャーの魔の手からも、実質的に守ってもらった恩もあるし、あまり露骨に邪険にするのはできなくなりつつあった。


 相変わらず動画の中では寒いポージングで勘違い芸人みたいなことをやっているが、これが意外に好評らしい。


 鍛え込まれた見事な筋肉に魅せられて女性ファンも男性ファンも増えているらしく、しきりにどんな人なのかというコメントが殺到するほどだ。


 大きくて目立つ人なので町中で素顔を見たという人もちらほら出てきており、この間なんか格闘家インフルエンサーからコラボの申し込みがあったほどだ。


 ガタイの良さもあり、明らかに格闘技をやっていることがバレており、馬アニキと勝負してみたいという申し込みが既に何件も来ている。


「それじゃあ今日はちょっときれい系メイクに挑戦してみましょう~」


 希良里きらりちゃんの顔がもの凄く近い位置にある。

 甘くて良い香りが鼻腔をくすぐり、思わず至近距離にある唇にチュッチュしてしまいそうなほどだ。



「はい、じゃあジッとしててねぇ」


 希良里きらりちゃん、睫毛ながい……。瞳キラキラ……。唇ぷるっぷる……。


「キスして良い?」

「え?」


 やばっ! 思わず本音が漏れてしまった。


 希良里きらりちゃんは面食らった表情で私をジッとみている。


 しばらく見つめ合った私達をカメラがじっくりと捉えている。


「ふへへへ……いいよぉ♡」


 MA☆JI☆DE☆ッ!? そんな奇蹟が起こっていいのっ!?


「動画のレーティング的にどうなの?」

「ちょっと編集入るかも~」

――コクコクッ


 有紗ありさちゃんがカメラ係として私の間近にせまってくる。

 コメントを口にしながら私と希良里きらりちゃんを順番に撮し、希良里きらりちゃんが徐々に顔を近づけてくる。


「え……ちょ、ちょちょっと……、え、希良里きらりちゃんっ!?」


「これはもしかしたらカットされるかもしれないねぇ」


 そう言いつつ頬に手を添え、完全にキスを迫る希良里きらりちゃんを払いのけることはできず、固まってしまう私。


――ドキドキッ


 お姉ちゃんはなんだか興奮した様子でこちらをガン見してくる。みてないで助けてよ。いや、助けてもらわないほうがいいのか。


 このまま流れに身を任せたほうが役得かもしれない。


「ん……むちゅ~」

「ふわぁ♡」


 頬に触れるフワフワと柔らかい感触が幸せを感じさせる。温かく、ぬくもりに溢れた優しい感触。

 蜂蜜のように甘い匂いと柔らかくて爽やかなシャンプーの香り。


 同じ女の子なのにどうしてこんなにも良い匂いがするんだろう。

 お姉ちゃんとはまったく異質の可愛い女の子独特の芳醇な香りにドキドキが止まらない。


 我ながら変態的な思考だと思うけど、仕方ないんだ。こんなに可愛い希良里きらりちゃんに間近に迫られて、平常心でいられる訳がない。


「おおー、百合百合しいキッス。妬けちゃうよまったくぅ。じゃあウチもキスしちゃおっと♪」


 カメラを構えたまま有紗ありさちゃんが反対側に陣取って頬を寄せてくる。


「ふわわわぁ~~~、あ、ふ、2人ともぉ♡ そ、そんなことぉ」


 頬の両側に天国を味わって悶える私を、いつの間にかカメラを構えたお姉ちゃんが撮影している。


――フンスフンスッ


 なに妹の痴態ちたい撮って興奮してるのよっ!


 姉は興奮した様子でカメラを構えて色々な角度を撮影し始めた。


 この頃のお姉ちゃんはどうにも向こうサイドの思考で動いているような気がしてならない。


 私の言うことは聞かなくなったし、樋口順平と妙に距離が近いような気がする。


 今日はあの邪魔者はいないけど、できればこの時間がいつまでも続いてほしい。


◇◇◇◇◇


 その夜。今日は樋口順平が諸用とかで実家に帰っている。

 加えてキラキラアリスの2人がウチのマンションに泊まってくれるらしく、引っ越し祝いを兼ねた女子会をすることになった。


「改めて、若菜わかなちゃん、紗理奈さりなさん、お引っ越しお疲れ様でした~」


 希良里きらりちゃんが作ってくれた夕食を囲みながら女子トークに花が咲く。


若菜わかなちゃんは、好きな人とかいないの?」


 女子トークの定番と言えば恋バナだろう。ご多分に漏れず希良里きらりちゃんと有紗ありさちゃんもその類いの話に目をキラキラさせながら迫ってくる。


 とはいえ、私の恋愛対象は女。

 断然女だ。


 だけど、いくら相手がレズビアンを公言しているからと言って早々に気持ちを伝えて良いものだろうか?


