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第12話:光と影の最終対決

大型イベント本番当日。

スターライト企画のオフィスは、成功への期待と、張り詰めた緊張感に包まれていた。

私とリョウの「絆の連携作戦」チームは、最終チェックに余念がない。

しかし、私の脳裏には、昨日明かされたタナカ役員の不正会計の証拠と、ミサキの複雑な表情が焼き付いていた。


(私たちに残された時間は、もうない。今日、この場で、全てを終わらせる……!)


私は、リョウと顔を見合わせ、小さく頷いた。

私たちの手には、タナカ役員を追い詰める切り札、そしてミサキの過去の真実を明らかにする証拠が握られている。


イベント開場まで残り一時間。

タナカ役員は、にこやかに来賓や関係者と挨拶を交わしている。

その隣には、どこか落ち着かない様子のサカモトが控えていた。

ミサキの姿は、まだ見えない。


「リョウさん、今です!」


私は、リョウに合図を送った。

リョウは、懐からUSBメモリを取り出し、隣にいたユウトに目配せする。

ユウトは、そのUSBメモリを手に、会場の裏にある音響・映像ブースへと向かった。


私たちは、来賓通路でタナカ役員とサカモトの前に立ちはだかった。


「タナカ役員、お話があります」私の声は、驚くほど冷静だった。


タナカ役員は、一瞬ぎょっとした表情を見せたが、すぐに営業用の笑顔を取り繕った。

「おお、ハルカ君、リョウ君。今日は最高のイベントになりそうだね。君たちの頑張りには感心しているよ」


「ありがとうございます。ですが、お話ししたいのは、それとは別のことです」


リョウが、静かに核心を突いた。

「我々は、あなたがこの大型イベントの予算を不正に操作し、架空請求と二重計上によって企画を潰そうとしていた証拠を掴んでいます。タナカ役員」


タナカ役員の顔から、血の気が引いた。

サカモトの顔も青ざめ、視線が泳ぐ。

「何を言っているのかね? 根も葉もない噂で、この神聖な場で騒ぎを起こす気かね!」


「これは噂ではありません。全て証拠があります」


私が手にしていた書類ファイルを開き、不正会計のデータの一部が印刷された紙を見せた。

タナカ役員の顔が、みるみるうちに怒りで歪む。


「……貴様ら、どこでそんなものを……!?」


その時、会場内の巨大スクリーンに異変が起きた。

イベントのオープニング映像が流れるはずのスクリーンに、突如、私たちが見せようとしていた不正会計のデータ、そしてタナカ役員とサカモトの裏工作を示すメールのやり取りが、次々と映し出され始めたのだ。


「な、なんだこれは!?」タナカ役員が狼狽した声を上げた。


会場がざわめき始める。

来賓や関係者たちが、スクリーンに映し出された不正の証拠に、戸惑いと疑惑の視線を向けていた。


「このデータは、タナカ役員が過去に関与した、5年前のプロジェクトの不正会計とも深く関係しています。その責任を、当時ミサキさんに押し付けたことも……」


リョウの声が、会場のざわめきを切り裂くように響いた。


その瞬間、会場の隅で立ち尽くしていたミサキの体が、微かに震えるのが見えた。

スクリーンに映し出される証拠と、過去の出来事を結びつけ、青ざめていた。

その瞳には、深い驚きと、苦痛が入り混じっていた。


タナカ役員は、完全に冷静さを失っていた。

「誰だ! こんなデタラメを流したのは! サカモト、どういうことだ!」


サカモトは、震えながら後ずさった。

「わ、私には……!」


その時、ユウトが音響ブースから姿を現し、自信に満ちた表情で私たちに頷いた。

彼は、私とリョウの「絆の連携作戦」を信じ、この一世一代の作戦に貢献してくれたのだ。


不正の証拠がスクリーンに映し出され、会場の混乱が最高潮に達する中、一人の男性が静かに立ち上がった。

スターライト企画の社長だった。

彼は、厳しい表情でタナカ役員を見つめると、ゆっくりとマイクを握った。


「タナカ役員、サカモト君。この場で、全て説明してもらおうか。これは、スターライト企画の信頼を揺るがす、極めて重大な事態だ」


社長の声は、会場全体に響き渡った。

タナカ役員の顔は土気色になり、サカモトは完全にその場に崩れ落ちた。


ミサキは、その場で立ち尽くしていた。

スクリーンに映し出される不正の証拠、そして社長の言葉。

彼女は、自分が長年抱えてきた憎悪と復讐心が、他者に利用されていたことを悟ったのだ。

その瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

彼女の心の中で、何かが音を立てて崩れていく。


私は、ミサキに歩み寄った。

「ミサキさん……! あなたは、一人じゃなかった。過去の過ちも、これから全てをやり直せるはずです」


私の言葉に、ミサキは顔を上げた。

その目に宿るものは、もはや憎悪ではなく、深い絶望と、わずかな迷いだった。


リョウが、私の隣に立った。

「我々は、このイベントを必ず成功させる。そして、スターライト企画の『絆』の理念を、本当の意味で体現する」


私たちの視線は、イベント会場の入り口に向けられていた。

間もなく、来場者たちがこの場所に足を踏み入れる。


大型イベントの開演が告げられた。

社長の指示により、不正の証拠は一度消されたが、会場の空気はすでに一変していた。

しかし、私たちの企画は、この混乱を乗り越え、必ずや「絆」の力を証明するだろう。


スターライト企画の未来を賭けた、光と影の最終決戦は、今、まさに、その幕を開けたばかりだった。


(つづく)

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