アメリカ軍豊島基地でプライベートジェットからNIPPONの地に降り立ったステイト、サム、ガトリーの三人。
米兵から説明を受ける。「基地の中は安全です。NIPPONじゅうのあちこちに基地はあります。この、OLD TOKYOにも、もちろん。豊島基地だけじゃない。まず、NIPPONの無法地帯で困ったことがあれば、基地に逃げ込んでください。それと、」
米兵は満面の笑みで言った。「米軍基地内では当然、殺し、麻薬、レイプ、禁止になります。そりゃそうです。それがしたきゃNIPPONの無法地帯でやってください」
米兵は得意気に首を傾けた。「このあと、同意書に署名いただきます。まず、我々はNIPPONの無法地帯内での命の安全を保障するものではありません。それから、NIPPONの無法地帯内でこれからお待ちかねの犯罪行為をおこなうんだと思いますが。いや、知りませんけどね」
米兵はウインクして見せた。「NIPPONの無法地帯でおこなった不法行為については、米軍基地に戻ってきた段階で自己申告してください。即刻、NIPPONから米国に犯罪人引渡しとなり、NIPPONから米国に強制送還される形になって、米国内では検察の聴取がありますが、もちろんそれは不起訴になる。ここまでが暗黙の了解です。そう。それは、もちろん。NIPPONはゲームですから。でも、ゲームと違うこともある。NIPPONでは統一の警察機構は壊滅しています。その代わり、各地に自警団が乱立している。彼らに捕まると、ちょっと面倒くさいことになります。ですから、NIPPONの無法地帯内では、我々米兵が、ゲストお一人につき二人ずつ配属されますので、どんな時も、米兵から離れないでください。それから……。ゲームと違うことですね。まあ、死んだら終わりです。リセットなんてものはありません。……。いや、冗談ですよ。笑うところです。皆さん、もっとリラックスして。肩の力を抜かないとNIPPONは楽しめませんよ。あと、ゲームと違うところといえば、例えば犯罪を起こして、自警団に目をつけられたとする。ゲームなら、指名手配ゲージが下がるまでNPCの警察から逃げ回ればいいわけですが、現実のNIPPONじゃあそう簡単ではありません。とにかく、皆さんの犯罪行為については形式上、無法地帯滞在中は我々米兵は目をつむりますが、米兵はあくまでゲストの護衛であって、戦力とは思わないでくださいね。……と、そんなところかな」
米兵は、右斜め上の宙を見たあと、思い出したようにこう言った。「それから、我々が注意しなければならないのは自警団だけではありません。若年層解放戦線。日本語読みの頭文字を取って『JKS』というグループがあります。グループを束ねるリーダーは桐島という詳細不明の男です。彼らは文字通り、若年層のNIPPON人にアメリカの永住権を与え、アメリカで働かせることを求めています。みなさんも、聞いたことありませんか?NIPPONで行方不明になったセレブの話。歌手のサラ・ショーマンとか、俳優のデービス・サモーン。それから、配信者のエンドオブザワールド。事実は不明ですが、JKSの人質として捕まっているなんて話もあります」
ひとしきり米兵が話すと、三人は同意書に署名をし、それぞれが希望の地へと出発する運びとなった。
サムは、「俺は、やっぱり上司と何人ジャップを殺したかを競っているから、確実に殺れる高齢者が多い……、そうだな。秩父あたりに行こうか」と言った。
ガトリーは、「俺はやっぱり女だ。いまだにOLD TOKYOで浮浪者をやってる女たちも、ちゃんとシャワー浴びさせたら、なかなかいけるんだぜ」と言った。
米兵が「ステイトさんはどうされます?」と聞いてきた。
ステイトは「そうだな……。せっかく、NIPPONに来たんだから、富士山のほうにでも言ってみようかな」
これに対し、サムとガトリーが大口を開けて笑った。「なあ、おい。正気かよ。ここは、昔のNIPPONじゃないんだぜ?昔の楽しみ方すぎるって」
ところが、米兵はいたって真面目な顔をした。「いえ。富士山のあたりには古くからの自殺スポットがあるんです。そこは、いまだに自殺スポットとしてNIPPON人に人気で……」
米兵はステイトに目配せした。「わかるでしょう?自殺志願者なら、殺しても心はそんなに痛まないはずだし、それに向こうもこっちを襲ってきませんからね。さあ、楽しみましょう」
三人はそれぞれ二人の米兵が同乗する三台のランドクルーザーに乗り込み、NIPPONの各地の無法地帯へと散っていった。
さあて、ようやくゲームが始まろうとしているぞ。
※
富士山に向かうランドクルーザーの中で、ステイトはホッとしていた。(まだ、メアリーの死体は発見されていないようだ。アメリカの警察の手が回るのが早ければ、豊島基地に着いた段階で逮捕されるのもやむなしと思っていたんだが……。これで、お目付け役は、この米兵二人しかいなくなった。もし、俺の殺しの件がこの二人の耳に入った様子ならば、その時はすぐに二人を撒けばいい。まあ、俺の地獄での生活はもう後戻りできないよ。NIPPONはサムとかガトリーにとっては、楽園かもしれないが……。俺にとっては、死に場所であり、死ぬまでは地獄のような場所になるんだろうな)
【つづく】