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第10話:暴かれる過去、渦巻く因縁

直感の警鐘、影の深奥へ。

大型イベントの準備は最終段階に入り、オフィスの熱気は最高潮に達していた。

私とリョウの「絆の連携作戦」は、チームの結束力を確かなものにし、ミサキの妨害はもはや意味をなさなかった。


しかし、私の心には、拭いきれない違和感が残っていた。

それは、「褒め殺し」の時から感じていた、ミサキの策略があまりにも完璧で、用意周到だったことへの疑念だ。

まるで、誰かの手引きがあるかのような……。


私の直感センサーは、今、これまでにないほど強く警鐘を鳴らしていた。

それは、ミサキの個人的な感情的な妨害とは異なる、もっと組織的で、計算された悪意の気配。

スターライト企画の根幹を揺るがしかねない、巨大な陰謀の予感だった。


最近、ミサキが、誰も見ていないところでスマートフォンを頻繁にチェックし、どこかに連絡を取っているような不審な行動が目につくようになっていた。

特に、これまで接点のなかった経理部のフロアへ、頻繁に出入りしている姿は、私にとって大きな疑問だった。


ユウトの告白、明かされる因縁。

ある日の午後、私は休憩室でコーヒーを淹れていたリョウに、その疑念を打ち明けた。

リョウは、私の言葉にコーヒーカップを持つ手を止め、静かに耳を傾けていた。

彼の表情は、私の直感に共鳴しているようだった。


「お前もそう感じたか。確かに、奴の常套手段ではあるが、今回は細部の詰めが異常に周到だった。あれは、ミサキ一人で全てを構築できるレベルではない」


「やっぱり……! 私の気のせいじゃなかったんですね。じゃあ、ミサキさんの後ろに、協力者がいるってことですか? 一体、誰が……? そして、何を目的としているんですか?」


リョウは腕を組み、考え込むように天井を見上げた。


「可能性はある。特に、スターライト企画の理念や、現体制に不満を抱く者であれば、手を組むこともあり得るだろう。その目的は、このイベントを『失敗』させることで、会社全体の改革を止めようとしているのかもしれない」


その時、喫茶店「ルナ」のナツミ姉貴が店番を代わってくれたユウトが、私たちのテーブルに、いつもとは違う真剣な表情で歩み寄ってきた。

彼は、手に古びた一枚の資料を握りしめていた。


「実は、この件、俺も調べてたんだ……。ミサキさんの、ある過去のプロジェクトについてだ」


ユウトはそう言って、資料をテーブルに広げた。

それは、5年前のスターライト企画の社内資料だった。

そこには、ミサキと、経理部のサカモトという男の名前が、主要メンバーとして並んでいた。


「サカモトさんって……社内でかなり評判の悪い、策士だって噂されてる人ですよね?」私が思わず声を上げた。


ユウトは頷いた。

「ああ。このプロジェクトは、『成果至上主義』を掲げた大規模なもので、ミサキさんも当時、かなり力を入れてたらしい。最終的に巨額の赤字を出して失敗に終わった。その責任を、ミサキさん一人に押し付けて、彼女は左遷に近い部署異動をさせられたんだ」


私の心臓が、ドクンと音を立てた。

ユウトの言葉は、私の直感センサーが捉えていた「違和感」の正体を、鮮やかに暴き出していく。


「…じゃあ、サカモトさんは、ミサキさんを裏切ったんですか?」私は息を呑んだ。


ユウトは首を振った。

「いや、それだけじゃない。この資料の最後のページを見て」


ユウトが指さす先には、当時のプロジェクトの責任者の名前があった。

それは、現在のスターライト企画の「役員」の一人、タナカだった。


「タナカ役員は、あの失敗の責任をミサキさんに押し付け、自らは巧みに責任逃れをして出世していった。そしてサカモトは、そのタナカ役員の『忠実な駒』として、裏で暗躍していたんだ」


リョウの表情が、一気に険しくなった。

「つまり、ミサキはサカモトに利用され、そのサカモトはタナカ役員の手先だと……。そして、あの失敗によって、ミサキは『絆』や『信頼』という理念を徹底的に否定するようになった、と」


「その通りだ。彼女は、あの事件で、心を閉ざしてしまった。今回の『絆の連携作戦』は、彼女にとって、当時の屈辱を思い出させるもの。だからこそ、ミサキさんは、この企画を失敗させることで、タナカ役員に、そして『絆』という理念に、復讐しようとしているんだ」


ユウトの言葉は、ミサキのこれまでの執拗な嫌がらせの「真の動機」を明らかにした。

それは単なる個人的な嫉妬ではなく、過去の悲劇と、会社の上層部が絡む、深く根付いた因縁だったのだ。


狙われる核心、迫る最終決戦。

私の直感センサーは、今、「タナカ役員」という明確な標的を指し示していた。

そして、ミサキとサカモトが、そのタナカ役員の指示の下、このイベントを内部から破壊しようとしているという事実。


「まさか、そんな……! じゃあ、今までのミサキさんの妨害は、全てタナカ役員の指示だったと!?」


リョウは、静かに頷いた。

「恐らくはな。そして、奴らの狙いは、大型イベントの失敗だけでは終わらないだろう。この失敗を足がかりに、スターライト企画の現体制を揺るがし、会社を意のままに操ろうとしているのかもしれない。」


背筋に冷たいものが走った。

大型イベントの成功は、単なる企画の勝利ではない。

それは、スターライト企画の「未来」を賭けた、壮大な戦いだったのだ。


「どうすればいいんですか……? 今から、そんな大きな陰謀を暴けるんでしょうか?」


私の焦燥に対し、リョウは力強く私の肩を掴んだ。

「焦るな、ハルカ。光が強ければ強いほど、影は色濃く浮き出る。奴らは、もう後戻りできないところまで来ている。必ずボロを出す」


彼の言葉に、私は深く頷いた。

ミサキの過去、そしてその背後に隠れた巨大な陰謀。

見えない敵の影が、今、はっきりとその姿を現した。


「ユウトさん、ありがとう。本当にありがとう!」


私は、ユウトの手を強く握りしめた。

ユウトは、いつもの飄々とした笑顔を浮かべたが、その瞳には私たちへの確かな信頼が宿っていた。


大型イベントの成功は目前に迫っている。

しかし、本当の戦いは、ここから始まる。

スターライト企画に新たな風を吹き込むための、絆をかけた戦いは、今、因縁の最終決戦へと加速する。


ミサキの憎悪の根源、そして「影の存在」との恐るべき因縁が明かされた。

この大型イベントは、スターライト企画の未来を賭けた、壮絶な戦いの舞台となる!


(つづく)

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