迫る影、タナカ役員の企み。
大型イベントの準備は最終段階に入り、オフィスの熱気は最高潮に達していた。
私とリョウの「絆の連携作戦」は、チームの結束力を確かなものにし、ミサキの妨害はもはや意味をなさなかった。
しかし、私の心には、明かされた「影の存在」、つまりタナカ役員とサカモト、そして彼らに利用されているミサキの存在が深く刻まれていた。
彼らが、ただの嫌がらせで終わるはずがない。
私の直感センサーは、まるで嵐の前の静けさのように、不穏な空気を察知していた。
その数日後、私は耳を疑うような情報を耳にした。
社内会議で、タナカ役員が今回の大型イベントについて、「予算が想定以上に膨れ上がっており、一部企画の見直し、あるいは規模縮小の検討が必要」と発言したというのだ。
「えっ、そんなはずは! 予算は厳しく管理していますし、すでに最終段階ですよ!?」
私が慌ててリョウに報告すると、彼の顔に緊張が走った。
「やはり来たか。奴らの狙いはそこだろう。イベントの失敗ではなく、その『規模縮小』や『企画変更』によって、我々の『絆』という理念そのものを矮小化しようとしている」
リョウは即座にユウトに連絡を取った。
「ユウト、タナカ役員が発言した『予算の膨張』について、経理部で何か不審な動きはないか、緊急で調べてくれ。特にサカモトの動きに注意だ」
ユウトの潜入、暴かれる不正会計。
その夜遅く。
オフィスには私とリョウだけが残っていた。
不安に苛まれながら資料をチェックしていると、ユウトから一本の電話が入った。
「リョウさん、ハルカちゃん、やったよ! サカモトが作った経費報告書に、二重計上と架空請求の痕跡を見つけた! しかも、その指示を出していたのは……タナカ役員だよ」
ユウトの声は興奮と怒りに震えていた。
「彼らは、最初からイベントの予算を不正に操作し、わざと赤字に見せかけることで、企画自体を潰そうとしていたんだ! その証拠のデータ、今からメールで送る!」
送られてきたデータを見て、私たちは言葉を失った。
そこには、信じられないほどの金額が、意味不明な項目に計上され、本来の予算を遥かに超える赤字が偽装されていた。
「こんな、こんな卑劣な手口……!」私の怒りが込み上げた。
リョウはデータを見つめながら、静かに言った。
「ミサキは、おそらくこの不正会計の一部に協力させられていたのだろう。彼女もまた、タナカ役員とサカモトの『復讐』という名の罠に、深く絡め取られている」
その時、私の直感センサーが、不意に別の方向へ、かすかな光を放った。
それは、不正会計のデータの中に、これまで私が見てきたミサキの過去のプロジェクトに関する、ある数字と奇妙に一致する部分がある、という感覚だった。
「リョウさん! この数字……見てください! これ、ミサキさんが担当していた5年前のプロジェクトの失敗と、関係ありませんか!?」
私の指摘に、リョウは驚いたように画面を凝視した。
「まさか……! この架空計上されている項目、もしやあの時の失敗の責任をミサキに押し付けるための……」
「ええ。この不正が暴かれれば、タナカ役員とサカモトだけでなく、5年前のミサキさんの『失敗』の真実も、同時に白日の下に晒されることになるんです!」
最終決断、そしてミサキの葛藤。
この不正会計の証拠は、タナカ役員とサカモトを追い詰める切り札となる。
しかし、同時に、過去のプロジェクトの失敗が「不正会計」によるものだったと判明すれば、ミサキの立場も危うくなる。
彼女は、タナカ役員に利用されていた被害者であると同時に、不正に加担してしまっていた可能性もあるのだ。
「どうする、ハルカ。この証拠を公表すれば、奴らを一網打尽にできる。だが、ミサキにも大きな代償を払わせることになる」リョウが静かに問いかけた。
私は、深く息を吸った。ミサキへの個人的な感情はあった。
彼女もまた、タナカ役員の陰謀に巻き込まれた被害者かもしれない。
そして、何よりも、このままではスターライト企画の未来が危うい。
「リョウさん。私たちは、『絆』の企画で、誰も犠牲にしない未来を作るって決めました。ミサキさんの過去を暴くことになっても、彼女を救う道を探しながら、この不正を正すしかありません」
私の瞳に、強い決意が宿った。
「この証拠を手に、私たちはタナカ役員に直接乗り込みます。彼らの真の目的を暴き、このイベントを、そしてスターライト企画を守ります!」
リョウは、私の言葉を聞き、深く頷いた。
彼の表情には、私への確かな信頼が満ちていた。
その夜、遠く離れた場所で。
ミサキは、タナカ役員から送られてきた一枚のメールを見ていた。
その内容は、ハルカたちの企画を最終的に潰すための、新たな指示だった。
しかし、彼女の心は、勝利への期待とは裏腹に、かつてないほどの深い葛藤に苛まれていた。
大型イベントの成功を賭けた、スターライト企画の「絆」をかけた真の最終決戦が、いよいよ幕を開けようとしていた。
暴かれる不正、明かされる真実、そして「絆」が試される時。
(つづく)