「私、若菜わかなちゃんみたいな女の子、結構タイプかも」


 ジュースを飲みながら耳元でそんなことを囁きかけてくる希良里きらりちゃんに心臓がドキッとする。


「えっ、えっ……!? き、希良里きらりちゃん」


 思わず小声で聞き返してしまった。


「ねえねえ、皆で一緒にお風呂入ろうよッ!」


 私が希良里きらりちゃんの突然の誘惑にアワアワしていると、有紗ありさちゃんが突然そんな提案をしてくる。


「あ、イイネ。私は賛成ッ」


「ワタシ、お風呂入れてきマス」


 お姉ちゃんは率先してお風呂の準備に部屋を出て行ってしまう。

 お湯は台所の操作パネルでワンタッチ。だけどバスタオルやパジャマの準備はまだ済んでいないため、お姉ちゃんはそれを準備しにいったに違いない。


 普段は鈍くさいくせに、こういう時は気が利いて行動が早い。


「ねえ若菜わかなちゃん」

「なぁに希良里きらりちゃん……」


 希良里きらりちゃんがソファに座る私の隣に座り、妙に近い距離で詰めながらジッと見つめてくる。


「ど、どうしたの?」

「あのね、若菜わかなちゃんって、女の子同士の恋愛って、どう思う?」


「ど、どう……って?」


「率直に、男の子と女の子、付き合うならどっちがいいって話……」


「そ、それは」


 あまりにもストレートな質問にどう答えて良いか分からず固まってしまう。

 しかしそんな私の困惑を楽しむように、希良里きらりちゃんはそっと私の手を握って更に距離を縮めてきた。


「ねえ、私ね……レズだって公言してるけど、ガチのガチなんだよね……。それでさ」


 ゴクリ……


「ぶっちゃけ、女の子同士のエッチに、興味ない?」


「そ、それは……」

「私、直感で若菜わかなちゃんは私達側の人間だと思ってるんだけど、どうかな?」


「やっぱり、有紗ありさちゃんとも、エッチ、したの?」

「うん、してるよ。知ってる? 女の子同士のエッチって、凄く気持ち良いんだよ♡」


 ズクリ……と子宮の辺りが疼いた気がした。

 まだ何者にも触れられて居ない無垢の丘。その象徴たる処女膜が脈打ってくる。


 恋愛対象が女である以上、そんなものにはこだわっていない。


「お風呂準備できたデス……」


「ハッ! そ、そろそろ行こっかっ」


「クスッ……若菜わかなちゃん、私、本気だからね」


「え……」


 蠱惑的で怪しい瞳を向けてくる希良里きらりちゃんに、私の心臓は痛いほど早打ちをしていた。


 お風呂での希良里きらりちゃんは私に視線を送りながらボディタッチを繰り返してきた。


 でもギリギリのところで一線は越えない。

 もどかしさとドキドキが止まらなくて、思わず彼女のあまりにも綺麗すぎる裸体に釘付けになる。


 それからお風呂に皆で入って洗いっこして、ガールズトークに花を咲かせて就寝となった。


「はぁ……。ドキドキする」


 綺麗だったなぁ。同じ女の子なのに……。あんなに綺麗だなんて反則だよ。


 私は彼女のあられもない姿や洗いっこしたときの肌の感触を思い出しながら興奮を高めていく。



 私が自室へ入ってベッドに入り、しばらくの時間が経過した夜中……。


 思いだした情景が少しずつ興奮を高め、私はとうとう右手を……。


――コンコン


「はひっ」


 登り詰めようとした瞬間、その音に我へと帰った。


 控え目なノックの音が鳴り響き、開いたドアからは色っぽいネグリジェを身につけたノーブラの希良里きらりちゃんが

……。


「こんばんわ♡」


 蠱惑的で妖艶な笑みを浮かべて私の部屋に入ってきた……。


 下半身が疼いたのが分かった。




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